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英国が生んだ至上の劇作家であり詩人といえば、ウィリアム・シェイクスピアです。
ロミオとジュリエット、ハムレット、ヴェニスの商人、夏の夜の夢、マクベス、ジュリアス・シーザー、リア王……。
誰もが知っているこれらの作品を書いたのは、もちろんウィリアム・シェイクスピア本人ではありません。
『もうひとりのシェイクスピア』
原 題:ANONYMOUS
製作年:2011年
製作国:イギリス= ドイツ
日本公開:2012年12月22日
上映時間:2時間9分
監 督:ローランド・エメリッヒ
キャスト:リス・エヴァンス、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、ジョエリー・リチャードソン、デヴィッド・シューリス、ゼイヴィア・アミュエル、セバスチャン・アルメストロ、レイフ・スポール、エドワード・ホッグ、ジェイミー・キャンベル・バウアー
では、感想です(ネタバレあるかもしれません)。
原題は「ANONYMOUS」です。
匿名という意味です。
ではなぜ「匿名」なのか?
そして、キャッチコピーは「WAS SHAKESPEARE A FRAUD ?」
そうです、「シェイクスピアは偽物だったのか?」
37編もの今なお人々を魅了し続ける作品を世に生み出した人物は誰だったのか?
その謎を解き明かしてくれる秀作です。
こちらなら見放題です。
ウイリアム・シェイクスピア。
ウイリアム・シェイクスピアは本当に存在したのだろうか?
実は、この疑問を抱くには、アカデミックな分野以外でもずっと論争がありました。
その謎を解く鍵は次の3つの疑問です。
① 彼自身による自筆の原稿は存在しない
② 公式の文書には6つの違った署名が存在する
③ 遺言書は本や戯曲のことに一切触れていない
論争はアカデミックな分野ばかりか、精神分析学者のフロイト、作家のマーク・トウェイン、名優チャーリー・チャップリンやオーソン・ウェル ズといった各界の著名人までをも巻き込み、皆「別人説」を支持してきたそうな。
ウイリアム・シェイクスピア。
もともと、“シェイクスピア別人説”は、18世紀に始まった論争だそうな。
諸説ある中で、現在最も有力視されているのが、第17代オックスフォード伯エドワード・ド・ヴィアが真の作者であるという説です。
なぜ、彼は自らの名で作品を世に出さなかったのか?
16世紀末、エリザベス1世統治下のロンドンの街では演劇が盛んになり、市民も貴族も芝居に熱狂していました。
エリザベス1世の宰相とし て権力をふるうウィリアム・セシル卿とその息子ロバートは「芝居は悪魔の産物」と決めつけ、芝居に扇動された民衆が政治に影響を与える事を恐れていたそうな。
物語は小気味よく王位継承と家系をえぐっているのですが、簡単にいってしまえば、伯爵たるものが、仕事もせずに戯曲ばかり書いているわけにはいかない風潮だったわけです。
物語は、シェイクスピアがいかに誕生したのか?
ここが主題であるにもかかわらず、あえて深堀せずに、その事実に関心を持たせるために、そして事実を裏づけるために、処女王として名高いエリザベス1世の愛人と隠し子をメインテーマに持ってきます。
若かりし頃のエリザベス1世とエドワード。
愛多きエリザベス1世の隠し子というと下世話に聞こえかねませんが、ポイントはそこではなく、さらに、数奇な運命に、本当にこんなボタンの掛け違いがあるのかというくらいわずかなところで、運命のいたずらに弄ばれたのが、もうひとりのシェイクスピアである「第17代オックスフォード伯エドワード・ド・ヴィア」なのです。
若かりし頃のエリザベス1世とエドワード。
本当に、この物語の仕掛けはおもしろいです。
そして、史実に基づいているから、エセックス伯の反乱がなぜ起きて、そして、いかなる決着を迎えるのか、そのあたりも歴史を動かしたのはエリザベス1世の心であり愛であるわけです。
エリザベス1世の労相セシルは、老いたエリザベスの後継にスコットランド王ジェームスを据えようとします。
エドワード・ド・ヴィアにとってセシルは義父ですが、彼はチューダー朝の王たるべき者が後継であるべきと考え、エリザベスの隠し子と噂されるエセックス伯を次期王にと考えています。
史実では、最後の愛人エセックス伯はエリザベス1世を拘束して反乱企てようとしたことになっていますが、ここでは、愛人ではなく、エリザベス1世の労相セシルを追放しようとして、盟友サウサンプトン伯とともに剣を抜いたと描かれています。
エセックス伯。
個人的には王位継承について、チューダー朝の王たるべき者が後継であるべきが光景書となるべきだとの考えからすれば、セシル討伐というのが正しいのではないのかと。
そして、エセックス伯とサウサンプトン伯にサジェスチョンしたのがエドワードでした。
エドワードは新作「ヘンリー3世」をもってして、労相セシルを描き、民衆の怒りを宮廷に向けさせようとしますが、最初にエドワードが自分の書いた戯曲を託した劇作家ベン(エドワードの作品を自分のものだと言わずに別の者にもっていかれてしまう)が、シェイクスピアの名声にジェラシーを感じ、「ヘンリー3世」は労相セシル描いたものだと密告してしまいます。
劇作家ベン。
この密告ですべての歯車が狂い、エセックス伯とサウサンプトン伯は斬首刑になってしまいます。
そのタイミングで40年振りにエリザベス1世に謁見していました。
実は2人はその昔愛人関係にあり、エリザベス1世はエドワードの子を身ごもります。
しかし、その子が今どこで何をしているかは知らせれていません。
再会したかつての愛人エリザベス1世がエドワードに掛けた第一声は「年をとったわね」。
ここ、この作品の中で唯一、時間が止まっているシーンです。
このシーン何だか好きです。
40年振りに再会したエリザベス1世とエドワード。
エドワードは2人の子であるサウサンプトン伯の恩赦を乞います。
驚いたエリザベス1世はサウサンプトン伯を釈放します。
セシルの母はエドワードの妻です。
ではなぜ、セシルの父(こちらもセシルですが)はエドワードを引き取り、娘の妻にしたのか?
エリザベス1世は労相…つまり一番信頼する側近にセシル親子を置いておいたのか?
それは、セシルが民間人であり、エリザベス1世がその生活をすべて牛耳れる立場にいるからこそ、彼女のために忠誠をつくすだろうと。
だからこそ、一番信頼できるということです。
その父セシルがエドワードを引き取ったところがこの物語の大きな鍵です。
エンディングに向けて、大きな人生の舵がいっぱいいっぱいに振り切れます。
真実はひとつですが、そこに行き着くまでにはいくつかの分かれ道があったはずです。
その中のどの道を選んだら自分にとって一番幸せなのかは死を迎えるまでわかりません。
ウィリアム・シェイクスピア、まさに史実に出てくる肖像画にそっくりです。
ウィリアム・シェイクスピアの代表作、いや第17代オックスフォード伯エドワード・ド・ヴィアの代表作「ロミオとジュリエット」よりもはるかに複雑な糸が絡み合い、そして、決してほどけるはずのないその糸がほどけはじめたとき、涙が止まらないくらいの切なさと、なぜか運命の悲しみを感じずにはいられません。
ハムレットの本当の著者エドワード。
文筆業にいそしんだエドワードは一番貧しい伯爵として生涯を閉じていきます。
一度はエドワードの策を密告したベンがエドワードのすべての著作を受け取り、守り抜いていきます。
すべてを知って、最期を迎えるのがハッピーか、知らないままにいけるのがハッピーか、考えさせられました。
最後まで、気を抜けない見事な作品です。
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