「妹は一人だけなんだから、大事にしてあげて」


母が涙ながらにそう言った言葉は、
幼いボクの胸に深く刻まれた。







小学校1年生の頃、
名古屋の社宅アパートで友達と遊んでいたときのことだ。



木登りや川遊び、危険なガケ滑り・・・
小学生男子の遊びは、
2歳下の妹には少しハードルが高かった。



それでも、
妹はお兄ちゃんと一緒に遊びたい一心で、
幼稚園児の小さな体で必死についてきた。



「お兄ちゃん、待ってよ!」



後ろから聞こえる声を聞きながらも、
ボクはあまり振り返らなかった。

友達と遊ぶのに集中したかったし、
妹のペースに合わせるのが正直面倒だったからだ。



「先に帰っておけよ!」



と、投げ捨てるように言い放ち、
友達の元へ走っていったボク。







その日の夕方、
家に帰ったとき、
母からの怒涛の叱りを受けることになる。



でも、
その叱り方はいつもと違っていた。

叱っている途中、母は悲しそうに涙を流しながら言った。



「あんたの妹は一人だけなんやから、大事にしてあげて。

あんたが心配で楽しめない気持ちは分かるよ。

でも、あの子だってお兄ちゃんと一緒に遊びたいのよ。」



その言葉を聞いたとき、
ボクはショックを受けた。

母を悲しませてしまったことが
何よりも辛かった。







大人になった今、
母があの時伝えたかったことが分かる気がする。



母は一人っ子で、
幼少期は女手ひとつで育てられてきた。



家が暗くなるまで一人で待ち続けた日々。

食べ物や家電の不足よりも、
寂しさが何より辛かったと言っていた母。



その経験があるからこそ、
妹を大事にしてほしいと涙ながらに語ったのだろう。



子どもの頃は、
妹とはよくケンカもした。

でも、大人になった今では、
母の願い通り仲良く過ごしている。



今度妹に会ったら、
あの時のことを謝ろうと思う。

ポジティブ人間の妹が覚えているかは分からないけれど、
謝ることで少しでも過去の自分にけじめをつけたい。



家族の絆は、
ときに後悔を通じて気づくものだ。

幼い頃の自分にとっては当たり前だった日々の中に、
どれだけの愛情が詰まっていたか。

今だからこそ、
その大切さを噛みしめている。