福島の原発事故は今でも気になる日本のニュースで、定期的にチェックしているのですが、今になってやっと東電が1号機の全炉心溶融(メルトダウン)および圧力容器の損傷を公式に認めたとか。
3月13日の時点でアメリカの原子力規制委員会は1号機の炉心溶融の可能性を指摘(http://www.cnn.co.jp/usa/30002127.html )、避難の必要な区域などについても結局のところ、一番直接的にデータの得られた日本政府の出した勧告は不適切で、諸外国が事故直後に日本在住の自国民に対して出した避難勧告(半径80キロ範囲や東日本全体、ないしは日本全国からの退避)の方がずっと的を得ていたという。
最近圧力容器の水位計を調整したら、実際の水位は今まで鵜呑みにしていた数値よりも3.5メートル以上低かった、なんて、小学生の理科の実験じゃないんだから、ねえ。以前も換算間違いとか何度も起きてたし。
以下はかれこれ1ヶ月前位に下書きしていたものなのですが、それにも増してまた日本のリーダーシップにはがっかりさせられました。日本国内外を問わず、市民の草の根レベルでは素晴らしいことが沢山実現しているのに、本当に残念です。
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福島第一原発が予期せぬ大津波のために電源を全て喪失してしまったというのはまあわかるんですが、
東電の施設だからといって地域の電力供給者である東北電力のグリッドに繋がれておらず、事故が起きてから初めて、放射線量の高い地域に生身の作業員を入れて電線を敷設しているとか、
他の業種では必要ない被爆は極力避けるというのがゴールデンルールになっているのに、敷地外での遠隔モニタリングや遠隔作業のシステムがないとか、
電源が落ちているから原子炉の温度や圧力が把握できません、とか、
え、これ21世紀の日本の話?って感じでした。
しかも、電源が復活したからと、「想定外」の激しい揺れと突如の電力喪失を経験した計器類の値をそのまま信用していいのかなあ、と・・・保安院の報告を聞いていても、例えば容器内の圧力にしても、一つの容器に独立した圧力計が5~6個あって、そのうち生きているもの3~4個の平均値を読んでいる、というわけでもないみたいだし。
小学生時代に購読していた学研の「科学」の裏表紙には、たびたび「原子力発電=21世紀のクリーンエネルギー」といった趣旨の広告が載っていました。それを読んで育った世代としては、
免震棟には多量の放射線に耐える作業用ロボットの類が多数取り揃えられていて、もし事故が起きたらまずNASAの月面探査機みたいなロボットにガイガーカウンターを持って行かせて、無人で放射線量をモニタリングしてからそれに合わせて作業計画を練って作業員を入れる
ようなものだと想像していたのですが。
何十人も作業してるのに線量計を持ってたのは一人だけ、とかありえな過ぎる~。発展途上国の鉱山で、基本的人権さえ保障されていない貧しい労働者がヘルメットや防塵マスクなしで作業させられている、とかいうのと同じレベルじゃないですか?レントゲン技師やごく微量のRIを使う研究者だって個々にフィルムバッジで累積被爆量を測っているのに。
3人の下請け作業員が足を汚染水に浸けて被爆したって話も、線量計のアラームが鳴っても間違いだと思って無視したって話だけど、この3人、3人ともきちんと線量計持ってたわけじゃないよね?3個の線量計が全て鳴りだしたのに、全部間違いだと思う人が3人揃ってるって、確率的にかなり低いと思います。
多分3人に対して一個しか支給されていなくて、前日そこで作業した時は放射線量は低かったという情報を信用し、他機の同じ部分(タービン建屋)で高濃度の汚染水が検出されたという情報は隠されていた、だからアラームが鳴っても間違い、足元の水も汚染されていないと思って、彼らとしては上からの指示を全うすべく作業を継続したんでしょう。
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原子力安全・保安院の(当時)審議官で、当初の記者会見で1号機の炉心溶融の可能性を指摘した中村幸一郎氏は、国民の不安を煽ったとかで即刻菅首相により更迭されています。その後記者会見に出ている西山英彦氏は(経産省の分家的存在の)原子力安全・保安員の審議官ではなく、本家経産省の上級ポストである「官房審議官(通商政策局担当)」なんですね。西山氏はもともと法学部卒で、(恐らく当時の通産省の国費留学枠で)ハーバードのローを修了。もともと通商畑の人みたいで、ジェトロのNYセンターの次長を務めたりしていたよう。ネット上では西山氏の経歴がいかに輝かしいかについての記述が多いんですね。殆どの場合は原子力については詳しくないので保安院の記者会見には不適任とのオチがありますが。
対照的に、地道にエネルギー畑で経歴を積んできたとされる中村氏。しかし彼は(下記履歴参照)パリにあるOECDの傘下のIEA(国際エネルギー機関)に4年間も派遣され、諸外国からの派遣者たちと肩を並べて仕事をしていたわけで、今回のようにIAEAをはじめとする国際機関や各国の原子力専門機関にデータを公表したり、技術支援を要請したり、汚染水の海洋への放水に国際的同意を得るために努力したり、といった職務には非常に適任だったと思うのですが。
まあ、一度更迭した人物に、「こっちが間違ってました。あなたの判断は正しかった。済みません。」なんて謝罪して戻ってきてもらう、なんてことは日本の政治の世界ではありえないことなんでしょうけれど。
ちょっと穿ったものの見方をすれば、原子力発電の技術者で実務経験が豊富、しかも発電分野において国際的人脈がある、そんな人物によって国内外に迅速に事実(=如何にまずい事態になっているか)が伝わっては日本政府や東電の面子が丸潰れ、ってことだったのかな、と。実際、事故直後から原子力発電の先進国、かつ国際的な原発のイメージ低下を懸念したフランスやアメリカから政府レベルで迅速な技術援助の申し出があったのに、その時点では受け入れず、自分達では収集がつかなくなってからフランスのアレバなどに会社レベルで東電が援助を打診していた始末。
今となってみれば、最初から安全側に立って「半径○キロ圏内の住民は長期的健康被害の恐れがあるので、10年スパンでの長期的な転居を視野に入れた上で避難してください」などと勧告しておいたほうがよっぽど親切だったと思います。直ちに健康被害はない、なんて言葉を繰り返しても何の意味もありません。被爆は累積するものなのですから。私は報道を通してしか被災者の方々の状態を知ることはできませんが、将来の見通しが立たない、お上の都合で予定がコロコロ変わってしまう、というのは非常にきついのではないでしょうか。そういう状態が続けば、多くの人は希望を持つことを止めてしまうでしょう(下手に期待して後で落胆するのは誰でも嫌なはず)。
原発から20キロ以内の住民の方が、「2~3日で戻って来れると思ったので、避難所で周りの迷惑になると思って愛犬や愛猫には大目に餌や水を与え、迷子にならないようしっかり戸締りした家に置いて来てしまった」なんて話を聞くと本当に心が痛みます。家畜にしても、当初から正しい情報が流されていれば、被爆が進む前に他地域の農場に避難させるとか、あるいは食用や工業用として無駄にせず利用できるようにまとめて屠殺するとか、できることはあったはず。政府の言うとおり数週間で事態が収束に向かうだろう、と希望を持って、自らの被爆や将来の健康被害のリスクを知りつつ定期的に警戒区域内に戻って家畜の世話をしていた人々何百人といたことでしょう(毎日新聞に」よると。警戒区域内で家畜を買っていた農家は約370戸)。そこまでして大切に育てていた家畜の行く末は餓死や殺処分、自分の累積被爆量も元には戻らない、とは何とも理不尽なことです。
今更、何週間も水も餌も与えられず餓死寸前になった家畜を殺処分するために、既に土壌やその他表面の汚染の進んでいる(大気や雨からの被爆が殆どであった事故直後よりもリスクが高い)20キロ圏内に獣医師チームを送り込むとか、リソースの使い方が間違っているとしか思えません。
こういう事態だからこそ、母国のトップには本当にしっかりしてもらいたい、と切に願います。
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中村幸一郎氏の履歴 (http://www.kepco.co.jp/rd/news/pdf/rd444.pdf 、関西電力のR&D News Kansai 平成20年5月号より)
昭和57年東京大学工学部卒業、同年通商産業省入省。
平成9年経済協力開発機構・国際エネルギー機関(フランス)勤務、
平成13年資源エネルギー庁 電源立地対策室長、
平成14年地域経済産業グループ 産業施設課長、
平成16年産業技術環境局 研究開発課長、
平成17年原子力安全保安院 原子力安全技術基盤課長を経て、平成19年より現職(注。
注)発行時点で、(独)産業技術総合研究所企画副本部長