私が精神科医になった頃はここまでひどくはありませんでしたが、ある時から心理士達が発達障害、発達障害と言い出しました。
精神科医が発達障害を理解していない、見逃している、精神疾患と誤診しているが実は発達障害だ、と言い出しました。
そこに実際の精神科医も加わり、患者さんも影響されるようになりました。
いつの間にか、知能検査をしたら発達の偏りがわかる、知能検査の4つの数字のばらつきが発達障害を表している、というのが心理士と一部の精神科医を中心に広がっていきました。
私も最初は騙されそうになりましたが、明らかにおかしいわけです。
普通高校を卒業しているのに精神遅滞だとか、病前性格は明るく社交的なのに発達障害だったとか、海外の医学書や文献できちんと調べたり勉強したりすると、明らかに間違ったことを言っているのが確信できましたので、二度とこのような人達に騙されないようにしようと固く決心しました。
そもそも心理士やカウンセラーが広めてしまった、精神科医が知識不足で発達障害を精神疾患を誤診しているという噂は、何か根拠があったのでしょうか。
精神科医に専門知識がなく誤診していると言いますが、つまり、心理士やカウンセラーは精神科医より専門知識があり、正しい診断ができると主張していることと同じです。
それならば、精神科医が正しい診断をしていないという根拠を医学的な専門知識で示さないといけないはずが、それができません。
そもそもその専門知識とはなんでしょうか?
医学知識ではないのでしょうか?
そもそも、心理士やカウンセラーは医学を勉強したわけではありません。
確かに精神疾患の基礎的なことは勉強したかもしれませんが、それは医学ではなく、あくまで心理学の範囲です。
医学の基本的な考えや思考、情報の分析の仕方、思考のアルゴリズム、膨大なエビデンス、など知らないわけです。
第一に診察ができません。
一般の人は医師が行う診察というものが具体的にイメージできないと思いますが、自分の専門以外のたくさんの医学的知識が必要です。
医師というものは常に鑑別診断を考えないといけないのです。
長い間携わっていると、ほとんど意識しないくらいに自然に鑑別診断を行うようになります。
そして、患者さんに質問するのはなんとなく聞いているのではなく、この鑑別診断のために、頭の中で、この症状があるけれどもこの症状との組み合わせや部位では矛盾するからこの疾患ではない、といったふるいにかけていく作業です。
精神科では、歩き方、視線、体の動き、話し方、話す量やスピード、会話の整合性やまとまり、など色々な所見を見ます。
そうして可能性が高い疾患に絞っていき、治療を考えていくわけです。
また、どういう治療の方が予後が良いかを多くの治療者が認めているガイドラインなどを考慮して選択していくのです。
心理士やカウンセラーにはこの過程が不可能です。
だって医学を勉強したわけでもないし、医学のトレーニングを積んだわけでもありません。
だから、診察の仕方も知りません。
診察ができないということは所見も取れません。
例えば、精神科にくる人が、落ち着かないのは当たり前です。
でも、「落ち着きがない」、なんて素人と変わらない表現をしてもしょうがありません。
例えば、気分が高揚して多弁、とか、被害妄想で易怒的である、とか、抑うつで焦燥感が強い、とか、薬の副作用で足がむずむずする、とか、どういう落ち着かなさなのかを見極めないと、状態像が把握できません。もしかすると甲状腺ホルモンの異常で精神疾患ではないのかもしれません。
躁状態なのか、軽躁状態なのか、抑うつ状態なのか、幻覚妄想状態、精神運動興奮状態、なのか、色々な状態像を把握しないといけません。
統合失調症や双極性障害に大量の抗うつ薬を処方していることが原因で落ち着かないこともよくあります。
単にパッとみて、落ち着かない、もしかすると子供の時からADHDだったのかもしれない、なんて短絡的に考えるのは、所見も状態像もわからないし、なんの論理性もありません。素人と変わりません。
心理士やカウンセラーが勝手にADHDかもしれない、と言っても、まともな精神科医がきちんとみると、ごく一般的な精神疾患の症状なのです。
別に気づいていないとか見逃しているのではなく、精神医学の知識があって患者さんをきちんとみている精神科医であれば、精神疾患による認知機能障害や社会的機能、陰性症状など、きちんと精神疾患における重要な要素と理解してみているのです。
そして、きちんと治療しなければこういった機能が低下してしまうので、様々な研究で得られているエビデンスを考慮して、薬を選んで処方するのです。
そして、治療がうまくいっても、脳に病気が起こったわけですから、認知機能や社会的機能が低下しているので、支援を計画していくのです。
そういった医学知識がない人が、医学的には当たり前のことを知らずに、精神科医が見逃している、気づいていない、に違いないと本人のいないところで勝手に言いがかりをつけて嘘を広めてしまったのです。
自閉症やADHDを見逃しているのではなく、ごく当たり前に精神疾患による機能低下とか人格水準の低下とか、躁転とか、社会的引きこもりとか、強迫症状とか、認知機能障害とか、陰性症状とか、ワーキングメモリーの低下とか、判断しているだけです。
きちんと本人に確認して本当に自分たちの考えていることやしていることが正しいか調べて確かめればよかったのに、確かめもせずに、勝手に根拠のないことを広めてしまったのです。
また、日本国内の精神科医も残念なことにこんな心理士やカウンセラーと同レベルの人がたくさんいて、自分できちんと診察して診断できないから、こう言った心理士やカウンセラーの言うことを鵜呑みにして、言う通りに診断してしまうようになったのです。
こういう心理士やカウンセラーに知能検査と自閉症とADHDのテストをやってもらって、書かれた結果の内容が正しいのかどうかも判断できないくらいに専門知識がないので、そのまんま診断にしてしまうのです。
つまり、自分たちの専門分野であるはずなのに、世界で共通で使用されている診断基準は信用せず、そもそも医学知識がない、こんな方法で精神疾患の鑑別は不可能なこともわからない心理士やカウンセラーのみたてを信じてしまうようになったのです。
そして、心理士やカウンセラーがそのテストの結果を発達のでこぼこだとか、精神遅滞だとか、ADHDの傾向だとか、自閉症の傾向だとか、特性だとか説明してしまうのです。彼らにとっては医師のお墨付きがもらえたわけですから自信満々です。
精神疾患には前駆状態があり、徐々に症状や認知機能障害が出てきたり、社会機能が低下していく期間が年単位で見られます。こういった時期の専門知識が全くと言っていいほどなく、こういった時期の人を発達障害のグレーゾーンなどと、診断基準にも載っていないような言葉を勝手に広めてしまいました。
専門知識がないのは自分達の方で、専門的にわからないから、勝手に自分たちで思いついたことを広めてしまう、本当に最悪です。
だから、検査をしたら実は発達障害だったなんて言う人が、爆発的に増えてしまいました。それを見た人達が、信じてしまい、それなら私も発達障害だ、あなたも発達障害だになってしまったのです。
で、どうなるんでしょうか。
精神症状で色々なことが出来なくなってきたから通院していたはずなのに、実は幼い頃から自閉症だった、実はADHDだった、実は精神遅滞だった、生まれつきの特性だから治らない、理解して受け入れるしかない、子供の時に療育しないといけなかったのですが気づかなかったんですね、今からでも良くない行動は無視して良いこをすれば褒めてください、なんて言われるんです。
で、どうなるんでしょうか。
知能検査を受けて、初めは境界知能です。
しばらくして知能検査を受けなおして軽度知的障害です。
さらに精神症状悪化して数年後、中等度知的障害です。
さらに数年後、重度知的障害です。
知能検査を受けるたびに知能指数が低下していくのですが、これは病気によって脳の機能が低下しているのです。
で、どうなるんでしょうか。
精神症状は悪化、入院を繰りかえし、作業所に通いましょう、グループホームに入りましょう、もうここでは見られません。最終的な診断が自閉症と知的障害とADHDです。全て幼児期からの障害だったのに、気づかなかった親が悪者です。
それで本人が親を責めて親子関係が悪化していることも多々あります。
私が気づかなかったと自分を責めている母親もたくさんいます。
本当にいたたまれないです。
幼い頃に障害児ではなく療育が必要な子ではなかったのに、普通学級に普通に入学したのに、小さい頃は天真爛漫だったのに、明るい子供だったのに、おとなしい子供だったのに、いつの間に自閉症やADHDになってしまったのだろう。高校や大学まで行かせたのに精神遅滞と言われたけど本当ですか。私の育て方が悪くて発達障害になってしまったのでしょうか。真面目な良い子だったのにADHDになってしまった。この子の兄弟も発達障害、配偶者もグレーゾーン、祖父も発達障害。私も発達障害かもしれないから調べて欲しい。後天性の自閉症と言われている。カウンセラーに主治医に知能検査をしてもらえと言われた。
こんなのを毎日のように聞かされます。どれだけ出鱈目なことを言われているのか、わかるのでしょうか。
本当に大切なことはなんでしょうか。
診断基準や多くのエビデンスに基づいた適切で医学的根拠のある判断や診断、その診断のガイドラインに沿った適切な治療アルゴリズムです。当たり前のことです。予後が全く違います。
精神科以外の病気であれば普通そうしますよね。
諦めないで欲しいです。適切な診断と治療を行えば、たくさんの患者さんがよくなっています。