4月12日、姉の誕生日の3日前姉の葬儀が行われました。
 
 
姉がお空へ帰った4月10日からこの日まで、頭の中はいろいろな想いが交錯していました。
 
 
 
(お姉さんは、生き切ったんだ。
 
私たち全員がやり切ったと思えるまで
 
懸命に生き続けてくれたんだ。
 
 
まだまだ残っていた今世のお役目を
 
この数ヶ月で誰もが驚くような
 
スピードで一気に果たし、安心して
 
お空へ帰ったんだ。)
 
 
 
 
(でも、もっと一緒に歳を重ねたかった。
 
今年の夏も来年の夏も、みなで家族旅行に
 
行きたかった。
 
 
お姉さんにもっと話を聴いて欲しかったし、
 
お姉さんの話を聴きたかった。)
 
 
  
姉に対して
 
「本当によくがんばったね。やっと楽になれてよかったね」と声をかける気持ちに嘘はないけれど
 
それでも時折言いようのない哀しみが溢れ出し、ただただ涙が流れました。
 
 
 
告別式の日は雨でした。
  
 
「千通子ちゃん、なかなか泣けないの」と言っていた姉が、思う存分泣いているようでした。
 
 
 
告別式の後、皆はマイクロバスに乗り込み
姉を載せた霊柩車が一足先に走り出しました。

  
 
 
(なぜ私は今、お姉さんのいる霊柩車を
 
こうして追っているんだろう。
 
なぜ、お姉さんは目の前を走る霊柩車の
 
中にいるんだろう?)
 
 
 
(このまま火葬場についたら、
 
もう永遠に姉の肌に触れる事ができなく
 
なってしまう)
 
 
 
前を走る霊柩車が涙で見えなくなりました。

ふいに、姉の声が聞こえてきました。
 
 
 
「千通子ちゃん、私はもうあの中にいないよ。
 
だから、もう哀しまなくて大丈夫」
 
 
 
それは、姉の魂の声でした。
 
 
 
そして、そこから火葬場に着くまでの20分くらいの間、姉が私にいろいろなことを教えてくれました。
 
 
 
「千通子ちゃん、あの肉体は借りものなの。
 
魂が、今世はこの身体と心でこんな経験がしたい
 
なって計画して、この身体と心を選んで降りてき 
 
たの。
 
 
でもね、身体と心と魂が一つになるって、
 
誰にとってもそう簡単なことではないの。
 
もちろん、私にとってもちっとも簡単では
 
なかった。
 
 
でも、それが計画だったの。全ては計画だった。
 
 
私は、この簡単ではない人生を、家族や周りの人たちと共に経験し、それを味わって生きた。
 

そして役目を果たした時、身体と心から離れたの。
 

身体は動くことをやめ、心はあれこれ思い悩んだ   
 
り、痛みを感じたりすることはなくなった。」
 
 
 

姉の魂はとてもあたたかくピンク色でした。
 
 
 
たいくんよりもずっと小さい背丈でピンク色の
チマチョゴリのようなドレスを着て宙を
自由自在に舞っていました。
 
 
腰にはピンク色の長いレースのリボンがついていて、おでこには白のティアラのようなものをつけていました。
 
 
 
私がそっと両手を出すと、姉はそっと手のひらに降りてきて、私に優しく微笑みかけてくれました。
 
 
 
次の瞬間窓の外にいて、また嬉しそうに微笑んでいました。
 

 
その時、霊柩車が回り道をして、姉の家へと向かいました。
 
 
姉の家が見えてくると、姉は満面の笑みを浮かべました。
 
 
霊柩車は姉の家の前で停車し、その後クラクションの鳴らすとまた走り出しました。
 
 
 
(ずっとこの家に帰りたがっていた姉が、今日ここでこの家と永遠にお別れしてしまうのか)
 
  
 
クラクションの音を聴きながら、また涙がこみ上げてきました。
 
 
 
ふと姉を探すと、姉は私たちが発車した後も、姉の家の前に留まり、じっと手を合わせていました。
 
 
 
その後、霊柩車を追いかけてくれていた仲良しのご近所さんの車へと近づいていったり、マイクロバスを誘導したりと自由に空を飛んでいましたが 
 
私が両手を差し出すとまたすっとそこに降りてきてくれました。
 
 
 
姉が降りてくると、私のハートは一瞬にしてピンク色の温かみがはじけるように溶けだし、全身が幸せに包まれました。
 
 
 
そして次の瞬間姉は消え、今度は空の上でにっこり笑っていました。
 
 
 
姉には時間の概念も空間の概念も、私たちにとっての常識は何一つ持ち合わせていないようでした。
 
 
 
姉が言いました。
 
 
 
「魂はね、いつも幸せを感じているの。
 
幸せという感情、感覚しか持ち合わせて
 
いないの。
 
 
そして魂の役目は、周りにその幸せを
 
与えること、そして幸せを感じてもらう
 
ことなの。
 
 
だから、また哀しみがやってきたら私を
 
呼んで。
 
 
私が千通子ちゃんの心の中に入ってその
 
哀しみを一瞬にして温かいピンク色の
 
幸せに変えてあげる。」
 
 
 
そういうと、姉はまた私の中にすっと入ってきて、私はまた幸せに満たされました。
 
 
 
「千通子ちゃん、儀式はとても大切なの。
 
私は今からこの儀式に付き合うために、一旦
 
お空へ行くけれど、誰かが手を差し出して
 
くれたらそこに一瞬で行く。
 
 
いつでもここに来てと願ってくれたら
 
そこに一瞬でいく。
 
 
そして、あなたを一瞬で幸せにしてあげる。
 
この事を皆に伝えて。」
 
 
 
姉は肉体から離れた後、また新たなお役目をみつけ、それを果たしているようでした。そしてそれもまた姉の計画のようでした。
 
 
 
私は携帯電話を取り出し、大急ぎで姉との一連のやり取りをメモしました。
 
 
ようやく最後まで書き終えた時、ちょうどマイクロバスは火葬場に到着しました。
 
  
 
私は、バスを降りるとすぐに姉の娘たちを探しました。
 
 
「ニ人に伝えないと。」
 
 
彼女たちを見つけた時、清々しい顔で微笑む二人を見て、二人はもうすでにこの事を知っているのだとわかり、今は伝える事をやめました。
 
 
 
後で聞くと、案の定その通りでした。
 
 
 
赤い目をした妹にそっとマイクロバスの中での出来事を伝えました。
 

妹は心底安心した様子で、いつもの笑顔を取り戻しました。
 
  
 
姉の肉体との最期のお別れの時、皆の中には姉の肉体との別れに涙している者もいました。
 
 
姉はまたふと降りてきて、「そうなちっゃうよね」と彼に優しく微笑みかけました。
 
 
こうして私は、とても温かい気持ちで姉をお空に送り出すことができました。
 
 
 
その日からも、時折哀しみが溢れ出すことがありました。それは日ごとに増すようでもありました。
 
 

でも、そのたびに姉が降りてきて、私の心を一瞬で温かいピンク色に変えてくれました。
 
 
 
マイクロバスの中での出来事は、まるで夢の中の出来事のようでもありました。
 

それが夢でも夢でなくてもどちらでもいいのですが。
 

でも夢でないとわかるのは、あの時感じたピンク色のあたたかさは、今も一瞬で感じることができるということ。
 
 
そして、今も私の携帯にはあの時、大急ぎで書いたメモが残っているということ。
 
 
 
世界でたった一人の私のお姉さん。 
 
大好きな大好きな私のお姉さん。
 
お姉さんが教えてくれたこと、皆に伝えるからね。