・・・・・・・っということで、またマイケル・サンデル教授の「ハーバード白熱教室」(NHK)を観てしまった。
観たというのは正確ではない。
ぼくが気付いたときは、もう番組は終盤に差し掛かっていたからだ。
でも、面白かった。
昨夜のお題は「お金で買えるもの買えないもの」だった。
いいテーマだ。
このテーマを選んだだけで、彼のセンスの良さを感じる。
ぼくが観た部分は、「代理妻出産」だった。
このあいだ、同じ番組を見たときは、大学の授業になるべく近い形で、多数の学生や一般の人を招いての講義(?)だった。
今回の参加者は、各国から5~6人のその筋のツワモノ(?)に限定していた点が違っていた。
ツワモノとは、ディベートに強いと自他共に認めている連中だ。
日本の出席者でぼくが知っていたのは、あの(東京都副知事の)猪瀬氏と古田敦也(元ヤクルトのキャッチャー?)だった。
あと、驚いたのがジャパネットの高田氏だった。
しまった、早く気付いて最初から観たかった。
・・・・・
そんなことはさて置き、内容だ。
インドでは合法的に代理妻ビジネスが確立しており、7千ドルさえ払えば、「子宮を貸してくれる」のだ。
当然、議論は「倫理」の問題に収斂(しゅうれん)する。
流石ディベートで鍛えられている連中だから、ぼくなんか彼らが発言するたびに、意見があっちに行ったり、こっちに行ったり・・・・
自分の定見の無さに今更ながら情けなくなる。
こう言うのもナンだが、あの番組を見ていた日本人の殆どが、ぼくと同じだったのじゃなかろうか。
そう、ぼくらを含め、こういうテーマを日ごろ真剣に考えるという習慣が無い。
でも、そうは言っても、子供が欲しくても出来ない夫婦というのもぼくらの周囲に沢山存在する。
当事者じゃない者からすれば、それじゃ養子を貰えばいいじゃん。
マドンナやブラピ夫妻のように。
だけれども、その場合DNAの繋がりはない。
繋がりのある子供と無い子供と注ぐ愛情が同じだと言えるだろうか?
これだけでも難しい問題だ。
さらに、子宮を貸す貧困層に対して、金持ちが「金の威力」で彼らの道徳を踏みにじっているのではないかという視点も生じる。
あるアメリカの女性ゲスト(オリジナルはインド人)の一人が、「それは結局レイプと変わらないのじゃないか」と発言した。
たった7千ドルである。
これに対して、日本人の女性ゲスト(名前は不明)から強烈な反論が出たけれど、ぼくはアメリカ人ゲストの発言により共感を得た。
さらに、これが合法であるならば(インドでは合法)、自分が出産の辛さを味わいたくないがために、他人の子宮を借りるという動機だってあるはずだ。
もっと言えば、体のラインが崩れるなんていう動機ね。
それは許されるべきだろうか?
・・・・ってな具合でディベートは続く。
ちょっと意外だったのは、あの猪瀬氏が精彩を欠いていたことだ。
・・・・っで、ぼくが感じたこと。
サンデル教授である。
議論がいろんな方面で、文字通り白熱する。
だが、彼は常に「それは私が考えていた範囲内の議論だね」・・・ってな顔をするのである。
確かに、彼は哲学者であり、ましてやこのテーマを選んだ張本人である。
人一倍このテーマを考えつくしていることは間違いない。
そこで、参加者は自分の意見を展開する中で、みな一応に同じ表情をする。
ぼく(私)って、サンデル教授の掌の中で踊らされているんじゃないか??
・・・っという表情なのである。
ここが彼の上手いところである。
そして、いつものように最後のまとめにかかる。
でも、そのまとめでは決してどちらが正しい、なにが正しいとは結論付けないのである。
いろんな意見が出ましたね。
でも、こうやって議論することは無駄どころか、有意義でしたね。
いま、「お金で買えるもの買えないもの」を考えないといけない時なんじゃないでしょうか?
・・・っという結論なのである。
彼はぼくと殆ど同じ年齢(1歳違い)なのだけれど、「対話」という哲学手法の素晴らしさを真に上手く利用しているものだといつも感心されるのである。