雨がしとしとと降り続く梅雨の季節、毎朝通学路を歩くのが憂鬱だった。ある日、学校に向かう途中、傘を忘れてしまったことに気づいた。仕方なく、頭にカーテンのように垂れ下がるフードを被り、早歩きで学校へと急ぐ。

道の途中、古びた靴が小さなスズランの花の横に落ちているのを見つけた。誰かが落としたのだろうか?と不思議に思いながらも、気にせずに通り過ぎた。しかし、その靴がどうしても気になり、少し先の自転車置き場に駆け寄ってみると、やはり一台の自転車が倒れている。

近づくと、小さな女の子が泣いていた。彼女の指は怪我をしているようで、雨水が混じり血が滲んでいた。すぐに駆け寄り、彼女の指をそっと包み、「大丈夫?」と声をかけた。女の子は涙を拭い、こくんと頷いた。

通学路を一緒に歩きながら、彼女の話を聞くと、どうやら朝の急な雨に驚いて自転車から転んでしまったらしい。彼女のために持っていた傘を差し出し、二人で学校までの道を歩いた。

学校に到着すると、彼女は礼を言って去っていった。その時、雨が止み、雲間から一筋の陽が差し込んできた。彼はふと、スズランの花が語りかけてきたような気がした。「誰かのために傘を差すことができる、そんな心を持ち続けよう。」

その日から、通学路は彼にとって特別な道となった。毎日、彼は雨の日も晴れの日も、小さな変化を見逃さないように歩くようになった。雨の日の憂鬱は、いつしか温かい記憶に変わっていった。