🌾 白き粒の黙示録
これは、“売れないもの”が売られるために世界が動くときの話。
かつて、北の谷には「白き粒」が積まれていた。
それは、かつて神々が人に与えたとされる祝福の証であり、
飢えを遠ざけ、平穏を与えるものだった。
だが時が経ち、人々は祝福に飽きた。
もっと甘い実を、もっと光る菓子を求めた。
白き粒は黙って積まれ、
「かつて必要とされたもの」として、倉に閉じ込められていった。
ある日、「気配」が立ち上がった。
名もなき風に乗って、それは噂のように広がった。
・・・南の国で異変が起きたらしい。
・・・空がにごり、田が枯れ、備蓄が底をついたのだと。
町の広場に高らかに掲げられた文字は、
『緊急支援・連帯供給イベント開催!』
誰が主催したかは書かれていない。
だがそこには、白き粒が美しく包装され、神聖な印を押されていた。
それは「ただの在庫」だった。
売れぬものは、“必要なもの”として演出される。
この仕組みを知らぬ者たちは、「善意」の名のもとにそれを受け取り、
「ありがたさ」を感じるよう訓練された。
・・・おまえは、それを食べたか?
・・・口にしたとき、何も感じなかっただろう?
・・・むしろ、遠くのどこかが「ざらり」と軋むような音がしたのではないか?
その音は、真実の骨がひび割れた音だ。
「知ったらしまい」とは、よく言ったものだ。
市場は演劇。買う者は観客であり、時に役者でもある。
だが、観客であることに気づいたとき、
舞台の裏にある「回転装置」の存在に気づいたとき、
その者の眼には、
“売られるべきではなかったもの”が見えてしまう。
そして、
“売られるべく演出された状況”もまた、
・・・初めから台本通りだったことを、知ってしまう。
その日、白き粒はすべて配られた。
イベントは成功し、町には笑顔が溢れた。
報道はその連帯を讃え、
誰もその構造には触れなかった。
だが、一人の少年だけが立ち止まり、つぶやいた。
「……売れなかったから、こんなに必要とされたんだね」
老人がそれを聞いて、静かに目を伏せた。
ああ無情。
ジャンバルジャン。
ただパンを盗んだだけで、
裁かれた者の名。
そのパンも、
誰かが捨てようとしていたものだった。
🌙✨
必要なときが来たら、この物語は思い出されるだろう。
風の中の、小さな構造の残響として。





