クラシック愛好家にとっては時々「え、何この贅沢極まりない豪華キャストは!」と驚くものがあります。

 オペラだったら主役は勿論のこと、ちょっとだけ出る端役も全て一流どころ、指揮者もオケも特級品、しかも演出や舞台美術まで有名な芸術家が受け持って……というところですか。

 史上、最も「神レベル」のレッテルを貼られるべきは、何と言ってもかの有名なディアギレフ率いるバレエ・リュス団の公演じゃないでしょうか。何しろ今の時代の人間にとっては信じられないほど豪華な名前がずらりずらりと。
 例えば「パラード」という作品は台本がジャン・コクトー。音楽はエリック・サティ。振り付けはレオニード・マシーン。そして舞台美術と衣装のデザインはパブロ・ピカソ。

 ……丸のままサザビーズやクリスティーズのオークションに出したら、絶対値がつかないんじゃないかと思えるほどの顔触れですね。

 一体全体どんな壮大な作品なんだと畏まりたくなるんですが、実際の内容はシュールなサーカスの出し物を見ているみたいな変なお話、音楽はタイプライターやらピストルやらを楽器として使ったもの、舞台美術は奇妙なスカイラインを背景に、訳の分からんでかい張子の箱みたいなものを被った踊り手たちがこれまた訳の分からない機械的な動きを披露するという、実に不思議な約二十分間の世界。それが悪ふざけやおちゃらけには見えず、かといって高尚過ぎて取っ付き難いわけでもなく、単にとても洒落たエスプリの戯れと思えるんですから、やっぱり天才は凄いね。

 同じくバレエ・リュス団の作品である「青列車」もなかなか。演出はあの天才ニジンスキーの妹ブロニスラヴァ・ニジンスカ、音楽はダリウス・ミヨー、舞台美術と幕はピカソ、衣装はココ・シャネル。だけど内容は「パラード」同様、一体何が何だか分からねぇんだ。分からないんだけど何気なく豪華で、無駄に洗練されている。セレブってこんなものさ、と思えてしまうんですが、実はそれこそがこの作品のメインテーマでもあるので、結局話の筋を通じてではなく、雰囲気のみで自然と何を言いたいのかが伝わってきてしまうんですな。これも凄いもんだよ。

 さて。

 本日ご紹介したいのはオペラでもバレエでもなく。
 キャストはやはり一流ばかり。何しろ指揮者は日本人として初めてウィーン・フィルと演奏した岩城宏之さん。そしてソリストはオランダの名ピアニスト、ダニエル・ワイエンベルグ。オーケストラはロッテルダム交響楽団。
 うん。これだけ揃えば、素晴らしい演奏を期待できそうです。

 ……とはいえ、曲の題名はちょっとおかしいんですが。

 「ライゼンシュタイン作のポピュラー協奏曲」

 あのー、ポピュラー協奏曲ってなんすか。自分の作品に「ポピュラー」なんてつけるような自意識過剰な作曲家がいるのかよ(結構いたりして)。大体、作曲者のライゼンシュタインって誰なんです。曲名以前にそれを作った人が全くポピュラーではないんですけど。
 
 ……あ、違った。題名は「ポポラー協奏曲」でした。別名は、ええと……

 「全てのピアノ協奏曲をぶちのめすピアノ協奏曲」。

 …………。

 何じゃ、こりゃー!

 ――はい。こういう曲です(注:動画はモノクロです)





 実はこの曲、英国のコメディアンだったジェラルド・ホフナングの数多いジョーク・コンサート用に書かれたものです。指揮者とピアニストとの争いが面白いので、今でも時々コンサートでコントのように演じられる曲ですが、誰にでも出来そうで、実際にはそう簡単に演奏出来るものではないとか。
 まず、指揮者もピアニストも相当実力がなければ無理ですかも。オケもソリストも合うべきところはぴったりと合わなければならないし、切り替え部分やリズムはかなり難しい。また、ピアニストも超絶技巧的なこの難曲を余裕で弾けなければ面白くない。何度か聴いてみると分かると思いますが、ワイエンベルグはグリーグである部分やラフマニノフの箇所など、幾ら冗談でもやはり名人級の腕前を惜しげもなく披露してくれています(実際この人のプロコフィエフの協奏曲の録音など本当に素晴らしいです。正直、リヒテルやベロフより上手いかも)

 だけど。

 やっぱり内容は無駄にお洒落で非常に贅沢なお遊びですね。豪華で完璧でありながら、如何にも戯れの世界。だからこそ、バレエ・リュスに劣ることなく大変貴重なのかもしれませんが。

 芸術ってさ。

 こういう面ももっとあっていいんじゃないかと思っている菜之花なのでありました。