みなさまこんばんは。

 

 

精神科には毎日たくさんの患者さんがいらっしゃいます。

一人一人の患者さんとその御家族にそれぞれのドラマがあります。

必要に応じて生まれた時から来院するまでの人生を網羅するように情報を集めないといけません。

偏った情報の集め方では診断に至りません。

御家族についての情報も大切です。

 

 

そして、本人が語る情報と御家族が語る情報の両方が必要なことも多いです。

それぞれが語る内容が食い違うこともよくあります。

正反対のことを言うこともあります。

正しく判断するにはそういったことを区別できるくらいに丁寧にお話を聞く必要があります。

 

 

さて、今回は不注意についてです。

精神科について不注意というと何を思い浮かべるでしょうか?

何年か前だったら一般の方においてもうつ病の知識が広まっているために

うつになると注意力が低下してミスが多くなるくらいはよく知られていたことだと思います。

 

 

ところが、最近では不注意というとADHDを思い浮かべる人が多いようです。

これもネットやメディアの影響だと思います。

ものすごい勢いで誤解が広まっています。

日々の臨床で本当に困っています。

 

 

だって、不注意なんて精神科の患者さんの大部分にみられる症状です。

どんな患者さんだって不注意に心当たりがあるのではないでしょうか。

 

 

精神疾患は多かれ少なかれ脳の機能が正常に働いていない状態なのですから

注意力が落ちて当然です。

 

 

まず、統合失調症では注意力落ちます。

幻覚妄想などが強い時期はもちろん、

いくら治療がうまくいって寛解状態になったとしても病気になる前より落ちていることが多いです。

こういうのは認知機能障害というんですよ。

ADHDではありません。

統合失調症になる手前の段階の前駆期でも認知機能障害が起こりますから

注意力が落ちて学業や仕事がうまくいかなくなります。

これもADHDではありませんよ。

 

 

双極性障害ではもちろん注意力が低下しますよ。

躁状態では注意散漫になって集中できなくなりますよ。

色々なものに目移りしてしまいます。

ADHDであありませんよ。

軽躁状態では逆に頭が冴え渡って注意力が上がる場合もあるでしょうけど。

うつの時期になると、もちろん注意力は低下します。

ミスが増えていきます。

これもADHDではありませんよ。

 

 

もちろん、うつ病は注意力低下しますよ。

仕事でミスが増えます。

頭がそれまでのように回らなくなりますから当然です。

うつは寛解しても認知機能障害が残存するというのが今は常識です。

うつが治った後に注意力がいまひとつ戻っていなかったとしてもそれはADHDではありませんよ。

 

 

様々な不安症(不安障害)だって、不安が強い時には気が気じゃなくて

不安なことで頭がいっぱいですから注意力は落ちるでしょう。

強迫症(強迫性障害)だって、気になることで頭がいっぱいだったら

他のことには注意がむかないかもしれません。

 

 

てんかんだって様々な精神症状を呈したり、認知機能障害を伴ったりします。

注意力だって低下しますよ。

 

 

もちろん認知症は注意力低下します。

 

 

頭の血管に何か損傷をきたした後に起こる高次脳機能障害は

もちろん注意力が低下します。

 

 

例えば適応障害といわれるような

何か原因となる出来事の後に精神症状が反応して現れている場合も

その精神的な負荷となった出来事のことで頭がいっぱいで

注意する力は落ちているかもしれません。

 

 

境界型パーソナリティの人だって

気分がジェットコースターみたいにころころかわるんだし、

注意力は低下するでしょう。

 

 

不注意というのは精神科ではありふれたことです。

様々な精神疾患の一症状です。

不注意だからこの診断というわけではありません。

 

 

ところが、ADHDが気づかれなかったとか見逃されたという人達が広げた

いい加減な情報のために、あらゆる精神疾患の人が自分にあてはまると思ってしまうわけです。

精神科に始めてくる患者さんも、長く通院しているな患者さんも

自分はADHDではないかと言ってくるのです。

そして、毎回、ADHDではないということを説明しないといけなくなるのです。

 

 

中には最初から検査をしてくれとやってくる人もいて、

他の精神症状に伴うものだから検査するのは意味がないと毎回説明しないといけません。

 

 

また、最近問題なのは、統合失調症とADHDの合併とか双極性障害とADHDの合併などという診断です。

子供の時から明らかなADHDで小学校低学年で診断されていた人が、

大きくなってから統合失調症や双極性障害を発症したというのなら、合併でもよいでしょう。

しかし、そういった症例はまず見かけません。

 

 

実際にみかけるのは、統合失調症と診断された後や、双極性障害と診断された後に

ADHDとつけられているのです。

統合失調症も双極性障害も多動で不注意になる精神疾患なのでこんなことをしてはいけません。

その精神疾患でみられる症状について別の診断を加えてはいけません。

ごく基本的なことです。

 

 

とにかく、ADHDが見逃されたり気づかれなかったと言っている人達は

このようにあらゆる精神疾患の症状をADHDにしてしまうので本当に注意しましょう。

 

 

ADHDは小さい時から起こる障害です。

年齢とともに緩和されていきます。

 

 

大人になってから発症してだんだん悪くなる病気ではありません。

また、悪くなったのが治療でよくなって、時間がたって再発してくるような病気でもありません。

時期や季節によってADHDであったり、ADHDでなかったりすることもありません。

こういう寛解や増悪を繰り返すのは精神障害の特徴です。

 

 

場面によってかわる障害でもありません。

学校では落ち着いているけど、家ではADHDなんてことはありません。

逆に家では落ち着いているけど、学校ではADHDなんてこともありません。

 

 

精神科医はこういった細かいことを論理的に考えて判断しながら診察を行なっていかなかればなりません。

不注意だと言ったとたんにADHDを疑うような精神科医を信用してはいけません。