カジノ計画の為の無名街爆破セレモニーを阻止すべく、琥珀率いるSWORD連合が九龍グループの刺客達とMIGHTY WARRIORSとの激しい抗争を繰り広げ、彼らが隠蔽する公害の事実を暴露するまであと一歩と迫っていたその頃、さくら、ゼロ、そしてツクヨミは、たった3人で戸亜留目的地へとやってきていた。それは、組織のマークを囲んだ龍の像の背後に、広く巨大な屋敷が建てられていた場所だった。
さくら「・・・ここが、九龍本家の屋敷・・・」
ゼロ「奥に大ボスがいそうな気配が、屋敷のデカさからプンプンするね・・・」
ツクヨミ「・・・行こう」
さくらとゼロはツクヨミの体を抱えながら、足並みを揃えて屋敷の中へ入っていく。主に会長達が集まって会議する際は、屋敷の前に無数の黒い車が並んでいるが、この時はそれが1台も止まっていなかった。3人は会長達が集まる専用の一室に足を運ぶが、その奥には九つの龍を表すようなシンボルが造られているだけで、人影は見えなかった。
さくら「誰も、いない・・・?」
ゼロ「・・・どうする?ここまで来て無駄足だったりしたら」
ツクヨミ「・・・ううん・・・必ず、どこかにいる筈・・・そんな気がするの」
ツクヨミの勘に従い、さくらとゼロは屋敷の広場を探索する。周りには九龍の構成員が隠れている気配も無く、ただ静けさだけが屋敷内に漂っていた。
さくら「九龍の人達は皆、無名街かセレモニー会場に集まってるのかな・・・?」
ゼロ「罠の可能性もまだ捨てきれない。注意しないと・・・」
ツクヨミ「・・・う・・・っ」
さくら「菜緒、大丈夫・・・?今は休んで、私達だけで九龍の総裁を――」
ツクヨミ「・・・そうは、いかない・・・私がけじめをつけたいって、言ったから・・・休んでなんか、いられない・・・先に進もう」
さくら「・・・分かった」
自分達がここに来ることを敵も想定している筈だと考えるさくらとゼロは、ツクヨミの傷を案じながら警戒して進んでいく。辺りの部屋を次々に確認しつつ、残すは最後の一室のみだった。
さくら「後は、ここだけ・・・」
ゼロ「・・・私が先に開ける」
さくら「・・・うん」
ゼロが1人で部屋の襖を開ける。すると、その奥には大きく「心」という字が飾られ、周りにはロウソクが何本も立てられているだけで少し薄暗い部屋の中に、敷かれている布団の前で座している男の姿があった。
???「・・・生きてやがったか」
ゼロ「アンタは・・・!」
ツクヨミ「黒崎、君龍・・・」
そこで座していたのは、次期総裁筆頭候補と称され、実質九龍の№2という立ち位置にいる黒崎会会長・黒崎君龍だった。そしてさくら達は彼の前に敷かれている布団で誰が眠っているのか確認しようと足を進めると、それは3人も予想できなかった人物だった。
さくら「え・・・この人は・・・!?」
ツクヨミ「九龍グループの総裁・・・九世龍心・・・!」
ゼロ「でも、これって・・・」
彼女達の目の前には、紛れもなく九龍の総裁である九世龍心の姿が映っていた。しかし、布団の中で眠っていた龍心は、老いによって体の具合が悪くなっていたせいか、目が覚める気配は一向に感じられなかった。
黒崎「マジ女のラッパッパ部長が、たった2人の仲間を連れてここまで来るとはな・・・だが、見ての通り親父はこの様だ・・・代わりが俺でよければ、お前達に付き合ってやろう」
親父と慕う龍心が倒れた悲しみを抱きつつも、3人を前に堂々とした威風で対話に臨む黒崎。その姿に組織を代表する者としての器を感じたツクヨミは、意を決して彼と語り始める。
ツクヨミ「・・・あの時、貴方は言っていた・・・今の貴方達には無いものを、私達なら持っているって・・・あれは、どういう意味なの?」
それは、キバの手によってタイヨウを失ったあの日、黒崎が呟いていた言葉だった。それを言ったことにツクヨミや楓士雄らが感じていた疑問に対し、黒崎はこう答えた。
黒崎「・・・お前らには信じられない話かもしれねえが・・・親父や俺も、昔は弱い者の為に戦っていた。身寄りの無い者、飢えに苦しむ者・・・そんな連中を守る為に組を立ち上げ、極道の道を歩んでいった」
ゼロ「アンタらが・・・?」
黒崎「ああ・・・だが、後に善信や植野、日向の兄達のように過激な連中も俺達の下に集まり、いつしか九龍は弱い者を守る立場ではなく、そいつらから奪う立場として動く組織になっちまった・・・親父はずっと、その事を気にかけていたんだ」
さくら「九龍の総裁が、そんなことを・・・」
黒崎「・・・そして俺達は、政府と結託してSWORD地区に大きなカジノ施設を建てる計画を考えた。そんな時にマジ女やムゲン、鬼邪高といった若いもんの姿が俺達の目に映った・・・俺達のように普通じゃない道を歩みながら、何かを守ろうとして喧嘩するお前らみてえなガキの姿がな」
ツクヨミ「・・・!」
黒崎「お前らのような存在を、新しい風と称して九龍に取り入れれば或いは・・・親父と俺はそんな思いを抱きながら、お前達を試してきた。まあ・・・善信に源、家村や上園のやり方も強引過ぎる故に、お前らガキ共からは忌み嫌われる組織になっちまっただろうがな」
同じ組織として動く一部の者達のやり方が、過激、強引だと分かりつつも、途中で後戻りはできない程に九龍が悪事を重ねてしまったことを笑いながら語る黒崎。すると、彼の話を聞いたツクヨミはさくらから離れ、ふらつく足元で黒崎と対面しつつ語り出した。
ツクヨミ「・・・貴方達も最初は、私の義姉のように弱い人々の味方だった・・・でも人数が増えるにつれて、長い時間が経って・・・貴方達は本来の組織の在り方を見失ってしまった。人として生きる上で一番大切なもの・・・心の一部が欠けてしまった」
黒崎「・・・!」
ツクヨミ「今の貴方達には無くて、私達にはあるもの・・・それは・・・仲間や家族、親友・・・そんな人達と、同じ時間を過ごした思い出や、生まれ育った居場所・・・その全てを守りたいと、強く思う心だと・・・私はそう思う」
さくら「・・・菜緒」
ツクヨミ「・・・私も・・・私自身が進むべき道を、何度も見失いかけた・・・けれど・・・それを正してくれたのが、ゼロやウサギ、シンガーにプリンセス達、同じマジ女の仲間・・・そして・・・どこまでも私を支えようとしてくれた、タイヨウとさくら・・・かけがえのない、友達の存在だった・・・皆がいてくれたからこそ、私は今ここにいる・・・心を強く持って、貴方達とのけじめをつけられる」
友や仲間の存在、彼女達と過ごした思い出を胸に、ラッパッパ部長としてのけじめをつけようとするツクヨミ。さくらとゼロも強く見守っている中、ほんの少しの長い沈黙を黒崎が破った。
黒崎「フッ・・・再生には、破壊が付き物ってことか」
そう言うと、黒崎は自身が持っていた携帯を取り出し、自身を兄貴と慕う克也に連絡をかけていた。そして、彼の口から次に出された言葉は・・・
黒崎「・・・克也、カジノ計画の手を引け。今回は俺達の負けだ」
一方、無名街爆破セレモニーの会場――そこにはシャドウ率いるマジ女一行やシュラをはじめとする矢場久根勢、鳳仙学園の精鋭達が合流し、SWORD連合が九龍の構成員達を押し潰そうとしていた。九龍に雇われていたMIGHTY WARRIORSも、広斗や楓士雄達との戦いで追い詰められていたその時、会場の中から琥珀、雅貴、コブラ、九十九、ヤマトが出てきた。
広斗「・・・!雅貴、琥珀・・・」
楓士雄「どうなったんだ・・・?」
九龍やMIGHTYと交戦していた仲間達が、セレモニーの行方がどうなったのかを待ち望んでいると、琥珀と雅貴に促されたコブラが拳を高く突き上げた。そのポーズを見た瞬間、一同からは歓喜の雄叫びが飛び交った。
一同「・・・っしゃあああああぁぁぁぁーーーっ!!」
村山「テメエら、『終わった』って~~っ!!」
村山が鬼邪高生徒達に叫び、司は辻、芝マンとハイタッチするなど、皆が勝利の喜びを味わった。薬品工場の責任者が研究資料を手に取りながら告発し、そして有害物質に体を汚染されたスモーキーがこれまでの自分達の生活を語ったことで、九龍と政府が隠蔽しようとしていた公害の事実が暴かれたのである。
広斗「・・・終わったみてえだな」
ICE「あぁ?んなん関係ねえよ・・・」
PEARL「ICE・・・!?金にならねえ喧嘩なんて意味ねえぞ!」
PEARL達の制止も聞かず、ICEは広斗との勝負を続けようとする。しかし今度はJESSEが、ICEの肩を組みながらにこやかに呟いた。
JESSE「ICE・・・NEXT STAGE」
ICE「・・・分かったよ」
JESSEの言う事を聞いたICEは戦意を解き、MIGHTYの仲間達と会場を去ろうとする。すると、彼らは共闘していた劉にも声をかける。
PEARL「・・・劉!」
劉「・・・先に行ってくれ。俺は父との別れを済ませてくる」
JESSE「・・・そうか。じゃあまたな」
劉は既に亡き人となっている父・龍心の下へゆっくりと歩きだした。MIGHTYは友情を結んでいる彼を静かに見送ると、再びICEが広斗に目を向ける。
ICE「・・・See you soon.Bro」
広斗「・・・フン」
いずれ決着をつける・・・そんな思いを込めた視線を広斗と交わし、ICEらMIGHTY WARRIORSは姿を消す。そんな中、会場では取材班からの疑問が絶えない大臣が、カジノ計画は国を思ってのことだと言い逃れをしていた。
琥珀「本気でこの国を思ってんなら・・・逃げも隠れもせず、正しく生きろ・・・!!」
楓士雄「・・・あ~あ、疲れたぁ~っ」
九龍やMIGHTYとの長い戦いが終わり、緊張が解けた楓士雄は大の字に倒れ、広斗も思わず腰を下ろした。そこに雅貴やコブラ、シャドウらが集まっていく。
轟「・・・おい」
楓士雄「・・・!へへ・・・すまねえ、ドロッキー」
楓士雄は、かつてのタイマンで村山が自分にしたように、デコピンの動作を見せた轟に手を取られて立ち上がる。雅貴も弟の広斗に手を差し伸べ、広斗が立った直後に離れようとすると、雅貴はグッと掴んでその手を離さなかった。
雅貴「・・・やったな」
広斗「・・・ああ」
尊龍や両親を奪われたけじめをつけ、共に笑い合う雅貴と広斗。コブラとヤマトも、九龍からSWORDを守れたことに笑みを浮かべていた。
ヤマト「俺達、本当に九龍との喧嘩に勝ったんだな」
コブラ「ああ・・・龍也さんも喜んでくれるだろう」
リリィー「私達の革命は、成功したんですね・・・」
シュラ「まあ、見方を変えたら国に対する叛逆者って感じだけどね」
シャドウ「だが、全員がカジノ計画に賛同していたわけでもない。他の政治家達が集まって、日本政府も立て直しを図るだろう」
佐智雄「・・・これで貸し借りは無しか?」
楓士雄「そうなるな・・・一緒に戦ってくれてあんがとよ、サッチー」
佐智雄「フッ・・・その呼び方、止めろ」
愚痴を零しながらも、佐智雄は楓士雄と拳を交わし、互いの健闘を称え合った。カジノ計画が中止になったことで、SWORDに平和が戻るかと誰もがそう思っていた・・・
楓士雄「・・・あっ、そうだ!さくちゃん達は!?」
ウサギ「そういえば、ツクヨミ達が九龍の屋敷に向かってるんだった・・・!」
琥珀「公害が暴かれたことで、USBのデータも嘘偽りがないと分かった警察が、また総裁を逮捕しに来るのも時間の問題だ」
会場にいた善信達も警察や取材班に取り囲まれ、残すは屋敷にいる黒崎と龍心のみ。さくら達は無事にけじめを果たせたのか・・・ツルはじっと先の光景を見つめていた。
ツル「・・・さくらちゃん」
???「・・・そう簡単に、終わらせられるわけにはいきませんね」
さくら・ゼロ「・・・っ!?」
その頃、九龍本家の屋敷では、亡き龍心に代わり黒崎が敗北宣言をしたことで、ツクヨミ達もけじめを果たしたかに見えた。だが、さくらとゼロの背後に1人の女性が姿を現したのである。
さくら「誰、ですか・・・?」
黒崎「・・・暗石舞衣か」
ゼロ「暗石?・・・まさか、こいつがクライシス財閥の!?」
自分達の目の前にいるのが、クリーナーを差し向けた財閥を仕切る者だと知り、さくら、ゼロ、ツクヨミが警戒心を露わにする。一方、カジノ計画に賛同していた暗石は、計画の中止に不満を抱いていた。
暗石「過去の公害が暴かれたことで、九龍と推進派の政治家は一斉検挙、カジノ計画は中止・・・ここまで事を運んでおきながら、そのような幕切れではつまらないんですよ」
ゼロ「何言ってるの、アンタ・・・!?」
暗石「フフ、ですから・・・私達が計画を引き継ぎ、無名街の爆破を続行すると言ってるんですよ」
さくら「え・・・っ!?」
黒崎「・・・最初からそれが狙いだったのか」
暗石「勿論、貴方方とは良い関係を結ぼうと考えていましたよ?しかし今回の件で九龍が影響力を失った以上、切り捨てるしかありません・・・我々だけで、この国の未来を形作っていきます」
ゼロ「状況が分かってないでしょ、アンタ・・・先に公表されたUSBのデータの中には、アンタ達に対する利益の情報も含まれてんだよ?」
暗石「そんなもの、力で捻じ伏せてしまえばどうということはありません」
ゼロ「は・・・!?」
暗石「警察や貴方達周りの人間も、法案に協力、賛同してくださる方を除いて排除すれば、我々に対する反抗勢力は消滅します。後は海外の力を上手く利用できれば、カジノの利益は沢山儲かり、クライシス財閥がこの国を統べられる!」
ツクヨミ「・・・そんなこと、させると思ってるの・・・!?」
さくら「私達が、貴女を止めます・・・!」
さくらとゼロが暗石を取り押さえようとする。しかし、そこに彼女ら財閥が育成した最強のクリーナー・キバが立ちはだかった。
さくら「な・・・っ!?」
キバ「・・・邪魔はさせないよ」
キバは2人がかりで挑むさくらとゼロを驚異的な強さで足止めする。だがその間に、ツクヨミが傷の痛みを堪えながら暗石に向かっていった。
ツクヨミ「貴女さえ倒せれば、今度こそ全てを終わらせられる・・・!」
暗石「できると思いますか・・・?そんな体で!」
暗石は不敵な笑みを浮かべ、ツクヨミを通路の壁にぶつけて蹴り飛ばしながら、部屋を後にする。残っていたのはキバと戦うさくらとゼロ、そしてこの状況を黙って見ていた黒崎だった。
さくら「・・・っ、逃げてください!黒崎さん!」
黒崎「・・・俺を生かそうっていうのか?」
ゼロ「総裁がとっくに眠ってる以上、アンタが九龍の頭としてこれからの責任を償うべきだ!こんなところで死なれたら、後先が面倒なんだよっ!」
さくらとゼロは黒崎の身に危険が迫らないよう、体に力を入れてキバを押し出していく。彼女達の戦いを見届けていた黒崎は、再び携帯を手に取って警察に連絡した。
黒崎「・・・九龍グループ代表の黒崎だ。今回の件について、話はいくらでも受ける・・・だが、今は屋敷に近づくな。クライシス財閥が育てたクリーナーの手で、お前達も消されるぞ」
さくら、ゼロの2人と別れ、1人で暗石と対峙するツクヨミ。だが、それなりに体術も会得している暗石に対し、腹を負傷しているツクヨミは苦戦を強いられていた。
ツクヨミ「く、う・・・っ」
ツクヨミは痛みに耐えつつ暗石に殴り掛かるが、暗石は二度蹴りをくらわせて彼女をダウンさせる。さらに腰に携えていた短刀を手に持ち、ツクヨミに斬りかかっていく。
ツクヨミ「・・・っ!」
ツクヨミは暗石の短刀を避けて蹴り返し、再度拳を繰り出す。しかしこれをかわした暗石に腹を膝蹴りされ、回り込まれたところで背中に斬り付けられてしまう。
ツクヨミ「うあぁ・・・っ!」
暗石「フフフ、動きが鈍いですね?」
暗石の蹴りを転がって避けるツクヨミは、横に振られた刃をしゃがんで回避した直後に殴り返し、もう一度拳をくらわせようとするも、逆にしゃがんだ暗石に腹を斬られてしまう。
ツクヨミ「ぐぅ・・・っ!」
深く斬り込まれてはいないものの、マジ女校舎でバイオにやられた傷が癒えていないツクヨミは、ダメージが重なることで体を思うように動かせず、顔を蹴られて転がってしまう。
ツクヨミ「う・・・っ!はぁ、はぁ・・・」
暗石「楽には殺しませんよ?貴女には私の楽しみを奪ったお礼をしなければ・・・!」
ツクヨミ「・・・っ、貴女・・・さっきはあんなこと、言ってたけど・・・最初から総裁を暗殺して、計画を乗っ取るつもりで・・・!」
暗石「ええ・・・何せ、あのような老いぼれ共にこの国の未来を任せるなんて考えられませんもの。私ならより強く、活気に溢れた国を造れますわ」
ツクヨミ「その為に・・・どうやって貴女は、組織のトップに立ったというの・・・?」
暗石「決まっているでしょう?かつて財閥を仕切っていた父を殺し、私が取って代わっただけのこと・・・」
ツクヨミ「・・・!?親を、殺して・・・?」
暗石「学生生活を送っていた頃の私は、勉学や武道、何をやっても成績優秀だった。父も母も、それは自分の事のように嬉しがり褒めてくださいましたわ・・・でも、私が財閥を引っ張っていきたいという願いだけは聞き届けてくれなかった。『お前にはまだ早い』と笑い飛ばして・・・そう言いながら、父が経営してきた財閥の利益は上がっては下がっての繰り返しで、そのままでは父の無能さが世界にばらされ、財閥の存在も地に落ちてしまう!そのような未来に耐えられなかった私は、私の力を見くびったた父や母を殺し、トップとして財閥を導いてきたのです」
ツクヨミ「・・・なんて、ことを・・・っ」
暗石「所詮世界の在り方などそういうもの!優れた者が生き残り、そうでない者は地獄に落ちる!私は地獄を見たくなかった・・・だから力を蓄え、未来を見据え、これまで九龍を支援する形でカジノ計画に貢献していった。時が来た暁には、私が全ての利権を牛耳る為に・・・!!」
ツクヨミ「・・・クリーナーを差し向けて、私達を踏みにじろうとしたのも・・・その為に・・・」
暗石「そう・・・貴女方のようなちっぽけな存在など、私が頂点に這い上がる為の踏み台にしか過ぎません。なので、そんな貴女にいつまでも構っていられないんですよ・・・それなりに私を満足させてから、醜く散りなさい!」
暗石は何とか起き上がったツクヨミに対し、短刀を振り下ろす。しかし、ツクヨミは咄嗟に刃を捕まえ、片手から血を流しながらも寸前で攻撃を止めていた。
ツクヨミ「・・・貴女なんて、トップに立つ器じゃない・・・」
暗石「・・・は?」
ツクヨミ「他人を見下して、自分の力しか信じられない貴女が・・・周りを引っ張っていけるような存在に、なれるはずがない!」
強い眼差しで暗石を睨んだツクヨミは、両手に力を入れて暗石から短刀を奪い取り、それを投げ捨てた直後に暗石を殴りつけた。
暗石「っ!・・・ゴミのような貴女達を見下して、何がいけないというのですか!?」
ツクヨミ「確かに・・・私達は喧嘩してばかりで、何度も道を間違えて・・・どうしようもないゴミのような存在かもしれない・・・けど、それでも必死に生きてる!私達は、支え合いながら生きてるのっ!」
暗石「支え合って生きる?ゴミが束になったところで、それよりも強い力の前には塵に等しいんですよ!!」
ツクヨミの言葉を嘲笑う暗石は彼女に殴り掛かるが、片腕でガードしたツクヨミはすかさず殴り返し、追撃を図る。これを受け止めて膝蹴りを喰らわせた暗石は、怯んだツクヨミの顔に蹴りを入れるも、足を強く踏ん張ったツクヨミの裏拳を受けて体勢を崩す。
暗石「く・・・っ!?」
ツクヨミ「ああぁぁぁっ!」
ツクヨミは勢いよく暗石を蹴り飛ばし、部屋の外の通路に追いやった。暗石は腹に受けた痛みを堪えつつ立ち上がるが、全身が傷だらけにも関わらず向かってくるツクヨミに恐れを抱き始めていた。
暗石「な、何故・・・っ、ボロボロな貴女の、どこにそんな力が・・・!?」
ツクヨミ「はぁ、はぁ・・・私は・・・1人じゃない・・・色んな人の思いを背負って、立っている・・・」
暗石「人の、思い・・・っ?」
ツクヨミ「離れた場所で、一緒に戦った仲間達・・・貴女達が仕組んだ抗争で、散っていった人達・・・そんな人達の思いを・・・私は、この拳に乗せているっ!」
暗石「・・・認めません・・・そんな下らない感情で戦う貴女に、私が負けるなど!!」
暗石は込み上げた怒りに身を任せてツクヨミに殴り掛かるが、ツクヨミはその拳を掴み、鋭い眼差しをぶつけながら決して離さなかった。
ツクヨミ「これは・・・貴女達に殺された、先代の生徒達の分!」
暗石「ぐはっ・・・!?」
ツクヨミ「これは・・・仲間を失って悲しんだ、お姉ちゃんの分っ!」
暗石「うぐぅ・・・っ!」
ツクヨミ「これは・・・っ、命を賭けて、私に望みを繋いでくれた、タイヨウの分!!」
多くの人の思いを拳に込めたツクヨミは、連続で暗石に渾身の一撃を叩き込み、彼女の体力を大きく削った。崩れ落ちた暗石の視線の先には、もう一度拳を強く握りしめ、止めを刺そうとするツクヨミの姿があった。
ツクヨミ「・・・これで・・・全部っ!!」
暗石「・・・!!」
ツクヨミは拳を振り上げ、暗石を倒そうとした。しかしその直前、暗石は隠し持っていた拳銃を手に取り、それをツクヨミの前で発砲したのだった。
ツクヨミ「・・・っ!?」
暗石「ハ、ハハハ・・・ッ」
暗石の放った銃弾は、ツクヨミの腹に命中していた。それでもツクヨミは最後の力を振り絞り、暗石を殴り倒す。暗石が気絶したのを確認したツクヨミは、足元がふらつきながらもその場を後にしようとする。そんな彼女の脳裏に浮かんだのは、亡き義姉と友の面影だった。
ツクヨミ「・・・全部、終わったよ・・・お姉ちゃん・・・タイ、ヨウ・・・っ」
そう呟いたツクヨミは、全身の傷を無理に堪えていたせいか、ついに力尽き倒れてしまう。そこへ、ゼロと共に戦っていたさくらがキバの攻撃を受けて吹っ飛ばされてきた。
さくら「うああああっ!ぐ、うぅ・・・っ」
キバ「・・・あれ、暗石・・・?」
ゼロと取っ組み合いをしていたキバの目に映ったのは、ツクヨミに敗れて気を失った暗石の姿だった。隙を突いたゼロが彼女を蹴って遠ざけるが、ゼロもそれに反応して後ろを振り返った。
ゼロ「・・・!ツクヨミ・・・!?」
さくら「・・・えっ?」
ゼロの言葉に反応したさくらが、体を起こして横に目を向けると、ツクヨミは彼女の前で体から血を流して倒れていた。
さくら「な・・・菜緒っ!!」
さくらは咄嗟に駆け出し、ツクヨミの体を抱きかかえる。腹の傷から溢れていた血で手を染めながらも、さくらは必死にツクヨミを起こそうと揺さぶった。
さくら「菜緒!菜緒っ!しっかりして、菜緒・・・っ!」
ツクヨミ「・・・う、っ・・・さく・・・ら・・・?」
閉じていた瞼を開き、自身を抱えるさくらの名を口に出すツクヨミ。さくらは一瞬安堵したが、彼女の声が掠れていたことに再び大きな不安を抱く。
さくら「菜緒、大丈夫!?体のあちこちに傷が・・・!」
ツクヨミ「・・・さくら・・・私・・・暗石を・・・止められた、かな・・・?」
さくら「えっ?・・・うん、暗石舞衣は気を失ったままだよ・・・!」
ツクヨミ「・・・そっか・・・私・・・けじめを、つけられたんだね・・・私の命が・・・尽きる前に・・・」
さくら「・・・!そ、そんな・・・っ」
自分の命が尽きる前に・・・そんなツクヨミの言葉に、さくらは強いショックを受けていた。だが、ツクヨミはさくらに弱弱しくも微笑んでいた。
ツクヨミ「いいの・・・いつかはこうなるって、覚悟してたから・・・それに・・・皆の居場所を、守れたんだもの・・・悔いはない・・・これで・・・お姉ちゃんと、タイヨウの所に・・・逝ける・・・」
さくら「菜緒・・・く・・・っ!」
死を覚悟したようなツクヨミの言葉に、さくらは思わず涙を浮かべ、彼女の体を抱きしめた。そんなさくらに、ツクヨミは声を震わせながら話を続ける。
ツクヨミ「ごめんね、さくら・・・でも・・・ここまで来れたのは・・・貴女のおかげだよ・・・」
さくら「私の・・・おかげ?」
ツクヨミ「何も言わずに、去っていった私を・・・貴女が、マジ女まで追いかけてくれたから・・・貴女と喧嘩して、私は自分の心を取り戻せた・・・復讐心から解放されて・・・タイヨウ達と、ラッパッパとしての絆を育めた・・・お姉ちゃん達が、命がけで守ったマジ女を・・・皆と同じ時間を過ごした居場所を、本気で守りたいと思うようになった・・・だから私は・・・最後まで、拳を振るえた・・・皆の為に、戦えた・・・」
さくら「・・・あ・・・」
ラッパッパとしての絆を育めたこと、最後までマジ女の為に戦えたこと・・・それらが自分と再会できたからだというツクヨミに、さくらは強く心を打たれていた。そしてツクヨミはさくらと向き合い、涙と笑顔を見せながら思いの全てを伝えた。
ツクヨミ「・・・ありがと、ね・・・さくら・・・私を・・・闇夜の中から、救ってくれて・・・マジに・・・生きさせて、くれて・・・本当に・・・ありがとう・・・」
最期の言葉を伝えたツクヨミは、ゆっくりとさくらの横に倒れ込んだ。彼女の瞼は再び閉じたが、その表情は笑みを残していた。戦いを終えて、安らかな眠りについたツクヨミを目の当たりにし、さくらの心は大きな悲しみに満ち溢れていた。
さくら「・・・菜緒?菜緒、菜緒・・・っ!あ・・・あぁ・・・菜緒ーーーーーっ!!」
最終話へ続く