ペアを組んで長く踊っていると、相手に対する感情は、
いつもハッピーと言うより、不平不満が多くなる傾向が有ります。
より豊かな表現をしようと考えるものの、自分の思いを酌みとって
踊ってくれないと言う不満が、男女共に芽生えて来るものです。
特に、多くのペアを見ていると、男子の女子に対する要求が
強く感じられます。
男子がリーダーであると言う自負がそうさせるのか、パートナーに
何度も注文をする光景を、レッスン場でも競技会場でも見かけます。
確かに、リーダーの方が経験上もテクニック的にも上であり、
言っている事が理にかなっている場合も少なくないのですが、
果たして、その小言が、どれ程パートナーに伝わっているかは
疑問です。
特に、女子は、理屈では解っていても納得しない事が結構あり、
ダンスを踊る時だけでなく日常に於いても男子とは異なった
感覚を持っているものです。
その為、何度も同じ場面で同じ注意を受ける女子を見かける事が
少なく有りません。
この事は、プロがアマチュアの女子をレッスンしている時も、
同じ場面を見る事が少なく無く、女子は、何度も同じ所を間違ったり
教師の意図しない方向に動いたりする事は多いのです。
社交ダンスに限らず、人が人を思い通りに動かすと言う事は
非常に難しい事で有り、時に、強引な説得で、二人の関係が
気まずくなってしまう事も多いです。
男子にしてみれば、間違った事は行っていないので、一歩も
引く気が無く、女子にしてみれば、言われた通りやっているのに
何度も注意される事に、次第に、無口と成って心を閉ざします。
こうなると、社交ダンスは、一歩も進展しません。
大切な事は、人が相手の思いに従うと言う事は、指示されたことが
自分の行っている事よりも自分自身にとって有効であり、
更には、自分の踊が、目の前の方の喜びと成らなければならず
自分の踊が、相手にとって価値あるものとされなければなりません。
ただ、足形や運動を正確にとか、習った通り間違いなく踊ると
言う事ではなく、その様に踊った事で、どれ程自分が楽しく
素敵な気持ちに成れるかを知らせなければなりません。
人は、自分の行いが相手にとって快感となると、進んで
その行為を続けようとします。
つまり、喜ばれていると感じると、言われた通り従うのです。
パートナーとしてしっかりとリーダーにフォローしろと言った
リーダーの一方的な満足では、従わないのです。
また、リーダーだから、しっかりとパートナーをリードして
踊らせろと言った、パートナーの一方的な満足では、もちろん
リーダーは思い通り動いてくれないのです。
多くの方が、男女の立場上の役割を間違いなく果たす事で
社交ダンスは上手に踊れると思って、自分の習った通り、
記憶通り間違いなく自分のノルマを果たそうとします。
しかし、この様な踊りは、どんなに時間を掛けようと、
身体をトレーニングしようと、自己満足とはなっても、
お互いに相手が苦痛になるだけなのです。
ペアとしてベストの踊りは、身に付けたステップやテクニックで
目の前のパートナーが楽しく美しく踊れる様に努力する事です。
つまり、パートナーが、より美しく楽しく表現できる様にすれば、
パートナーは、その楽しさに、目の前のお相手が喜ぶように
自分のテクニックや運動表現を駆使するのです。
簡単に言えば、ギブ&テイクです。
男女共、自分が楽しく踊りたければ、目の前のパートナーを
自分が踊るにふさわしい踊り手に育てる事が一番です。
それは口で言って指示するのではなく、コンタクト面を通し
相手がより豊かに踊れる様に身体全体で助ける事です。
この事が、男女共に相手に対して行うフォローなのです。
ただ、男と女を、リーダーパートナーと分けて、其々を別々に
考えて居る様では、社交ダンスは全く上達しません。
社交ダンスは、外見的な踊りに見えますが、その外見が
生まれる元は、全て男女の心の関わり合いです。
お互いに相手を認め、助け合う事で、ペアとしての自然な
運動表現が生れるのです。
その為、ペアで踊れば、一人の持っている運動表現が
更に豊かと成り、素晴らしい感動を与えるのです。