第6話 強襲、矢場久根 | 坂道&ジャンルマルチブログ

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現在の主な推しメンは遠藤さくら・賀喜遥香(乃木坂)、藤吉夏鈴・森田ひかる・山下瞳月(櫻坂)、小坂菜緒・正源司陽子(日向坂)です。

その日の夜、何人かのマジ女生徒が鬼邪地区の街を歩いていた。彼女達は現ラッパッパ四天王がさくらやゼロに敗れたことで、自分達が今後どうすればいいか迷っていた。

「さっき四天王のタイヨウさんが、あの転校生に喧嘩で負けたって話だぞ?」

「どうすんのさ!?今のラッパッパの勢いが強そうだったから、アタシら付いて行こうとしたのに・・・!」

「このままマジ女にいても未来はない・・・こうなったら、鬼邪高の定時に逃げ込む!?」

「ていうかいっそ、矢場久根に転入しようぜ!ホントは嫌だけど、鬼邪高に喧嘩吹っ掛けようとしてるマジ女よりは――」

???「へえ、うちに入りたいんだ・・・?」

その時、後ろから1人の少女の声が聞こえた。マジ女生徒達が振り向くと、そこには白いスカーフを着けた制服の不良少女がいた。

???「だったらその前に・・・ちょっと付き合ってもらうよ?」

その少女は不意に駆け出し、軽く飛びながらマジ女生徒の1人を殴り倒す。さらにしゃがむのと同時に2人目の足を蹴って転ばし、自身を止めようとした3人目の腹を肘で殴り、連続パンチで圧倒。そして怯えていた4人目を助走をつけて膝蹴りし、倒した直後に胸ぐらを掴んで言い放つ。

???「これ以上痛めつけられたくなかったら、明日もちゃんとマジ女に登校すること・・・分かった?」

「や・・・矢場久根の、ハンター・・・ッ!ひいぃぃっ!」

恫喝されたマジ女生徒の1人は、そのまま逃げ去っていった。ハンターと名を呼ばれた少女は、携帯を取り出して仲間達に連絡を送った。

ハンター「こちらハンター、獲物を4人ほど狩った」

???『ちょいちょい!いくらなんでも早すぎやろ!?』

???『流石ハンター・・・うちらもせっせと働かんとな』

ハンター「フン・・・もっと狩り尽くすよ。なるべく鬼邪高には怪しまれないようにね」

ハンターは複数の仮面を被った不良少女を連れ、さらにマジ女生徒を狙おうと動き出す。夜の街中で暗躍する、矢場久根女子商業の目的とは・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、さくらとタイヨウが勝負した翌日のマジ女校舎には、いつも通り登校するさくらの姿があった。だが、タイヨウとの勝負や直後に現れたかつての友・ツクヨミの不意打ちをくらった傷がまだ癒えておらず、苦しみながら足を進めるさくらの下へツル達が駆け寄った。

ツル「さくらちゃん!大丈夫なの、体の怪我は?」

さくら「はい、何とか・・・うっ・・・!」

シスター「さくらちゃんっ!」

メンドウ「無理してこなくてもよかったのに。昨日のタイマン、激しかったから・・・」

さくら「・・・けど、どうしても気になったんです。ラッパッパが・・・菜緒とタイヨウさんが、あの後どうしてるか・・・」

さくらはツル達に心配されながら、校門を通っていく。すると、入り口前でとある3人組が深刻な表情を浮かべていた。その3人は、ラッパッパ四天王のウサギ、シンガー、プリンセスだった。

シスター「あれ?四天王が・・・」

シンガー「・・・!アンタ達、2年の・・・」

ツル「何かあったんですか?」

ウサギ「・・・タイヨウが来てないの」

シスター「えっ・・・?」

プリンセス「ラッパッパが再編されてから、タイヨウはいつもツクヨミと一緒に部室にいた・・・なのに、今日はまだ一度も姿を見てないのよ」

ウサギ「さくらとのタイマンの後、ツクヨミがタイヨウに向かって『もう必要ない』って言ってた。もしかしたら、その言葉がショックで・・・」

さくら「そんな・・・タイヨウさん・・・」

プリンセス「・・・元はといえば、貴女がこの学園に転校してきたから!」

ウサギ「プリンセス、駄目だよ・・・!」

プリンセスは、さくらの転校から四天王全員が敗北する流れができてしまったと考え、1人だけさくらを強く責めた。ウサギが彼女を制止するが、さくらは責任を感じるように顔を俯かせた。

シンガー「でも・・・やっぱりおかしいよ、ツクヨミ・・・私達がラッパッパとして集まる前から、傍で支えてたタイヨウになんであんな・・・」

ウサギ「私達・・・どうしてラッパッパとして集められたのかな?」

プリンセス「それは鬼邪高を倒して、マジ女の権威を取り戻す!その為、だと思っていたのに・・・」

ツクヨミがタイヨウを突き放したことで、他の四天王3人もラッパッパを再編したツクヨミの真意が分からずにいた。そんな中、いくつかの足音が後ろから近づき、一同が振り返ると傷だらけのマジ女生徒が登校し、入り口前から来たところで倒れてしまった。

プリンセス「・・・!貴女、どうしたのその怪我!?」

ツル「酷い。誰かと喧嘩したのかな・・・?」

シンガー「そういえば、タイヨウを探してる時に見かけたうちの生徒も何人かボロボロだったような・・・」

シャドウ「・・・おそらくそいつも含めて、矢場久根にやられたんだろう」

そう言いながら、入り口から出てきたのは生徒会のシャドウとミュゼだった。シャドウの口から矢場久根の名前が出た途端、プリンセスやシンガーは表情を歪ませる。

プリンセス「矢場久根ですって・・・!?」

ミュゼ「ええ。登校していた生徒の1人に話を聞いて、昨日の夜に矢場久根生徒達の襲撃を受けたらしいわ」

メンドウ「矢場久根って・・・確か昔から、マジ女と喧嘩することが多かった学校ですよね?」

シャドウ「昔は何度もマジ女が返り討ちにしてきたがな。ラッパッパをはじめ実力者が多かったうちに対し、向こうは武器に頼って喧嘩するようなやり方だったが・・・今や世代が変わるごとに、矢場久根もその力を増してきている」

シスター「強くなってるんですか・・・?」

ミュゼ「今の矢場久根3年には、柱ともいえる4人の強者が在学しているの。小柄な体格でウサギと同等の身体能力を持つハンター、頭上に振り下ろされる掌底は絶対にガードできない技のスパイク、集団戦においては聴覚だけで相手の動きを察知できるリッスン・・・」

シャドウ「リッスンは情報収集能力にも長けている。さくらとタイヨウの勝負も、おそらくは奴に監視されていたはずだ。そしてこいつらを従え今の矢場久根の総長を務めているのが、齋藤飛鳥・・・仇名はシュラだ」

ツル「シュラ・・・?」

シャドウ「容姿とは裏腹に、鬼の如き強さを持つことからそう呼ばれるようになった。先代の総長も奴にだけは手出しできなかったとされている」

ミュゼ「先のヤクザとの抗争にも、あまり関わりを持とうとしなかったみたいだしね・・・」

シンガー「でも、なんで矢場久根がこんな時に・・・あいつらだって前の抗争で犠牲者が出て、鬼邪高の軍門に降ってるはずでしょ?」

プリンセス「まさか鬼邪高が、私達の動きに感付いて矢場久根に潰させようと・・・!?」

ウサギ「こんな時、タイヨウがいれば・・・」

矢場久根の暗躍に不安を募らせるウサギ達。一方さくらは、前に出会った花岡楓士雄や高城司が在学する鬼邪高がそのようなことをするとは思えずにいたが、先ほどのプリンセスの発言で責任感を持っていた彼女はこう言い放った。

さくら「・・・私、タイヨウさんを探してきます」

シンガー「えっ・・・!?」

プリンセス「貴女が・・・?」

さくら「プリンセスさんの言う通り、私がマジ女に転校してこなかったらこうはならずに済んだかもしれない・・・ただ、私は菜緒に会いたかった・・・菜緒と話がしたかっただけ・・・それでも、今の菜緒の支えだった人達を突き放そうとは思いません!シンガーさんも、プリンセスさんも、ウサギさんも、タイヨウさんも、今の菜緒にとって皆大切な存在のはずなんです!」

ウサギ「さくら・・・」

さくら「私は、菜緒が本当にやりたいことを知りたい・・・それがマジ女の為になることなら、私も手伝いたい!生徒会も、ラッパッパも関係ない・・・皆でマジ女を守りたいんです!」

ツル「さくらちゃん・・・」

さくらの叫びに、ツル達は心を打たれる。そして、今まで敵対していたはずの自分達をも思うさくらに対し、四天王3人は意を決した表情で向き合った。

プリンセス「・・・貴女は、ツクヨミがマジ女の為に何かをするつもりだと信じているのね」

シンガー「あんだけぶつかり合った私らのことを、そこまで思ってくれるなんて・・・」

ウサギ「・・・一緒に、タイヨウを探そう。それからツクヨミに会って、皆で話そう」

さくら「・・・はい!」

さくらはウサギ、シンガー、プリンセスの3人と共に、行方が分からないタイヨウを探しに行く。ツル達やシャドウとミュゼ、そして校舎の窓から様子を眺めていたゼロも、4人の後ろ姿を見送った。

ゼロ(・・・遠藤さくら、あの子がラッパッパを変えたというの?あの子の何が、そうさせるというの・・・?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、マジ女に姿を見せていなかったタイヨウは、地区内の河川敷で座り込んでいた。その脳裏には、さくらとのタイマンに敗れた直後にツクヨミに言われた言葉が今も刺さっていた。

ツクヨミ『今の貴女じゃ足手まといになる・・・消えて』

タイヨウ「・・・今の私じゃ、もう・・・ツクヨミの支えになれない・・・」

深いため息をつき、顔を埋めるタイヨウ。すると、そんな彼女の下に歩み寄り、声をかける者がいた。

???「・・・何を落ち込んでいるんだ?」

タイヨウ「えっ・・・?」

タイヨウが埋めていた顔を上げると、視線の先には自分達より少し大人びた女性の姿があった。初めて出会う人物の問いに、タイヨウは戸惑いながら答えた。

タイヨウ「・・・ちょっと、友達と仲が悪くなって・・・」

???「・・・そうか」

若い女性はタイヨウの返事を聞くと、ゆっくりと彼女の隣に腰を下ろす。タイヨウの話をもう少し聞きたがっているようだ。

タイヨウ「・・・私、馬路須加女学園っていう所の生徒で、1人の後輩をずっと支えてたんです」

???「後輩を・・・か?」

タイヨウ「はい。その子は、同じ学園に通ってたっていうお姉さんを事件で亡くして・・・お姉さんが命がけで守ったマジ女を強くしたくて、必死に頑張ってたんです。私はその子の思いに触れて、友達として支えてきました・・・でも、上手くいかなかったんです」

???「・・・何があった?」

タイヨウ「私とその友達は、他の仲間と一緒にチームを組んでました。けど、新しく入って来た後輩達に仲間の3人がやられて・・・私は仲間の仇を取ろうとその後輩に挑みました。ただ、その後輩も実は友達の知り合いで・・・その子が友達を思う気持ちに押し切られて、負けちゃったんです」

???「同じダチの為に・・・喧嘩してたのか」

タイヨウ「・・・そのチームで友達を守る最後の壁だった私は、友達の期待を裏切ったことで突き放されたんです。今の私じゃ、もうあの子の力になれない・・・だから、いつもみたいにマジ女に顔を見せることもできなくて・・・」

タイヨウは抱えていた悩みを打ち明けると、再び顔を埋めた。すると、話を聞いた若い女性は自身の過去を語り始めた。

???「・・・私も前に、ダチと喧嘩することがあった」

タイヨウ「・・・えっ?」

???「ある施設で生活するようになった私と、一番に仲良く接してくれる奴がいてな。けどそいつも、お前のダチのように家族を亡くして、その恨みで自分の手を血に染めることも厭わない仕事をしていた・・・」

タイヨウ「・・・っ」

???「私は、それがそいつのマジだったと信じたくなかった。だからお互いに傷つけあい、思いをぶつけ合って、やっと本物のダチになれた・・・そいつらとの出会いが無ければ、今の私もここにはない」

多くの仲間との出会いがあった過去を懐かしみ、ふと微笑む女性。彼女の話を聞いたタイヨウは、もう1つ抱えていた悩みを打ち明ける。

タイヨウ「・・・私の友達も、マジ女を強くする為にどうしてもやり遂げたい事があるんです。でも生徒会や他の後輩は、その子には何か別の目的があるんじゃないかって言ってて・・・さっき話した後輩の子と再会することも、友達は頑なに拒んでたんですけど、私もそれが知りたかった。でもそれは、下手したら友達を裏切ること・・・また一人ぼっちにさせてしまいそうで、怖かったんです・・・」

生徒会やゼロが指摘していたツクヨミの暴走・・・それはタイヨウも密かに感じていた。だがそれを打ち明ければ、ツクヨミとの決別の瞬間も早く訪れ、彼女をまた孤独の中に追いやってしまうことをタイヨウは怖れていたのだ。

???「・・・お前が、どんな時もダチの傍にいて支えようとしたことは間違いじゃない。でも、そいつが間違ったことを犯そうとしていたなら・・・意地でも引き留めてそいつのマジを取り戻させる、それが本当のダチってやつじゃないのか?」

タイヨウ「本当の・・・ダチ」

???「お前はどうしたい?期待を裏切ったからという理由でダチに突き放されて・・・それでそいつのことを諦められるのか?そのダチを、お前は忘れ去ることができるのか?」

女性の問いに、タイヨウは深く考え込んだ。そして脳裏に浮かんだのは、村山良樹に挑むも相手にされず悔し涙を流し、そして自身が友達になることに対し『ありがとう』と感謝の言葉を口にした、かつてのツクヨミの面影だった。

タイヨウ「・・・やっぱりできません。あの時見せていた涙も、笑顔も、私にとっては大事なツクヨミとの思い出・・・それを忘れ去ることなんてできません。拒まれても、見向きもされなくとも、私はツクヨミの傍に居続けます・・・そして、昔のあの子が見せていた涙も、笑顔も!取り戻してやりたいです・・・」

???「・・・そうか。なら、私が言うことはもうないな」

タイヨウの決意に笑みを浮かべた女性は、その場から立ち去ろうとする。そんな彼女をタイヨウは慌てて呼び止めた。

タイヨウ「あ、あの!貴女の名前は・・・?」

パル「・・・パルだ。大切にしろよ、ダチとの思い出を」

パルという女性は、河川敷から立ち去っていった。タイヨウは改めてツクヨミの支えになることを決意させてくれたパルに深くお辞儀し、マジ女へ戻ろうとするのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、マジ女の生徒会室――シャドウとミュゼ、そしてツル達は、タイヨウを探しにいったさくらや四天王3人の帰りを待っていた。すると、突然受話器の音が鳴り始め、シャドウがこれに対応する。

シャドウ「・・・はい」

???『やあ、久しぶりだね・・・シャドウ」

シャドウ「!シュラか・・・!」

ツル「し、シュラ・・・!?」

メンドウ「矢場久根の総長から電話!?」

シスター「い、いきなりどうして・・・!?」

矢場久根女子商業の総長・シュラがマジ女に電話をかけてきたことに、動揺するツル達。シャドウは表情を険しくしながら、シュラと話し始める。

シュラ『こっちのプレゼント、受け取ってくれたかな・・・?』

シャドウ「随分と派手にやったものだな・・・何が目的だ?」

シュラ『勿論、そっちの頭の首を獲りに行くんだよ。鬼邪高の打倒に向けてコソコソしてたみたいだけど、新しく入って来た転校生との内輪揉めで四天王は崩壊・・・生徒会だって、今のラッパッパの挫折を望んでたでしょ?』

シャドウ「俺達の目的はラッパッパの瓦解じゃない。あくまでマジ女の秩序を安定させることだ」

シュラ『相変わらずクールだね・・・まだ1年の頃に喧嘩した時と変わり無さそうで安心したよ。まあ、そんな状態で他の勢力に攻め込まれでもしたらツクヨミがどう思うか・・・そんじゃあ、また後で』

そうして、シュラとの通話が切れた。険しい表情を浮かべたままのシャドウに、ツル達が話しかけた。

シスター「ど、どうするんですか・・・?」

メンドウ「さくらちゃんも四天王3人も、タイヨウさんを探しに行ってまだ戻ってこないですし・・・!」

シャドウ「タイヨウの捜索は一旦中止だ。さくらとプリンセス達に事情を話し、マジ女に戻るよう伝えろ」

ツル「は、はい!」

ミュゼ「分かったわ」

ツルとミュゼはそれぞれ、さくらと四天王3人に連絡し始めた。その間にシュラ率いる矢場久根女子商業の足が刻一刻と迫り、マジ女はヤクザ組織との抗争以来の危機を迎えようとしていた――

 

 

 

 

第7話へ続く