【日本人よ!】
イビチャ・オシム著
新潮社
2007年6月30日刊
この題名はオシム氏も了解しているのだろうか?とふと思った。
題名から予想するのは、日本人に対する辛口のコメントではないだろうか。
だが、オシム氏はサッカーの範囲から一歩も出ていない。
一筋縄ではいかない人物である。
本の中では、一般化された日本人論や日本文化などには、一切触れていない。
触れたとしても、サッカーの範疇に限ってだけだ。
4年半も日本のチームを指導してきたのだから、日本人のことはよく理解できているはずだ。
気持ちとして、「日本人とは」とか一般化して言いたくなるはずである。
しかし、彼はサッカーのことだけしか話さない。
意図的に、そうしているのである。
彼の経歴からして、サッカー以外の世界は殆ど経験していない。
よく自分の立場を心得ている。
これだけを見ても、なかなかの人物であることが分かる。
そういう彼だから、「日本人よ!」なんて上段からものを言うようなタイトルを付けるはずがないと思ったのである。
さて、本の中身だが、サッカーについて確固たる信念を持っている。
自分の考えに、自信を持っている。
そういった信念や、自信は深い知識と、実践から得た経験に基づいている。
サッカーの監督にとって、一番大切なものは知識であると言い切っている。
カリスマ性でも、人間性でもない。
非常に覚めた考え方だ。
日本人は、情緒的になりやすいが、物事を分析するには、冷静かつ客観的でなければならない。
こういう考え方一つをとっても、たいした人物であると思う。
さらに、これからのサッカーは「勝つためだけのサッカーになる」と分析する。
観ていて美しいとか、エンターテイメント性は必要なくなるという。
そして勝ためには、自分の出来る限界を知ること、相手をよく分析することを挙げている。
まるで、孫子の兵法のようだ。
相手を過大評価も、過小評価もせずに冷静に分析することは、相手に対するRespectという表現を使っている。
サッカーのことだけを書いているが、当然会社の経営に役立てたり、日本人が考えなければならない教訓をたくさん含んでいる。
例えば、コミュニケーションが足りないとか、マスコミの無知とか、人の生かし方とか・・・・・・。
オシム氏のような大人の考え方が出来る人物が、日本に居なくなってしまったのが残念である。
脳梗塞で入院中のオシム氏の、一刻も早い回復を心からお祈りする。