絶対に食べさせない!~猛毒植物ソテツ(蘇鉄)の話~ | Useless Monologue

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小動物獣医師(フリッパー動物病院@神奈川県逗子市)による日々の雑感覚書。


今回はとにかく注意を促すために最初に単刀直入に書くが、「ソテツ(蘇鉄)」の実や種はもちろんだが、茎も含めて絶対に食べさせないでいただきたい。


逗子周辺だと、犬のソテツ種子の誤食事故も少なくないためご存知の方も多いとは思うが、ソテツは極めて強力な中毒性植物なのである。

秋以降に割と目立つ大きさの赤い実をたくさん結び、晩秋から冬にかけて種が出来る。
逗子市だと、マリーナやコスモミロスに大きなソテツが植えてあるので観た事がある方も多いだろう。
実はこの植物の種子にはサイカシンという物質を含む。サイカシンと言っても、通常はあまり聞きなれないと思う。
ではホルムアルデヒドという物質はいかがだろう。所謂ホルマリンの事(正確にはホルマリンはホルムアルデヒドの水溶液のことをいう)。
誰でも一度は、学校の理科室などで「ホルマリン漬け」になった生物をみたことがあるに違いない。そう、あの物質だ。組織の固定、あるいは強力な消毒(揮発性を利用した勳蒸)などに使用する。

サイカシンという物質は体内で変化を受け、ホルムアルデヒドに変化する。ソテツの実や種子を食べるということはホルマリンを飲んだのと同じなのだ。

ホルムアルデヒドという物質は水溶性のため組織に浸透しやすく、細胞内に入ると蛋白などに架橋してその生物活性を止めてしまう。生物活性を止めるというのは死ぬということだ。ただし、死ぬとは言っても死後の変化は起こらず、そのままの状態が固定されてしまうのだ。

これが体内に入ったらどうなるか、普通に考えれば恐ろしさは想像していただけるのではないだろうか。
症状としてはまず粘膜がただれる。口腔内~消化管までボロボロになることもある。この場合もちろん嘔吐や血便などの消化器症状が現れることになる。嘔吐による逆流でひどい食道炎が起こる。
体内に吸収されると全身の主要臓器が壊される。重度の肝不全、腎不全(最近は腎臓病という呼び方が主流だが、この中毒に関してはまさに「腎不全」という言葉がふさわしい)はもちろん、ひどい神経症状があらわれて痙攣が頻発したり、昏睡状態に陥ることもある。
さらに悪い事に、この物質は強力な発がん性物質である。一命をとりとめてもその後の心配までしなければならない。ついでに催奇形性もあるので、妊娠中などに誤食すると最悪だ。


因みに誤食が判明したら、すぐなら吐かせたり(食道炎なども怖いが、吸収される方が怖い)、胃洗浄をしたりできる。
時間が経過してしまってるようなら、できるだけ吸収されないように吸着剤を投与したり、下剤を投与して、同時に、静脈点滴を流しつつ強肝剤の投与や利尿剤の投与を行う。また腎の血流を維持するためにドパミンの投与なども役に立つ事がある。

摂取した量にもよるが、治療が間に合えば助かることもある。
ただ残念ながら、摂取量が多く、あるいは経過が長く、体内組織の不可逆的な変性が進んだ状態の場合、治療を施しても間に合わない事が少なからずあるのが実情だ。


食べさせないためには、とにかく注意して散歩することだ。実も種も独特の目立つ色や形態なので、それを見落とさないこと(インターネットなどで写真は探せます。病院で言っていただければ、書籍に載ってる写真をお見せできますよ)。
また、鳥や野生動物が運んできて、庭やベランダで落としていくこともあるので、少し離れた場所でも油断しない方が良い。

食べてしまったら、絶対に様子を観ないですぐに動物病院に連絡をとること。この辺の病院なら事の深刻さを理解してもらえると思う。


逗子では非常に犬のソテツの中毒事故が多い。地域は限定的だが。
当院でも色んな中毒を経験するが、原因が分かっている中毒の中でソテツはかなり上位に位置している。決まった地域でしかみられないにも関わらずである。しかも中毒物質の中では死亡率も高いものに分類される。
もっともっと地域的に問題視してもよいのではなかろうかと考えている。

そもそもがソテツなど意図的に栽培しなければ関東一円では自然に生える植物ではない。逗子などでは人為的に植えられたモノしかないのだ。ある意味人為的な事故であり、これが人間ならば植えた人間の過失致死にも該当するだろう。犬だけでなく、派手な実なので人間の子どもが口にしないとも限らないのではないだろうか?!

景観上どうしてもソテツが必要なら、実を結ぶ時期にこまめに実を摘んでしまうのもよいだろうが、茎にも少量の毒を含むので危機管理としてはこれでは甘い。
もしも町会などの地域的なコンセンサスが得られるなら、実を結ぶようなソテツの大木は排除するのが最もよい解決方法だ。

いずれ行政にも陳情してみたい。