・・・・・・・っということで、今年見た映画の中ではベストの作品かな?
舞台はジョージア(グルジア)領内の「アブハジア自治共和国」。
背景は1989年の「アブハジア紛争」。
製作国はロシア/グルジア/エストニア。
アブハジアって、全く知識ないですよね。
いま話題になっているアルメニア/アゼルバイジャン戦争と同じ地域です。
黒海とカスピ海に挟まれた、如何にも紛争が起きやすい地形です。
この地域の歴史的背景を知るにはうってつけの映画だという動機で観たのですが、いやはや完成度の高い映画でした。
完璧と言っても良いくらい。
主人公はミカン畑を営むエストニア人です。
えっ?
何でエストニア人???
エストニアってバルト三国の一つですよね。
アブハジア紛争はジョージアからの独立戦争ですから、アブハジア人とジョージア人が出てくるのは分かるんですが、コーカサスから来たチェチェン人の傭兵も出てくるんです。
何でチェチェン???
(例によってロシアの画策です。)
・・・というふうに、映画の背景を理解するだけで、頭の中に多くの???が生じてしまいます。
そんな背景を知らなくても映画は十分楽しめるんですが、やっぱり知っておいた方がいい。
何故なら、多くの地域戦争、民族戦争、宗教戦争のエッセンスがこの作品に詰まっているからです。
登場人物は敵対するジョージア人とチェチェン人、利害のない第三者のエストニア人です。
チェチェン人はアブハジア側ですが、金儲け目的の傭兵です。
物語は、ジョージア人とチェチェン人が戦闘で負傷し、エストニア人の老人(主役)の小屋に担ぎ込まれ看護を受けます。
チェチェン人は粗野で無教養な男。
当然、ジョージア人を殺そうとします。
ジョージア人は重傷を負っていてひ弱ですが、口ではチェチェン人に負けません。
エストニア人は年老いた老人ですが分別があり誇り高い男です。
すごい設定でしょう?
それぞれ異なるバックグラウンドを持った男たちが、狭い小屋で生活していくうちに、戦争の愚かさに気付いていく仕掛けです。
老人は何度も二人に問いかけます。
お互い何が違うのかと。
言葉数は少ないのですが、それぞれの言葉が持つ意味合いが実に深い。
沢山の問い掛けがあるのですが、予想を覆す返事が返ってきます。
或いは問い掛けに沈黙で答えるとか。
意味のない会話のようだけど、物語が進むうちにちゃんと答えが用意されていたり。
主人公の老人をはじめ、役者の演技が実に上手い。
不自然さが全く感じられず、カメラの存在を忘れてしまうくらい。
この映画の優れた点は、製作に加わらなかったアブハジアを悪く描いていないこと。
どの国にも片寄らず、公平な視線で描ききっていること。
登場人物の内面を丁寧に描いていること。
そうすることによって、戦争の空しさが観る者に自分のものとして伝わってきます。
男ばかりの映画で、しかもどの男も誇り高いから、余計に殺し合いの無意味さを感じます。
是非ご覧ください。
★★★★★