社交ダンスを踊る時、パートナーと直接触れている
手先のコンタクトは、ボディのコンタクト以上に重要で
ただ、相手の手の平や指先を捕まえているだけでは、
お互いの身体が、スムーズに動かないだけでなく、
せっかく習ったステップやボディワークの完成度を
著しく落とすものです。
野球やゴルフに於けるグリップエンドの捉え方、
相撲や柔道に於ける相手の捕まえ方、鉄棒競技に於ける
手の平と鉄棒との関わり方は、外見的なパフォーマンス以上に
重要な役割をしています。
この、相手や種具にどの様に触れているかによって、
パフォーマーや競技者の技量を決めると言っても過言ではなく
観客が全く目にとめない部分、更には、習っている人や
踊っている人が、気にしていない部分に、上達の為の
大きなヒントが隠されています。
ゴルファーがショットを打とうとする時、バッターがバットを
振ろうとしている時、盛んにグリップ部分を握りなおしているのを
目にする事が有りますが、彼らは、一生懸命、種具との関わりを
ボールを打つ瞬間まで確認しているのです。
社交ダンスに於ける多くの方の感覚は、手の平やショルダー
更にはボディのコンタクトは、ただ、接触している、または
一緒に至近距離で踊る為の手段としてだけ考えています。
その為、その部分に対する感覚が弱く、コンタクト部分で
相手の身体の状況を知ることが出来ません。
多くのペアが、女子の手を男子が握っていて、女子は、ただ
添えているだけの状態で踊っています。
男子は、握る事に依って、自分の思い描くように女子を動かし
女子は、相手の意思に任せる為、極めて無神経に、接触部を
委ねているだけの場合が多いのです。
しかし、この様なコンタクトは、踊りだした途端、二人にとって
最悪のボディワークを生み出します。
まず、コンタクト部分から、お互いの身体にかけての筋肉が
男子は、硬直した状態であり、女子は、ただリラックスして
相手任せの、反応が極めて薄い状態です。
この状態で踊りだすと、男子は、一方的に、女子を動かそうとして
女子に強いプレシャーをかけてしまいます。
途端に、女子は、身体を委縮して、上半身を固めます。
この状況は、楽しく街を散歩していて、突然男子に腕を握られ
ビックリして固まった上体です。
そして、次に、二人がルーティンを踊り始めると、女子は、常に
男子に遅れて付いて行く事から、重心の動きは止まってしまい、
ただ足形だけでフォローする事となります。
この状況は、腕を握られた女子が、腕を引っ張られ、何処かへ
無理やり引っ張られている状態、つまり、拉致される状態です。
とても美しく、楽しく踊っている様で、身体の中では、犯罪紛いの
緊張した状態が続いている事となるのです。
当然、踊っている本人たちは、自分が行うステップや運動表現で
精一杯で、音楽も相手の事も解りません。
手の平のコンタクト部分は、お互いの身体の中心に向かって
柔らかな運動が有り、握ったり押したりと言う事ではないのです。
コンタクト部分で、いわゆる、相手の手のひらの部分通して
相手の身体の動きを感じ取っているのです。
この事は、私達が日頃、あらゆる物を持ったりして、移動する時
ごく自然に行われている感覚であり、対象物によって、持つ力を
反射的に変えることで、重い水の入ったバケツを持つときも、
柔らかいお豆腐を持つことも出来るのです。
踊っている時の手のひらの緊張感は、指を通して相手の状況を
察知する事で瞬時にボディの大きな筋肉に運動を促し
反射的に理想的な運動表現となるのです。
どの程度の強さでコンタクトするかは、相手との関わり合いで
生まれる事であって、日常生活で、様々な物に触れる時と
全く同じで、対象物によって瞬間的に変わるものです。
ただ、非常に短い時間で相手の運動が変わる事から、
いつでも応じられる様に、緊張感は有りますが、
緊張して固定する事は有りません。
ラテンアメリカンダンスに於いては、男女共に
コンタクト部分が、指先になる事も珍しくなく
指先を通して相手の身体と表現を感じることで
頭の中には、常に、相手の姿が感じられるのです。
スタンダードダンスに於いては、常に多くの部分で
接触している事から、コンタクトを取った途端、
ホールドの中に、一曲中、相手の演ずる姿が
映像的に感じられます。
一曲を通して、パートナーの姿が想像できることから
時に、相手の踊りよりもより表現が豊かである事も有り、
男子の先生が、女子以上に女性らしく踊る事が出来るのも
この感覚が優れているからと言えます。
芸術的スポーツであるからには、いかなる相手の動きにも
的確に対処できることが望ましいのです。
自分が踊る道具ばかり磨いても、実践に役立たない方が
非常に多いのが問題です。
あらゆるメディアを通して、ダンスのテクニックを知る事が
できるのですが、テクニックを身に付けても、実際の踊りに
全く通用しない方が多く、ステップや技術を覚えれば
覚える程、二人の関係が不自然で楽しくなくなるのです。
誰と踊っても、相手の方に喜ばれ、もう一度踊りたくなる
魅力的な踊りを身に付けるには、自分のこと以上に
相手の事を知る事が大切と言えます。