今日、カイス・ド・ソドレにあるリベイロ市場に立ち寄ったのち、カスカイスへショートトリップしてきた。カスカイスはリスボンから電車で30分程度の(大まかにいえばだが)テージョ川と大西洋との交点に位置する港町である。カスカイスに行った目的は、川、海沿いということで今行っているベレンのモニュメンタルエリアの課題の手掛かりとなる何かを見つけられないかということと、ソウト・デ・モウラの最新作パウラ・レゴ美術館、アイレス・マテウスによる灯台美術館を見るためである。
市場はつい最近見学に行ったルームメイトがよかったと言って写真を見せてくれ、想像以上に面白そうだったので行ってみた。空間は結構おもしろかったのだが、何せ生鮮食品を扱う市場なので(一部土産物屋、本屋もあるが)観光客と同じ立場の僕にとっては特にすることもなく、さらっと見てすます。市場よりも興味深く、時間をかけてじっくりと見学したのはカイス・ド・ソドレ駅。ここは地下鉄と川沿いを西へ(カスカイスへ)と走る鉄道とテージョ川を対岸へ渡る定期船の3つの交通機関の終着駅となっている。地下鉄と地上駅とのつながりや、鉄道駅と定期船乗り場のつなげ方、鉄道線をそのまま伸ばした長方形のボリュームに角度を振った別のボリュームをぶつけることで隙間を作り、そこから光を取り入れる方法など、学ぶべきところが多い。勉強不足で誰が設計したのか知らないけれど、なかなかかっこいい駅なのだ。
さて、カスカイスへ。鉄道はテージョ川に沿ってリスボン市内を走り、一度内陸に入ったのち、またカスカイスに近づいてくると川(海)沿いに出るのだが、リスボン市内の川沿いとカスカイス寄りの川沿いの風景は驚くほど違う。千葉の海岸沿いと沖縄のそれくらい違う。海岸線が人工護岸か砂浜かという違いもあるし、川に対する視線の角度も違う。リスボンは人口地盤だから川に対する視線の角度が弱い。
心地よい海岸沿いを列車で進み、カスカイスに着く。ついてまず大体の方向と自分の感覚を頼りにマテウスの灯台美術館へ向かう。もとは貴族の館であるというカストロ・ギマラニス伯博物館を右手に見て、細い川を渡る昔ながらの石造りの橋を渡ると左手の河口付近に何やら面白い灯台とそのもとに立つ白いタイル張りの建築を発見する。事前に写真で見ていたのとはテクスチャーも違っていたし、マテウスのその作品が灯台美術館だということも灯台のもとに立っているということも知らずに行ったので、まさかそれが自分の目的地であるなどとは夢にも思わずに、ただ何となく面白そうだなとふらふらと引き寄せられていくと、そこには写真で見たことのある景色が広がっていた。そこにたどりついてみると、その美術館は美術館とは呼べないほどのちいさな代物であるということ、雑誌などに載っている新築部分はレセプション・カフェ・トイレ・バックヤードの機能しか持っておらず、展示スペースは灯台の周りを囲む小さなボリュームのリノベーション部分であることがわかる。そして、新築部分よりもリノベーション部分のほうが空間のつなぎ方、シークエンスが断然面白い。友達はここを訪れて「まあまあ」だと言っていたけれど、僕は結構好印象であった。確かに新築部分は部屋と部屋は独立していて内部空間に空間のつながりとか関係性とかいった面白さはないし、二次元的な形態操作しかなされていないけれど、この場所のコンテクストを考えると、既存を残した設計、既存を生かすため新築部分はなるべくボリュームを小さくし、そのボリュームの前に海へと広がるオープンスペースを作ってやることでエントランスを入ってすぐ正面に灯台が見えるというデザインはすんなりと理解でき、しっくりくるものだった。
いい建築をみるといい気分になるなと思いながら、海沿いの曲がりくねった道を「あのカーブの先には何が見えるのだろうか」という好奇心とともに歩いて行くと、地獄の口と呼ばれる波が岩を削ってできた洞窟にたどりついた。ここがまたよかった。波が打ち寄せると、おかしな形の岩にあたり、砕けて、真っ白な泡があたり一面に立つ。いつまで見ていても見飽きなかったけれど、団体の観光客が来たのでパウラ・レゴ美術館へ向かう。オレンジ色の二本の塔は遠目から見てもよく目立つ。周辺は緑が多く、ヴィヴィッドなオレンジも木々に中和されて、うまく風景に溶けあっている。緑の中を斜めにカットインしてエントランスに向かうのは瀬戸大橋の近くの谷口吉生による東山魁夷美術館みたいだなんて思いながらエントランスをくぐる。エントランスホールには3つの展示室と二つの通路(片方はカフェへもう片方は地下へ)が通じているのだが、どこの展示室から見ればよいのかがわからない。とりあえず一番近くの展示室に入ってみると晩年の作品が展示されているので、これは違うと思ってすぐに出る。実はそこは最後の展示室であった。この美術館は回廊状に展示空間が連なっており、一度順路に入れば迷うことはない(むしろ非常に分かりやすい)し、空間構成も悪くなかったと思うけれど、その導入の部分は分かりにくかった。それから、二本の塔が展示空間とは全く関係のないショップとカフェという機能を充てられていたこと、中庭に対して光窓が開けられているのに(作品を守るために?)すべてロールカーテンでとじられていることなど残念な部分が多かった。光の取り方とか、細かい部分まで気を使っていることは分かるのだけれど、それが何を意図してやっているのかはあまり読み取ることができなかった。要はあまり効いていないってことだと思う。中庭に面した光窓だって、もしすべてが開かれていたらそれはそれで気持ち悪かったと思う。
パウラ・レゴの絵はなんだかフリーダ・カーロを思い出させた。迫力があるのだけれど美しくはないことや、黒い線による輪郭のせいだと思う。
カスカイスはさらっと行くのにちょうどよい街で、今日の僕の気分には適していた。
カイス・ド・ソドレ 二つのボリュームの間のスリットから落ちる光






