私達は日頃から視覚判断をする時、印象的な部分に
心を囚われがちです。何かを記憶する時も、最初に
惹き付けられた部分が心に残り、全体像を全て覚える
と言う事は殆ど有りません。
その為巷に存在する様々な広告も、出来るだけ印象的で
記憶に残るように工夫されていて、コマーシャリズムの基本
とも言えます。
社交ダンスを習う時も、多くの人達に伝える為に、極めて
印象的な部分を強調して習う事に成ります。
トウライズと言えば、つま先で高く背伸びをしているために
教える側は、指に力を入れしっかりと床をプレスして
身体を持ち上げる様に説明する事が多いです。
また、しなやかに伸びた指先や足先の演じ方を教える時
指を見た様に伸ばす事を説明します。
生徒達も自分が見えた印象通りレッスンを受けると、
言われた部分を印象的にシッカリと頑張って動かせば
美しく楽しく踊れると信じて頑張ります。
また、大きなホールドを作らせるときは、エキスパートが
大きく広げている様をお手本に、同じように両腕を広く
広げる様に求められます。
両肘が落ちない様に、しっかりと腕を持ち上げ続けながら
踊れる様に頑張れば必ずや上手に成れると生徒たちは
日々頑張ります。
しかしながら、多くの時間を掛けても費用を掛けても、
必至に頑張って踊る事は出来ても、音楽やお相手の事を
感じながら踊るだけの余裕はとても有りません。
最初は夢に向かって目を輝かせていた生徒達も
次第に結果が出ない事に焦りと諦めの境地と成り
社交ダンスへの熱意も次第に冷めて来がちです。
その為、期待した様な美しい踊りが出来る人は限られ
誰もが楽しく踊れると言う社交ダンスとは程遠い事を
身をもって教えられる事が落ちなのです。
一生懸命努力しても報われない現実に、一部の人が
美しく着飾って華やかなルーティンを踊っている姿を
羨ましく思うだけなのです。
では、社交ダンスは誰でも誰とでも楽しく踊れる
と言うのは、単なる選挙演説の様なリップサービスに
過ぎないのでしょうか。
この事は、社交ダンスが他のダンスと大きく違っている
部分であり、本来申し合わせをしなくても踊れると言う
理由を知っていなければならない事でも有るのです。
社交ダンスを習う多くの方が、ステップやテクニックを
しっかりと覚えて間違いなく演ずれば上手に成ると言う
他の習い事の様に考えている事が問題です。
男女がコンタクトして踊ると言う事は、自分のステップや
テクニックを自分の為だけに使うとどんなに頑張っても
社交ダンスにはならず、単なる申し合わせの外見だけの
苦しい踊りと成ってしまうのです。
美しいトウライズも魅力的なショルダーワークも、外見的に
感じられる所作は全て身体の中の見えない部分と繋がって
いるだけでなく、コンタクト面を通じて男女が互いを意識し
二人が創り出した運動表現にしなければ成りません。
社交ダンスは、いかなる時も自分だけの思いで踊る事は
有りません。
常にお相手の事を気にしながら、お相手が如何に楽しく
自由に踊れるかを考えながら自分の運動表現を変化させ
繋がりを持った表現と成る事が重要です。
野球のピッチャーが投げるボールは、最後に指先から
投げ出されますが、この時、全身の筋肉が繋がり合って
指先の運動にならなければ思い通りの球は投げられません。
社交ダンスのエキスパートの指先の表現は自らの下半身の
大きな筋肉だけでなくコンタクトしたお相手の身体の筋肉とも
繋がって生まれているのです。
指先のしなやかさや美しさが印象的ですが、その感動的な
美しさは目に見えない二人の心と身体が生み出している
と言えるのです。
スポーツ全般に於いてだけでなく日常生活に於いても
柔軟性が求められますが、何故身体が柔らかい事が良いのか
ただ見た目の柔らかさが求められるのではなく、柔らかい事で
全身の筋肉が繋がり、無理なく運動表現が出来るからなのです。
スポーツ選手を見ても、ベテランになって来ると身体も大きく
力強く成るのですが、若い選手に負けてしまう事が多く成ります。
筋力がはるかに劣っていたとしても若い選手の身体はとても
柔軟性があり、何をするにしても全身の筋肉が繋がるのです。
新旧の選手が交代して行くのは、ただ技術が衰えたとか
体力が無く成ったからというよりも、身体の筋肉の繋がりが
反射的に上手く出来ず、持っているパフォーマンスが思い通り
出来なく成る事が大きな原因とも言えるのです。
自ら力強く踊れていると、上手に踊れている様に思う事が
有りますが、実際は部分的な筋肉の印象で自己満足していて
外見的には繋がりの無い小さな踊りになっている事が多いのです。
素晴らしい踊りを踊った本人がどの様に踊ったかという記憶が
余りないのは、全身の筋肉が繋がり合って機能していた為、
部分的な印象が無いのです。
練習は、部分を意識しないで、お相手と音楽に気持ちが集中
出来る様にする事が大切です。
上手く行かなかったら出来なかった部分を反復練習する事も
悪くはないのですが、原因の多くが上手く全身の筋肉が繋がらず
部分的な動きに成っている事が少なく有りません。
自分が上手に踊る為に頑張ろうとすると意識した部分しか動かず
お相手が上手に踊れる様に踊ろうとすると自分の持つ筋肉が
上手く繋がりお互いに楽しく踊れます。
全身の筋肉が連動する様に踊りお相手と繋がり合えば、
コンタクト部分は柔軟性を持って力強いやり取りと成ります。
社交ダンスを上手に楽しく踊る能力は、どれ程お相手の事を考え
音楽と環境に反応出来たかで決まります。
多くの知識やテクニックを見せようとする限り、お相手にとっては
非常に不愉快な踊りと成り、二人が創り出す魅力的な踊りとは
程遠く成りますからご注意ください。