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『アレクサンドリア』
原 題:AGORA
製作年:2009年
製作国:スペイン
日本公開:2011年3月5日
上映時間:2時間7分
監督・脚本:アレハンドロ・アメナーバル
脚 本:マテオ・ヒル
製 作:フェルナンド・ボバイラ/アルバロ・アウグルティン
製作総指揮:シモン・デ・サンティアゴ/ジェイム・オルティス・デ・アルティネイト
撮 影:シャビ・ヒメネス
美 術:ガイ・ディアス
衣 装:ガブリエラ・ペスクッチ
音 楽:ダリオ・マリアネッリ
編 集:ナチョ・ルイス・カピヤス
キャスト:レイチェル・ワイズ/マックス・ミンゲラ/オスカー・アイザック/アシュラフ・バルフム/ミシェル・ロンズデール/ルパート・エヴァンス/ホマユン・エルシャディ/サミ・サミール/オシュリ・コーエン
3月11日に起きた東日本大震災後、明日何が起きるかわからないという焦りと(これは自分がいなくなるかもしれないということと、アーティストがいなくなるかもしれないということと両方)、海外のアーティストたちの来日がキャンセルされたり延期されたりすることが相次いだということと重なり、生のアーティストたちを観ておかなきゃと気がはやりました。
映画館で映画を観るのがとても好きです。
でも、映画は来年DVDでも観てもいいのかもと、ライブや舞台を優先しています。
そんな理由から、今年は残念ながら映画をあまり観ていません。
そんな中でも、本年度1番の映画は?
と聞かれたら、迷わず「アレクサンドリア」と答えます。
主演のレイチャル・ワイズは「ナイロビの蜂」でアカデミー賞/ゴールデングローブ賞の助演女優賞を受賞している実力は文句なしです。
知的な美人、憧れの美人教師といったイメージ、この作品のイメージともに、レイチャル・ワイズ、適役です。
ほかの出演者たちも、面白いほどはまり役です。
このあたりがこの作品の厚みをしっかりと増している要素です。
ヒュパティア役はレイチェル・ワイズ
「アレクサンドリア」、2009年度スペイン映画最高興行収益を上げた作品です。
取り上げたテーマも高尚なところをついています。
内容も非の打ち所なく、よく描き切れています。
歴史背景を少しでも知って観ると、さらにこの作品を堪能できるかと思います。
「アレクサンドリア」、公開が3月5日でした。
その関係もあり、レビューを書くタイミングを逸してしまいました。
いつ書こうか悩んでいたのですが、「アレクサンドリア」とても素敵な作品なので、何かのタイミングで書きたいなと考えていたら、本日、いよいよDVDとBlu-rayが発売になるということなので、あわてて書くことにしました。
映画館で見逃した人は、絶対にこの作品、観てください!
レンタルでもいいかもしれません(楽天レンタルで「アレクサンドリア」)。
原題の「AGORA」(アゴラ)とは、古代ギリシアの都市に欠かせなかった中央広場のことで、政治集会や市場、祭儀や祝典に使われました。
このタイトルが意味するものは…「?」というのが正直なところ。
日本語タイトル「アレクサンドリア」のほうが直球でいいと思います。
「地中海の真珠」とも呼ばれる港町アレクサンドリアが建設がはじまったのは、今から2300年前の紀元前332年、アレクサンドロス大王(アレキサンダー大王)によるものです。
紀元前323年にアレクサンドロス大王は亡くなりますが、その死後も意志は引き継がれ
ていきます。
そのアレクサンドロス大王を尊敬して止(や)まなかったのがクレオパトラです。
クレオパトラがエジプトの女王になる件(くだり)は「カエサルーローマ人の物語よりー/松本幸四郎10年ぶりの新作は塩野七生の大ベストセラーに挑む」で触れましたが、絶世の美女クレオパトラが生まれ、そして最期を遂げた都市アレクサンドリア…この都市が持っている魅力がどれほどのものか想像を絶するものがあります。
その魅力を1600年前の4世紀、アレクサンドリアの街とアレクサンドリア図書館を舞台に、実在した史上初の女性哲学者であり数学者でもあり、天文学者であるヒュパティア(レイチェル・ワイズ)を主人公に、異教を許さぬキリスト教の有無をいわせぬ波を巧みに描いたのが「アレクサンドリア」です。
-----ここからネタバレありです-----
当時アレクサンドリアは守護神セラピスと古代の神々をあがめていましたが、そこへユダヤ教徒とキリスト教が勢力を広げてきます。
その美貌と明晰な頭脳を持ったヒュパティアは、分け隔てることなく生徒を受け入れ「世の中で何が起きようと、私たちは兄弟です」と説き、当時、人として扱われることのなかった自らの奴隷にも授業を聴講することを暗黙に許します。
貧しき者たちを救おうとするキリスト教に下層階級の者たちが入信しはじめると、その波は一気に加速します。
図書館館長のテオン(ヒュパティアの父)は、科学と古代の神々を否定するキリスト教を禁じますが、その勢いはとどまることを知らず、その勢いに恐れをなした科学者たちがキリスト教徒を弾圧しますが、キリスト教徒に返り討ちにあい、たくさんの負傷者を出し、テオンもまた、奴隷に殴られ大けがを負ってしまいます。
科学者や学問を志す者たちは図書館へ逃げ込み、門を閉ざしまずが、暴徒と化したキリスト教徒たちが押し寄せてきます。
争いの裁きはローマ皇帝に委ねられ、科学者たちは罪に問われない代わりに、図書館を放棄し、キリスト教徒が図書館に入り処分を行うことになります。
神々の像が破棄され、全人類の知といわれた多くの書物がこのとき灰になり、ここからどれだけの「時」を、科学という人類の文明が止まることになったか、それは人類史上最大の蛮行ともいえるかもしれません。
なぜ、最大の蛮行とまでいうかというと、アレクサンドリア図書館は文学、地理学、数学、天文学、医学など、あらゆる分野の書物を世界中から集めていた国際学術都市だったからです。
それだけの力を持って集めたが故に学問を志す者たちが世界中から集まり、それ故に全人類の知が集結していたといっても過言ではないわけです。
その知を後世に伝えるべき、書き残された書物が焼き払われたわけですから、その損失は計り知れないものです。
そして、このときから、ダンテが登場し、ルネサンスのムーブメントが起こるまでの約1000年近く、「科学」は完全にストップしてしまうことになります。
俗にいう暗黒の時代のはじまりです。
映画の中ではヒュパティアの指示のもと、大切な文献を少しでも持ち出そうと、科学たちが奔走しています。
実際に、11世紀以降にキリスト教が聖地エルサレムをイスラム教諸国から奪還することを目的に派遣した遠征軍によって、アラビアなどでアレクサンドリアから持ち出された文献を発見しています。
キリスト教徒が焼きはなった文献を十字軍が持ち帰るとは、これも何かの因果なのでしょうか。
そして、暗黒の時代が終わり、このあたりからルネサンスがはじまるのです。
ちなみにアレクサンドリア図書館で研究され発表された論文には、幾何学のエウクレイデス、地球の直径を計測したエラトステネス、天動説のプトレマイオスなど、世界を変える大きな発見がたくさんありました。また、かのアルキメデスですらも一時的にアレクサンドリアに滞在したものと推定されています。
もうひとつ、プトレマイオスの天動説を父テオンと編纂したのがヒュパティアです。
しかし、天動説に納得し切れていなかったヒュパティアはサモスのアリタルコスによって唱えられた太陽中心説の謎を解いたかもしれないとされています。
数年後、今度はキリスト教徒によるユダヤ教徒の弾圧がはじまります。
アレクサンドリアは改宗した長官オレステス(オスカー・アイザック)が治めていましたが、それを疎ましく思っていたキリスト教の主教だったキュリロス(サミ・サミール)はオレステスの失脚を企てます。
そのとき、有力者に最大の影響を与えているのがヒュパティアであることに気づき、ヒュパティアに再三改宗を求めます。
オレステスが想いをよせるのがヒュパティアであるということも、オレステスのアキレス腱として狙われる要因となってしまいます。
しかし、ヒュパティアの信念は揺るぐことなく、ときに暴徒と化し、暴力で勢力を伸ばそうとするキリスト教に対し真っ向から否定を続けます。
「暴力で押し付ける信仰など受け入れると?」
さらに、
「I believe in philosophy.(我々が信じるべきは学問です)」
と。
しかし、矛先は彼女からそれることはなく、「女の分際で教壇に立ち、天文学で神を冒涜する魔女だ」とキュリロスが宣言をしたことにより、魔女(ヒュパティア)狩りがはじまります。
ここで、オレステスがヒュパティアに対し「もうあなたを守ることはできない」と告げます。
それを聞いたヒュパティアはうなずき涙を流します。
この表情こそ、カエサルが唱えたローマの教え「寛容」ではなかったのかと思わせる、美しいシーンです。
捕らえられたヒュパティアの死刑が決まり、執行を待つばかりとなったとき、ヒュパティアの家の奴隷でありながら、ヒュパティアを愛しながらも、キリスト教の修道兵士となったダオス(マックス・ミンゲラ)が、もうどうにも救うことができなくなった師に、愛を持ってとった行動はやさしさからだったのか、逆らえない権力という名のもと、やり場のないやるせない気持ちをきちっり形にできたことが、男らしくもあり、はかなくもあり、衝撃的です。
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