2021年 共通テスト(第1日程)小説レビュー | 教科別専門教室FiveSchools OFFICIAL BLOG

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2021年大学入試共通テスト、国語レビュー第2回、今回は小説です。

 

小説 問6について

結論から言いましょう、ものすごくいい問題だと思っています。

何が良いかって最後の問6です。

 

一見、評論と同様、最後の問6で

「一応、わたしセンター試験とは違うんです」

という言い訳をしただけ、のように映るかもしれません。

 

ただ、その小説問6のクオリティが、評論問5に比べると断然高いとわたしには思えます。

 

評論問5の場合は、一応「本文とは異なるテクスト」が持ち込まれたものの、その持ち込まれた第2テクストに特にこれと言った必然性がなく、

「なぜ、ここでこの第2テクストを受験生に読ませたのか」

が明確なものとなっていない。

このように、前回のブログでやや批判的にコメントしました。

 

しかしそれに対して小説問6では、まさに出典となった「羽織と時計」そのものへの、しかも出版当時のリアルな書評を持ってきた。

これ以上の「必然性」はないでしょう。

 

今後「文学国語」「論理国語」という科目区分が国語に導入されることになるわけですが、まさに「文学国語」で国語指導者が生徒に何を教えるべきなのか、ひとつのモデル、ひとつの方向性が示されたと言っても過言ではないように思えます。

無味乾燥な実用文を扱うぐらいなら、こっちのほうが余程おもしろい国語的実践ができるのでは? と思う先生が増えてもまったく不思議ではありません。

 

せっかくですので、この問6について先に言いたいことを言ってしまいましょう。

 

問6を難易度という面から見てみると、本文の基本的な流れ、資料の文章の大意が読み取れている生徒にとっては迷う選択肢は特にないはずで、正直簡単と言っていいレベルだと思います。

そもそもこの古い資料の文章がちゃんと読めるか、という問題がありますが……。

 

※ ちなみにわたしの言う「難易度」とは、きちんとやるべき勉強をしてきた生徒なら余裕で迷わず解けるだろう問題を「簡単」と評しています。逆に、ちゃんと勉強していてもコレなら引っかかるよね、と思う問題を「難しい」と言います。一般的な基準でいう「難/易」とは意味合いがかなり違うと思いますのでご注意ください。

 

難易度的な意味で取り立てて特徴がないとすれば、わたしはこの問6のどこをそんなに評価しているのか。

まず(1)について何がすごいかというと、ここで持ち込まれた第2テクストである批評文、これが本文である「羽織と時計」を思い切り批判的に述べた書評なんですよ。

こんなものは作者の本領がまったく発揮されていない駄作だ、とでも言わんばかりの。言い方はもっと丁寧ですけどね。

 

わたしは普段生徒に

「現代文というものは、筆者&作者が神様。どんなに筆者&作者がバカなことを言っててもハイハイさようでございますかと受け入れるしかない」

とよく言っています。

その固定観念が、部分的とはいえ崩されたと言ってもいい。

本文という聖域に対して、批判が許される。

現代文という領域において、しかも共通テストという最も公共性の高い試験の一発目でコレをやられてしまっては、脱帽としか言いようがありません。

 

解き方としては、(1)は二重傍線部の直前「W君の生活~如実に描いたなら、一層感銘の深い作品になった」が反語、反実仮想の構文になっていることがわかればいい。

つまり「如実に描いてなかったので、感銘できない浅い作品になった」というメッセージですので、その内容を表しているのは④しかないですね。

 

さらにすごいのは(2)です。

問6(1)で批判的な書評を要約させた後、(2)では(1)への反論をさせるんですよ。

つまり「問6(1)で批判的な意見を読んでもらいましたが、逆の見方をすれば肯定的にも捉えられるんですよ」という出題者からの明確なメッセージですよね。

 

こんなの、やってることはもはや「小論文」じゃないですか。

小論文で求められる批判的思考、複眼的思考を、共通テストというマークシート式の範疇で問題として提示し、成立させたわけです。

どなたが作ったか当然わかりませんが、わたしは偉業だと思いますよ本当。

 

小説 問6以外

問6以外は、大正~昭和初期の小説にありがちな、淡々と起伏少な目で物語が進んでいく感じですね。

読み取りのテイストとしては、2016「三等車」に近いでしょうか。

2012「たま虫」の雰囲気とも相通ずるものがある気もしますね。

正直、このへんの古い文学に関する知識はわたしは全然ないので、このへんの文学史的なことが知りたい場合は他にくわしい先生がどこかに書くだろうと思います。そちらを探していただければ。

 

読解&解答にあたって、おさえておくべきポイントは以下のとおりだと思います。

あまりに細かい心情描写はざっくりとまとめてしまいます。

高2生以下で、実際にやってみた生徒は照らし合わせてみてください。

 

(リード文)

時代背景 1918年発表 → 大正期

W君の人物像と境遇

・妻子、従妹と同居

・貧乏

・病弱 → 休職

「私」の行動と心情

・見舞金を集める → 同情? 友情?

 

(第1場面 1行目~)

W 羽織をわたしに買ってあげる → 見舞金などのお礼

私 貧乏 → 貴重なものをもらった → いつもWを思い出す

・妻にはWから貰ったことを言いそびれる

・羽織以外はボロボロ → 不調和 → 他のを買う金はない

妻 羽織をほめる → 不調和なので残念 & 私の貧乏さに嫌味を言っている?

 

(第2場面 29行目~)

私 転職

W 送別会で記念品を贈る → 寄付金集める

私 懐中時計がほしい

同僚 不満

・2年もいない私ごときに記念品?

・Wが世話になったお礼をしようと、同僚を巻き添えにしている →Wへの非難

私 複雑な心境

・同僚への不快感

・Wへの気の毒さ → 自分のせいで評判を下げてしまった

・Wへの感謝

・「ある重苦しい圧迫」、やましさ、気恥ずかしさ

 

(第3場面 46行目~)

私 Wと合わない、疎遠

W 病気再発、退職、パン屋開く、寝たきり、生活苦しい

私 Wと疎遠になった理由を語る

・見舞いに行かねば、とは思っていた

・「羽織と時計」をもらってしまったことが原因 

→「恩恵的債務」これが、つまり第2場面の「圧迫」を意味する。

・一度遠ざかると、ますます会いにくくなる悪循環

・Wの妻に、薄情な恩知らずと思われているような気分(あくまで気分)

私 偶然出会えたなら、Wの境遇を知らなかったフリをすれば無問題

→Wのパン屋にパンを買いに行かせて、偶然会えるチャンスを狙うが、失敗

 

大きく、このような心情の流れを把握できていれば、解答に困ることはないかと思います。

逆に上記の内容で読み取れていない箇所があれば、解き方、解法以前に丁寧な読解の練習をもっと積んだほうがよいかと。

以上の流れを踏まえたうえで、設問を見ていきます。

 

問1

イが、要するに今でいう「言いそびれて」であることに気づけば難しくないでしょう。例年のセンターよりもやや簡単、ぐらいだと思います。

 

問2

傍線部A「くすぐられるような思い」と見た瞬間に2013年センター小説、わたしの最も好きな問題のひとつである「地球儀」問5を真っ先に想起したことでしょう。

この「くすぐられる」の意味も「地球儀」のときとほぼ同じと考えていいです。

・居心地が悪い

・きまり悪い

・いたたまれない

あたりの言い換えができればベストですね。

同じ「笑う」でも、くすぐられるときの笑いは別に「面白くて笑う」ものではないですよね。だから「くすぐられる」だからと言って「おかしい、笑える」という意味に解釈してしまうと誤答リスクが跳ね上がってしまいます。①の選択肢はこの時点で語義的におかしいとわかる。

②④⑤にも「くすぐられる」要素はないので、正直「くすぐられる」の語義だけでも③しかないんです。

 

ただ、語義だけで解こうとすると、語義間違えた段階で終わりますからね。

この場面における心情ももう一度確認しておきましょう。

・妻にはWから貰ったことを言いそびれる → 「きまり悪い」

・羽織以外はボロボロ → 不調和 → 「恥ずかしい」

・妻が羽織をほめる → Wから貰っただけなので「きまり悪い」

これらと照合しても、③であることは問題ないと思います。

 

問3

私からWへの心情の核心を突く問題なので、かなり重要な問題だと思います。

傍線部「やましい」「気恥ずかしい」「重苦しい」とすでにマイナスの心情が3連発で書かれているので、それらの具体的説明を発見する、あるいは原因を発見するように解くべき問題。

 

わたしの「やましさ~重苦しさ」の原因が、

「Wが私に時計を送ったこと」

「Wがそのせいで同僚からの評判を下げたこと」

なのは大丈夫ですね。

そして、傍線部付近には

「Wへの気の毒さ」「Wへの感謝」

という2つの心情も本文に明記されている。

 

ただ……ここが問3最大のポイントです。

「気の毒」「感謝」というこれら2つの心情は「やましさ」「気恥ずかしさ」とはそれぞれ一致しても、「重苦しさ」という心情とは意味的にストレートにつながってこない

いったい、何がどのように「重苦しい」のか、その決定的な根拠はむしろ次の場面、55行目の「恩恵的債務」でしょう。

この「恩恵的債務」という心情、これが「重苦しさ」と語義的にも文脈的にも一致することを把握してしまえば、①の「過剰な熱意=Wから私へのやりすぎな恩恵」を、「重苦しい=債務」と私が感じていることが明らかになります。

無理に傍線部段階で答えを出すよりは、この問題は私からWへの心情の核心が発見できるまで置いておくべきだったと思います。

焦ってこの段階で無理に解いてしまった人が、②とかを選んでしまったのではないでしょうか。個人的には、この問3が今回の小説では最も難しいと思いますし、わたし自身も最も解くのに時間をかけた問題です。

 

②「時計」は持っていなかった=欲しかったことが明らかなので、「さしたる必要~」の部分がおかしい。

③「味をしめ」という表現に悪意がありすぎる。Wをだまして時計を巻き上げたような言い方。「Wへの批判」は「公私混同」なので、私への批判とイコールにはならない。

④「情けなさ」「Wからの哀れみ」どちらも本文に記載なし。記載されていたとしても、「重苦しさ」とそもそも語義的に合わない。

⑤「Wが見返りを期待していることを見抜いている」が本文に記載なし。勝手にWをセコい人間にしてはいけない。

 

問4

ここで書かれている「Wの妻への恐れ」は、あくまで私の脳内妄想であることに注意。

「Wの妻」が本当にここで書かれているような思いを抱いているかどうかはわからない。あくまで「勝手に私が思い込んでいるだけ」だという前提で解ければ解きやすいはず。

 

それに加えて、少なくとも

「Wの妻に、薄情な恩知らずと思われているような気分(あくまで気分)」

になっていることは本文から明確に読みとれるので、この内容をまったく含まない選択肢が◎になるとはまず考えられない。

 

②「見舞いに行っていないこと」への負い目なので、そもそも経済的に助けてほしい、とまで厚かましい願いを妻はしてこないはず。時計と羽織ごときでその後の生活まで面倒見させられてはたまらない。

③「つい忘れてしまう」→Wの家に見舞いに行かねば、とはずっと思っていたので✕。

 

④で間違えた人が多いのかな、と予想しています。

「妻の前で卑屈にへりくだらねばならない」の部分が、「現実に、Wの妻が私に怒っている」ことを前提とした言い方になってしまっています。

さっきも言ったように「Wの妻が私に怒っている」というのは私の思い込みに過ぎないので、思い込みだけで勝手に卑屈にへりくだる必要はないし、怒ってもいないのにいきなり卑屈にへりくだられたらWの妻からしても意味不明じゃないですか。

①の場合は「妻に冷たさを責められるのではないか」という疑問形になっているので、あくまで「妻の怒り」が事実かどうかわからない、確定させていない言い方になっていますよね。だから①は正解になる資格がありますが、④は正解にはできないのです。

 

⑤「立派な人間と評価してくれた」ことへの感謝もあるのかもしれないが、これを選んでしまうと「羽織と時計の話はどこへ行った?」ということになる。問3との連続性を考えると、Wへの気持ちを「感謝」と単純化するわけにはいかないでしょう。

問3、問4はひとつながりの心情ですので、問3と問4の答えの間には整合性が取れていないとおかしい。

 

問5

これは「Wのパン屋にパンを買いに行かせて、偶然会えるチャンスを狙う」という内容が読み取れていれば楽勝でしょう。消去法で解く要素はなく、読み取れたかどうかだけの問題だと思います。

 

問6は最初に語ったのでもういいですね。

ということで、小説編はここまでです。

 

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