小学校4年生から6年生まで、
スポーツ少年団で野球をしていた。
土日祝はすべて練習。
丸一日休める日なんて、
ほとんどなかった。
「試合はあまり動かないのに、
なんで練習はずっと走らされるんだろう?」
そんなことを考えながら、
嫌々グラウンドに向かっていた。
入部してすぐ、
ボクはスタメンに選ばれた。
特に努力をしたわけじゃない。
運動神経とセンスのみの
感覚でプレーができたからだ。
練習も試合も、
「監督に怒られないようにする」
ことだけを考えていた。
自主練習なんて、
ほとんどしなかった。
でも、
小学校5年生が後半に差し掛かったある日――
すべてが崩れた。
バッターボックスに立った瞬間、
違和感が全身を駆け巡った。
あれ?
そもそも、どうやってバットを振ってたっけ?
どのタイミングで足を上げてた?
ピッチャーのどこを見てた?
何も考えずにやっていたことを考え始めた途端、
すべてが分からなくなった。
バットを振ろうとする。
でも、
身体が動かない。
ボールがキャッチャーミットに
吸い込まれる音だけが響く。
――三振。
「どうした?
完全にボール球ばかり振ってたぞ?」
監督の声が聞こえた。
どうしたのかなんて、
ボクが一番知りたい。
その日から、
バットを振るタイミングが異常に遅くなった。
投げるときも、
腕の振りがぎこちなくなった。
感覚でやっていたことを、
意識でコントロールしようとすると、
身体が言うことを聞かなくなる。
まさに、
イップスだった。
小学校5年生の後半から6年生の引退まで、
ボクはこのイップスから抜け出すことができなかった。
打順は、
3番から7番に落ち、
最後は9番になった。
試合に出るたびに、
ミスをする。
ミスをするたびに、
考えすぎる。
考えすぎるほど、
身体が動かなくなる。
完全な悪循環だった。
「試合に出るのが怖い。
でも、出られなくなるのも怖い。」
矛盾した感情が、
心の中で渦巻いていた。
ボクは、
目立ちたくないから、
勝負事を避けたり、
わざと負けたりするような情けない人間だった。
でも、
このイップスは違う。
できるのに、
やらないんじゃない。
やりたいのに、
やれないんだ。
それがどれだけ辛いことか、
痛いほど分かった。
やがて、
監督やチームメイトは、
あまりボクに期待しなくなった。
それは、
「目立ちたくない」と思っていたボクにとって、
嬉しいことだったのか?
……違う。
期待されなくなるのは、
ただただ、寂しかった。
ボクは目立ちたくないけど、
期待には応えたい。
目立ちたくないけど、
嫌われたくない。
そんな都合のいい考え方で、
まだ周囲の目ばかり気にしていた。
その結果、
自分自身のことに向き合えなかった。
あの頃のボクに伝えたい。
「どうしたら周りに好かれるか」
じゃなくて、
「どうしたら自分が楽しめるか」
を考えろと。
この経験は、
ボクの中に深く刻まれた。
そして、
今でも時々思う。
イップスになったのは、
他人のせいじゃない。
ボク自身が、
自分のことをちゃんと見ていなかったからじゃないか、と。

