「えっ!それ本当ですか?」
耳を疑うような、その一言。コーヒーを飲む手を止めながら続きを促す。
「えぇ。あの「企業」、実はかなりブラックなんですよね。」
喜々として語る彼の表情とは裏腹に、話題は実にキナ臭い内容である。
それは先日、都内の喫茶店での打合せの際に話題にのぼった、愛知県の片田舎が発祥の超有名「企業」について話していた時のことである。
豊富な資金力をバックに、瞬く間に全国に展開したその「企業」の名は、恐らく知らない人はいないくらいにメジャーである。
「でも、能力があれば経歴や年齢を問わず誰でもチャンスが掴めるっていう話ですよね?確か今の取締役の何人かもヒラで入った叩き上げだったはず。」
「そうですね。他にも役職に就いている多くの方が経歴や年齢に関係なく、能力だけでそこまで出世しています。」
しかしね…、思わせぶりにテーブルを指でトントンと叩きながら話しを続ける。
「出世すればするほど、その能力が酷使されて行くんです。もう、擂り潰されると言った方がいいくらいですかね~。」
なおも楽しげに語る彼であるが、話題はとても笑えるようなものではない。しかも、「擂り潰される」って、一体、どれだけヤバいんだ?
「例えば各取締役にはそれぞれに巨大なプロジェクトが任されているんですが、それに集中できるかと言えばそうでもないんですね。新規で他にプロジェクトが立ち上がれば、その手伝いもしなければなりませんし、担当ではない地域に突如、行かされる時もあります。それぞれが、大きなプロジェクトを抱えさせられたまま、まさに取締役たちは日々、東奔西走させられてますよ。」
そして、もちろん結果が出なければ…
「即、解任ですね。以前も先代から仕えていた取締役が、結果がでないことを理由に解任です。」
つまりは、過去の功績は評価されず、常にその時の結果ばかりが求められるという事か…。
「そしてね、その「企業」にとって最も悪いのは…」ここからの話しが肝要だと、テーブルから身を乗り出さんばかりの前のめりで、顔を近付けてくる。
「トップが優秀すぎる事です。」
トップが優秀なのが悪い?優秀なのはむしろ良いことではないのか?
確かに、そのトップは優秀である。
常識を覆すような戦略、戦術で短期間のうちに勢力を拡大させ、「時代の革命児」とまで言われているのは有名な話。
その他、今までにない拠点の運営方法を編み出したり、物流の仕組みを変えて、大きな収益を産み出すなど、天才的な手腕を発揮させ続けている。
また、豊富な資金をバックに政界にも太いパイプを築いているという。
経営者に迎えたい人物ランキングでも常に上位に入る事もうなずける。
まさに「カリスマ」なのである。
今ひとつ、納得の行かない顔をしていたからだろうか。彼は私の心を見透かしたようにニヤッと笑い、再び話しだす。
「もちろん優秀なのは良いことですよ。でも、それだけじゃないからタチが悪い。」
焦らすように、こちらの顔色を伺いながら彼は続ける。
「トップがその「企業」の中で最も働いて、しかも、最も成果を挙げてしまうんですね。」
でも、何故それが…?
「トップは自分が出来るもんだから、他の人にも自分と同じレベルで仕事をすることを求めてしまうんですね。でも、それってトップがある意味「天才」だから出来ていることであって、求められた方にしてみれば、たまったもんじゃないですよね。」
あ!そういう事なのか!
「でも取締役だって、かなり優秀な方ばかりですよね?それでもトップには敵わないんですか?」
予想通りの質問だったからだろうか、彼は満足気に答える。
「その通りです。もちろん取締役たちは、いずれも他の大企業のトップとしても十分にやって行ける能力を持っていると思います。それでもトップを凌げるほどの人材は、あの「企業」にはいません。」
そうなると、もはや人を通り越して「神」レベルにすら感じられてくる。
「それは、確かに着いて行く方も大変ですね…。でも、今の勢いはハンパないですし、このまま、さらに急成長を遂げて行くんでしょうね。」
そう呟く私に、すぐには答えず笑みを向ける彼。いや、笑ってはいるが、目には酷薄な光が宿っているようにも感じられる。何なんだ?
そして、おもむろに開いた口から出てきた言葉は、さらに衝撃的なものだった。
「あの「企業」、それほど長くは続かないでしょう。」
いや、あり得ない!あれだけの「企業」が、そう簡単に倒れるなんて!
しかし、驚く私を尻目に話は進んで行く。
「実は、前々からあの「企業」が長くは続かないって話は出ていたんですよ。中国地方で競合する、ある「企業」の幹部も、しばらくは勢いだけで成長するだろうけど、コケる時は一気に大きくコケるって話してましたからね。」
それに…と、さらに追い討ちをかけるような一言を差し向けてくる。
「取締役を始めとする幹部たちが、ここまで酷使されているんです。当然、クーデターが起こったって何の不思議もない。」
もはや、完全に二の句も告げず、呆然とする私。そんなことが本当に起こり得るのか…?
“一生に一度”を旅でデザインする、感動トラベルプランナー、須田 久仁彦です。
この驚くような「企業」の話。でも、事実だったんです!
ただし、今から約430年ほど前の話ですが…。
この「企業」は戦国時代の織田家。そして、そのトップこそ、あの織田信長です。
当時の織田家の内情を現代に置き換えてみたらどうなるか?と書いてみましたが、織田家、相当な「ブラック企業」ですね。
このように、歴史上の事件や出来事を現代の話しに置き換えてみたり、また現代のどんなところに影響を与えているのかが分かると、歴史がより身近に、よりリアルに感じられる。
そんな事を体験したのは、ある方の講座を受講した時です。
「学び直し日本史」と題されたその講座は、何と1日で日本史を学び直してしまおうという、ちょっと無理があるかな?と思えるような内容でした。
興味本位で参加したものの、その講師の方の各時代ごとのエッセンスを巧みに現代の事例に置き換えて行ったり、それが現代にどのような影響を与えているかの説明は分かりやすい上に、本当に面白い!
現代とシンクロさせての説明ですので「過去」と「現代」が密接につながって、それで歴史がより身近でリアルに感じさせられたんですね。
私自身、子どもの頃から歴史が好きですし、それぞれの出来事はもちろん知っていたのですが、講義を聞きながら、改めて歴史の新しい見方や面白さを発見することが出来ました!
この体験を、また別の機会に味わえないものか?と思っていましたが、興味深い展覧会が開催されますので、いっそのこと私自身でイベントを企画してみようと思い立ちました。
その展覧会とは11月23日から江戸東京博物館で開催される「戦国時代展」です。
歴史好きの中でもファンの多いこの時代。「戦国時代」という呼び方からは日本全国で日々、激しい戦闘が行われ続けた時代とも思われがちですが、実はそうでもないのです。
また、この時代は今に馴染みのある、日本の伝統文化の多くが生まれる時代でもあります。
そして、この「戦国時代展」を一緒に見ながら解説して頂く講師には、もちろん、先ほどご紹介した私が受講した講座の講師、“過去と現在を自在にシンクロさせる、ヒストリー・ナビゲーター”藤城 徹さんをお迎えします。
現在、藤城さんと「戦国時代展」をどのような切り口から楽しんでもらおうかと企画中です。
歴史好きな方に楽しんで頂けるのはもちろん、特に、歴史が苦手・嫌いな方が、この機会に少しでも歴史に興味を持って頂けるように企んでいます。
日程や詳細などは、また改めてご案内いたします。
と言う事で、以上、イベントの予告でした笑。