社交ダンスを踊る時、まず、パートナーと踊る為の
コンタクトを行います。
スタンダードダンスに於いては、ショルダーの各コンタクト
ポイント、そしてボディのコンタクトポイントでお互いに
お相手の上半身との接触を試みます。
ラテンアメリカンダンスに於いては、最初からボディを
コンタクトする事は少ないですが、ハンドコンタクトや
ショルダーコンタクトを行います。
この後、数小節お互いに音楽を聴きながら、タイミングを
計り、踊り出します。
殆どのペアが、一緒に、難なく二人のルーティンに入って行く
のですが、この、コンタクトから踊り始めるまでの間が
余り理解されないで、単に接触するだけの運動となって
その後の踊りに大きな影響がある事を知っていません。
スタンダードダンスの場合は、競技選手が行う様に、
左右に足踏みをする様に、体重を乗せて動き、
これが、出発する前の、ウォーミングアップの様な
動作となっています。
踊っているペアも、これから始まる自分達の踊りの
タイミングを計るだけのような気持ちで動いていて、
何のために、コンタクトを取り、体重を左右の足に
乗せているのかが解っていません。
この事は、キャリアに関係なく、社交ダンスのテクニックとして
習った事のない先生も多く、当然習った人は、踊りだすための
予備運動位にしか考えていません。
ヨーロッパの伝統的なレッスンは、ファーストコンタクトを
とても重要視します。
パートナーとしてリーダーとして、お互いの役割を
しっかりと初級の段階で習う事を重視します。
この事が、実際に音楽を二人で表現する上でとても大切で
その後の技術や表現力の上達に大きな影響を与えます。
多くの方の共通の心理は、男子がスタンディングポジションを
取った所に、女子がコンタクトを取りに行き、男子のホールドを
キャッチして、ボディをコンタクトして、男子の動きを待つ、と
言ったものです。
この時、多くの踊り手が間違うのが、男子のスタンディング
ポジションが基準となり、女子は男子にコンタクト取る事で
前方バランスとなります。
しかし、このままでは、男子に押されて踊る事となり、
コンタクトした瞬間に、後方に強くバックポーズをとるのです。
しかし、外見的に女子は、大きく後方にバランスを取って
いる様で、実際は、男子に体重を預ける様なバランスであり、
やはり、男子の全身のパワーを持って踊らされる事となります。
この時、困るのは、女子の運動の中心が男子となり、
後退していても、バランスが男子の方向になっている事です。
つまり、女子は脊椎バランスが取れず、回転運動が取り難く
男子に押される事でローテーションを行う事となります。
この状態を、多くの女子は、リードされていると思ってしまい
一曲中、男子の運動表現が優先的に行われる、極めて
日本的な、俺に付いて来いの踊りとなります。
大切な事は、女子が男子とコンタクトを取った瞬間、自分の
左右の足の踵の上に脊椎バランスを取った上体を示し
男子に、女子の身体のバランスの中心と演技の方向を
示す事です。
左右の足に体重を乗せてウォーミングアップをしているのでは
決して有りません。
男子は、女子のバランスがナチュラルとリバースの運動に
移る時の身体を感じ、どちらの回転でも、女子をしっかりと
フォローできる感覚を知ります。
何故、女子が後方にバランスを取りやすく、男子のボディ
バランスが、少し女性側に傾くのかは、二人の役割が
解っていると理解できます。
素晴らしい運動表現が出来るペアは、この組んだ瞬間に
全ての能力を示します。
その為、運動をしっかりと理解したエキスパートは、
パートナーとコンタクトした瞬間、相手の身体の運動能力
音楽的な感性、その時の心の持ち方がすべて感じられ
踊る前から、素晴らしい男女の関係が生まれるのです。
日本の社交ダンスを踊る方の多くが、外見的な形態や
運動を真似て踊ろうとする為、一人一人の持っている
運動能力や音楽的センスが成長しません。
どんなに素晴らしステップやルーティンを演じたとて
見ている人に心から感動を与えないのは、多くの方が
自分の能力をを封じた踊りをしているからです。
日常生活と同じく、私達の運動は、その時の状況で
一番相応しい表現をします。
いつも同じ運動の様に見える社交ダンスに於いても
踊る度にその都度新鮮な感覚で相手と音楽を感じ
一番適切な運動表現を反射的に生み出していかないと
どんなに外見的に美しくとも、中身のないマネキンの様に
人の心を感動させないだけでなく、踊り手の心を
成長させないのです。
現代は、ネットを代表として、様々な情報に溢れています。
昔に比べて格段に多くの知識をえることができ、誰もが
一番素晴らしいと思える物を選択でき、手に入れる事が
出来ます。
社交ダンスの技術も、より進歩して、多くの人が楽しく
踊れる様になって来ました。
しかしながら、そのテクニックや運動表現を真似るだけで
自分自身から生まれた物でないと、中身と外見が違い
見ている人からすると非常に違和感があります。
かつて、ヨーロッパのコーチャーにレッスンを受ける時
初めて習う時は必ず、自分の踊りは、オリジナルの物で
他の踊り手とは違うものだと強調されたものです。
社交ダンスは、誰でも共通のもので在ると思っていましたが、
彼らは、外見的には同じように見えても、全く違った思いで
表現しているのです。
その為、習った事をそのままコピーすると嫌な顔をされました。
技術が無い頃は良いのですが、自分が表現をする様に成ると
常に日本人の感性を求められました。
この事は、プロのレッスンに於ける特殊な事というのでなく、
これこそが、社交ダンスを習う人にとって一番大切な事なのです。
社交ダンスを習う時、もちろん、先生の真似をして覚えるのですが
本当に上手になりたければ、自分の体と心にしっかりと当てはめて
しっかりと咀嚼して、自らの体形や心に有ったものに変える事が
一番大切です。
そして、男女が、お互いの役割をしっかりと果たし、お互いの存在が
自らの成長になる踊りを目指す事が重要です。