・・・・・・・っということで、フィクションです。
A子は恋愛結婚を夢見ていた。
ところが、現実はなかなか思うようには行かなかった。
30歳近くになるまで、恋愛するきっかけさえも無かった。
大学を卒業後、就職した商社で普通の仕事を普通にこなし、
男性社員からも、A子は普通の女の子として見られていた。
特に美人ではないけれど、男性とも普通に会話でき、
社内の合コンにも普通に付き合った。
恋愛相手として、特に問題があるような女性ではなかった。
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ご多分に漏れず、両親が心配しだした。
盛んに、お見合いを勧められた。
A子は絶対イヤだったけれど、ダメ元でいいじゃないかと言う親の説得を受け入れた。
父親が公務員だった関係で、組合が年頃の男女を紹介するようなサービスがあり、それを利用した。
何度かお見合いをした。
思っていた通り、上手く行かなかった。
相手に心がときめくか否かという自分の尺度を当てはめる限り、
お見合いという制度は自分には到底向かないだろうとA子も分かっていた。
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その回も、気乗りがしなかった。
その男は、今までお見合いした相手と、だいぶ変わっていた。
話の最初から、特有の堅苦しさを感じさせなかった。
ごく自然に、男が勝手に喋りだした。
ビデオデッキを買おうと思っているのだけれど、VHSとBetaどっちにするか迷っているというような話をしだした。
かといって、不真面目な遊び人ではないことだけは、はっきり分かった。
A子もつられて、モロにプライベートな話をしてしまった。
会社で問題になっているお局さんがどんなに嫌なヤツか、話をしだした自分に驚いた。
形ばかりの食事が終わると、男は急に「今夜多摩川で花火があるんだけれど、これから見に行かないか?」と言い出した。
小田急線の登戸駅で降り、自動販売機で缶ビールを買った。
男が酒屋の裏でゴソゴソしているから何かと思うと、ダンボールを拾ってきた。
これをお尻の下に敷くと良いと言う。
夕暮れになった土手の道を、ダンボールと缶ビールを持った二人が、歩いて行く。
試し打ちの花火が上がる頃には、土手の斜面にダンボールを敷いて二人で腰を下ろした。
せっかく、白いヒラヒラのワンピースを着てきたのにと思ったが、何かとても楽しい気分になった。
じきに河原は人で一杯になった。
缶ビールをプシュッと開けて、二人で乾杯した。
今まで、こんなに近くで打ち上げ花火を見たのはA子にとって初めてだった。
殆ど真上で大きな花火がドーンと、迫力満点に開いた。
思わず、彼の腕に手を回した。
自分でも不思議だったけれど、とても自然だった。
彼と肩を寄せ合って、首が疲れるのも構わず真上を見続けた。
屋台でビールとおつまみを買い足して、仕掛け花火に点火されるクライマックスまで見続けた。
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A子には最初から分かっていた。
この人とは、この一回きりで二度と会えないだろうと。
そして、その通りになった。
その後、A子は30歳になる前に普通の男とお見合い結婚し、
普通に子供二人をもうけ、
普通の生活をし、
普通に歳を取った。
でも毎夏、花火の季節になると、あの時の記憶が蘇ってくるのである。
あの人は今ごろどうしているだろうかなって。