下北沢の駅前は放置自転車が多く、何の団体か分からないが、ビブスのようなものをつけた者が数名、駐輪させまいと周辺に目を光らせている。僕はダイエーの利用客を装って、そこに止めた。死角、穴場として知られる置き場所である。

数時間後、戻ってくると放置自転車の数が膨れ上がっている。緑のびあんち号 はすぐに確認できたが、そばで中年の女性がうごめいていた。彼女の自転車の前輪に、隣のペダルがしっかりと噛んでいる。四苦八苦する様子をうかがっていると、彼女も僕に気づいて助けを求めた。正直だるいが、それが片づかないと僕のも出せない。「絡まっちゃったのよ。こんな近くに止めて嫌ね」なんて愚痴を言われても「まあ、不法に駐輪している僕らも文句は言えないんですけどね」と応えるほかない。「あなたのはどれ」誇らしげに僕はチェレステグリーンを指差す。「あら素敵ね」悪い気がしない僕はあごをしゃくって眉を動かす。

鞄を置き、上着を脱ぎ、力ずくで隣の自転車を退かす。「どうもありがとう。ごめんなさいね」としかし「僕のが出せないからね」礼を言われる筋合いはないのだ。それでも彼女はにこやかに、今度は手伝ってくれようと周囲の自転車を寄せて、僕はスムーズに愛車を取り出せた。「こちらこそありがとう」「それではごきげんよう」と彼女は先にその場を去った。チェーンを外して僕もまたがる。

すぐに追いついた。追い抜きざまに「さようなら」と手を振った。