夏の終わり、

ボクは崩れ落ちた。



中学2年の夏休み。
 

朝から晩まで、

バスケットボール部の練習。
 

走る、飛ぶ、ボールを追う。
 

水分なんて、

ほとんど飲ませてもらえない時代だった。



「根性だ!」

と先生は言う。
 

「休むなよ!」

と先輩が叱る。
 

そんな毎日を、

ただただ耐えていた。



ある日、

練習中にリバウンドを取ろうと力いっぱい跳んだ。
 

 

 

――ビリリッ!



着地した瞬間、

腰に衝撃が走る。


痛みが全身に広がって、

息が詰まった。
 

崩れ落ちそうになるも、

先生の視線が怖くて立ち続けた。



「大丈夫か?」

とチームメイトが声をかける。
 

 

 

「大丈夫~」

と笑ってみせたが、
一歩踏み出すだけで、

腰に電流が走る。



その日の練習、

ボクは汗ではなく、

脂汗を流していた。
 

フラフラになりながら、

なんとか最後までやりきった。







帰り道、

自転車にまたがる。
 

ペダルを踏み込むたびに、

腰に刃物を突き立てられるような痛みが襲った。
 

それでも家に帰らなくちゃいけない。



──もう、限界だった。



家に着くなり、

親にお願いして車で病院に行った。ボクは母に泣きついた。
 

病院では早速レントゲンを撮ることとなった。



結果は、

腰の骨が潰れていた。
 

 

 

「1ヶ月は運動は禁止ですね」
 

 

 

医者はそう言った。



ボクは、ホッとした。



「これで部活を休める」



自分がケガをして喜ぶスポーツ選手なんて、

どこにいるだろう?
 

けれど、

正直な気持ちだった。
 

部活に行かないことへの罪悪感が、

消えた。







その日からボクは、

エアコンの効いた部屋で、
野球漫画『H2』を読みふけり、

TVゲームに明け暮れた。
 

体育館の床の上ではなく、

柔らかい布団の上で眠る毎日。



「楽だなぁ」



そう思う自分が、

情けなかった。
 

スポーツ選手になりたかったのに、
自分の弱さを

ケガのせいにして逃げていたのかもしれない。



ボクの中学2年の夏は、
戦うことなく、

静かに終わった。