音楽を聴くことが出来ても、その音楽を身体を使い
表現する事は難しいものです。
様々な分野の踊りが、何だかの音楽を表現する様に
作られているのですが、社交ダンスに於いても、
流れている音楽を、二人の身体の表現を使って
表す事は簡単では有りません。
もちろん、社交ダンスに於いても、全身を使って
その時流れている音楽を説明しなければならず、
如何に表現するかを知っていないと、ただ、習った
足形の順番を間違わない様に踊っても、二人で
ステップを合わせ合っても、音楽の表現と成らず、
楽しく踊れないだけでなく、見ている人からも
違和感のある踊りと感じられてしまいます。
所で、私達は、社交ダンスを踊る時、ステップを
使う事に依って、音楽のリズムや抑揚、流れなどを
表現します。もちろん、上半身の表現が前提条件と
言えるのですが、今日は、音楽をステップで、どの様に
表すかの、基本的な説明をします。
ピアニストは、10本の指を巧みに使って鍵盤を
叩いたり押したりして演奏をします。
この、10本の指にあたるのが、2本の足と言えます。
社交ダンスを踊る時、この左右の足が、床に対して
音楽を演奏している様に使われなければなりません。
ピアノを習い始めた頃は、10本の指が自動的に動かず
意識を持った音程のみを演奏しようとして、音楽が続かず
たどたどしい演奏と成ります。
同じく、社交ダンスを習い始めると、2本の足で、足形を
確認する様に踊る事で、同じくたどたどしい動作と成ります。
しかし、ピアノを演奏する時に比べ、たった2本の足なのに
何故、これ程にもスムーズに身体が動かず、上手く体重が
乗り移って行かないのでしょう。
音楽を奏でると言う意味では、同じように使えなければ
成らないのですが、たった2本の足が上手く使えないのです。
初心者の方をレッスンすると、面白い傾向が有り、例えば
ワルツを踊らせると、カウント、1,2,3 が、左右の足の
順番のように覚えてしまいます。
つまり、覚える順番とカウントを合わせようとするのです。
まず、第一アクセントのカウント1を聞きながら、一歩踏み出し
更にカウント2で次の足でサイドスウィングを行い、カウント3で
足を揃えます。
確かに、足形を覚える時、カウントと足型を習う事で
社交ダンスを踊る時は、間違う事無くカウントと足形を
合わせると言う事が大切と思い込んでしまいます。
さて、同じようにピアノで音楽を奏でようとする時、
カウント1の音の指は、いつから演奏し始めているでしょう。
そう、指が、カウント1の鍵盤に到達して音が流れる時からです。
これは当たり前の事であり、まだ、鍵盤に触れていない時に
音は生まれて来ないのです。
指先が目的の鍵盤に到達して、力を加え始めると音が鳴り、
その音が鳴っている間に次の指が新たなる鍵盤に
動いているはずです。
社交ダンスを踊る時も同じであり、カウント1を取りに行っている
目で見える足は、その前の音、つまり、カウント3の表現であり
両足は常に呼応して、其々の役割で同じ音を演じています。
この基本的な事が多くの初心者は解っていないのであり、
ベテランであっても、一つ一つの足形に囚われて、ムービング
フットの音楽表現を忘れている事が多いのです。
社交ダンスに於けるステップや音楽表現は、左右の足が交互に
音を演じているのではなく、左右の足は、其々の役割を持って
同時に音楽表現をしている事が踊る事の基本なのです。
この、左右の足が上手く呼応して動かないと、高齢者の様な
左右の足がスムーズに進まない踊り方と成るのです。
さて、この様に書くと、支え足で体重を支えている時、片方の
足を動かしていれば上手く踊れると考えてしまうと早計です。
この左右の足を動かしているのは、上体の運動表現であり、
その結果、脊椎反射を伴って左右の足が同じリズムと運動を
止めどなく続けられるのです。
つまり、正しい足形やリズムを取るには、上体の運動が
不可欠であり、上手く脚を使えるかどうかは、上体の運動が
的確に行われなければならないのです。
この運動は、難しい事ではなく、私達が、かつて生まれて
間もない頃、伝い歩きから二本の足で歩ける様に成ってから
数十年の長きに渡って行って来た運動なのです。
誰もが、このステップの踏み方のエキスパートなのですが、
社交ダンスを踊ると、途端に、歩き始めの赤ん坊の様に
なってしまう事が問題です。
普段、私達は、どの様に生活し歩き運動をしているかの
説明を音楽的に行っているだけの事なのです。
音楽に合わない、足形が上手く踊れない、身体が上手く
使えないと言った多くの踊り手の悩みは、実は、自らの
身体の持っている能力を全く使えていないと言う事であり
上体の使い方が社交ダンスの特殊な運動表現と成って
下半身が反射的に使えなくなっているからなのです。