ボクは、いつも同じ坂で転んでいた。



何度挑んでも、
結果は同じ。



頭が大きいせいなのか、
どんくさいせいなのか、
それは分からない。

ただ、頭が地面にぶつかるたびに、
「またか」
と思った。







幼い頃から
「頭が大きいね」
と言われ続けてきた。

親も友達も、
時には初対面の人まで。

小学生になると、
それがいじめの原因になることもあった。



でも、大人になって身長が180センチ近くまで伸びた今は、
ほとんど言われなくなった。
 

頭が大きいこと自体は変わっていないけど。







そんなボクが最初にこの「坂」と出会ったのは、
長崎県の葉山にある父の会社の社宅アパートに住んでいた頃だ。



そこには、幼いボクにとっては果てしなく長い坂があった。

その坂でいつも遊んでいた。

足けりの車のオモチャに乗り、
坂の上から勢いよくくだる。

それは幼いボクにとって、
冒険そのものだった。



しかし、ある日、大きな怪我をした。
 

坂の途中で転倒し、
頭部から大量に出血した。



痛みと恐怖で泣き叫びながら家に帰った記憶が、
今でも鮮明に残っている。



それ以来、
その坂はボクにとって「怖い場所」になった。







それでも、
ボクはなぜかその坂に引き寄せられた。
 

 

 

恐怖に負けたくないという気持ちと、
再び挑戦したいという謎の好奇心が私を動かした。



「次は歩いて登ってみよう」
 

 

 

そう思い立ち、
慎重に坂を歩いて登った。



登り切ったとき、
ボクは安心感と少しの自信を感じた。



だが、帰り道の下り坂で再び転倒。



頭を打ち、またもや血が流れた。



流血しながら坂を下る道すがら、
ボクは大泣きし、そしてふと自分に問うた。
 

 

 

「なぜこんなにも坂に挑みたくなるのだろう?」



その後も何度か挑戦を繰り返した。



母と父は
「またか」
と呆れるばかり。

第三者から見れば、
学習能力がないと思われたかもしれない。







でもボクの中では違った。



この坂はボクにとって、
逃げるのではなく、
立ち向かう勇気を試す場所だった。



恐怖を乗り越えたいという気持ちと、
自分自身への挑戦心。

それがボクを何度もこの坂に連れ戻した。



そしてついに、
ボクは再び足けりの車に乗り、
坂を駆け下りた。



勢いに乗り、
風を感じながら猛スピードでくだる。



今度は転ばなかった。



何度目かの挑戦で、
ついに「成功」したのだ。







この経験は、
幼いボクにとっての大いなる冒険であり、
何よりも大切な自己証明だった。



気が小さく泣き虫だったボクは、
恐怖と向き合い、
乗り越えることができたのだ。



あの坂は、
ボクにとって初めての「勝利の場所」となった。