先日「ナガタ」さんがやってきた。

 

もちろん妻の口を借りにだ。

 

「ここに来れば話を聞いてもらえると教えてもらったので・・・」

 

・・・そのような話が出回っていることを初めて聞いた。

てか、誰だそのような話をして歩いているヤツは。

 

話を聞いて欲しいということだったので、何のどのような要件なのか聞いてみた。

名前は「ナガタ」というらしい。

もともと人だったようだ。

 

ナガタさんが言うにはお墓の場所がわからなくなったので、探してほしいそうな。

 

・・・知らんがな。

 

お墓を探すよりも、さっさとあの世へ行く方が先決だと伝えたところ、あの世への行き方がわからないという。

 

お墓は今私たちが住んでいる場所の近くだそうで、周囲には鳥が多くいるらしい。

家の場所もうろ覚えだと言っている。

 

なぜあの世へ行けないのか気になったので詳しく話を聞いてみた。

 

話し方は丁寧で、ゆっくりと考えながら話をしている。

その口調からすると悪い人ではなさそうだ。

 

死んでからは所々記憶が曖昧になると言いながら自分が覚えていることを話している。

確かに途中で理解できない単語を話すことがある。

 

ここに来た理由を丁寧に聞いたところ、

どうやらナガタさんは甥っ子を誤ってくるまで轢いてしまったらしい。

そのことをすごく悔やんでいるようだ。

 

「あなたにとって辛いことを聞きますが・・・」

私は彼にいろいろと訊ねてみることにした。

 

「ナガタさんが運転中に甥御さんを轢いてしまったのですか?」

「はい。私が車をバックさせるときに甥がいつの間にか車の後ろに居たんです」

「私はそれに気付かずに車を動かしてしまい、甥を轢いてしまいました」

 

「甥御さんの怪我はひどかったのですか?」

「甥は、甥は・・・」

そこまで言うとナガタさんは大粒の涙を流しながら泣き出した。

涙をながし、言葉に詰まりながら、ふり絞るように次の言葉を発した

「甥は死んでしまいました」

「私が甥を殺してしまったのです・・・」

 

そのころには私も涙をながしながらナガタさんの話を聞いていた。

 

「家族からはどうしようもなかったことだと、ひどく咎められることはありませんでした」

「でも私は自分が許せなかった」

「私は自分で命を絶ちました」

ナガタさんの言葉には悔いの気持ちが満ちていた。

 

ナガタさんが少し落ち着いたところで住んでいた家の地区を聞いてみた。

「〇〇町です」

 

「・・・・って、本当にうちのすぐそばじゃん!」

驚いているとナガタさんは続けた

「住所は756-3です」

「え~っ!住所まで言っちゃうのぉ~?!」

 

「ちなみに、ナガタさんのお墓のあるお寺を覚えているかな?」

「私のお寺は〇〇寺です」

「マジかぁ~!!」(そのお寺は知らんけど)

 

ただ私は、お墓を探すことで彼が成仏できるとは思わなかった。

なぜそう思ったかはわからない。

「わかった。お墓は探してみよう」

 

「でも大切なことはナガタさんが成仏することだよ」

「しかし、迎えといったような、そのようなものはありませんでした」

 

私は少し考えてナガタさんに伝えた。

「後悔の念や悲しみが強すぎて迎えが来た時にそれを見失ってしまったんだろうね」

「そうなんでしょうか?」と彼は言った。

 

「お墓は探してみるけど、それだけではナガタさんが成仏できないと思うんだ」

「でも、私は甥の命を奪ってしまった者。成仏なんてできないと思います」

ナガタさんはどこまでも事故のことを悔やんでいる。

 

私はゆっくりとナガタさんに話しかけた。

「ナガタさん、あなたは事故後、大いに悔やんでいるに違いない。

家族から事故のことを気にしないように言われても忘れられるコトではないでしょう。

親せきから心無い言葉を投げられたこともあるでしょう。

自分が許せないから自ら命を絶ったわけですよね」

 

「そうです・・・」

 

「ナガタさん、あなたはもう十分に罪の意識を感じ、反省をしている。とても長い間自分の人生を悔やんでいる。

もういいんじゃないかな。誰ももうナガタさんのことを責めたりしてないと思うよ。

成仏して、あの世へ旅立ってもいいんじゃないかな」

 

「私のような者が成仏してもいいのでしょうか?」

「いいと思うよ」

「そうですか・・・

でも私には成仏の仕方がわかりません。

きっと私など成仏などできないのでしょう」

 

「そうなのかな?

ナガタさん、あなたが亡くなった時、そのことを悲しんだ人がいるはずですよ。

あなたの成仏を願った人が必ずいるはず。

そしてあなたが苦しみから解放されることを願っている人が必ずいるはず」

「そうでしょうか?」

「きっとそうだよ」

 

私は続けた

「心の中で甥御さんを呼んでごらん。きっと迎えにきてくれるよ」

 

「甥を呼ぶのですか?」

 

「そう。甥御さんを思い浮かべてごらん」

 

「何も見えませんが・・・」

 

私はしばらく黙っていた。

 

しばらくするとナガタさんが話はじめた。

「ん?あれはなんだ・・・?

遠くに何かが見える。

あれはなんだろう・・・??

こちらに近づいてくる・・・

あぁ・・・あれは、あれは・・・」

 

ナガタさんからは涙が溢れてきた。

 

「甥が・・・甥が迎えにきてくれた・・・」

 

ナガタさんは涙をながしながら

「そうか、そうか・・・」とうなずいている。

 

どうやら本当に甥御さんが迎えにきてくれたようだ。

 

「ありがとう、ありがとう」

そう言ってナガタさんは旅立っていった。

 

しばらく部屋には静寂が流れた。

ナガタさんの心が穏やかになったかのような時間だった。