1.塩

「世の中で、いちばんかなしい景色は汗に濡れた敗者審判だ。」

周作はアルミホイルにくるまれたおにぎりをほおばりながら言った。

そのあとに美味しいとも。

予選が終わったあと、私たちは2階の観覧席に上がってお昼を食べていた。

私が作ったおにぎりは特に塩にこだわっていて、中の具材にたどり着かずとも十分美味しいという自負があった。

それに海苔は予め巻いておくスタイルで、私はパリパリの海苔よりもご飯の水分でしなしなになっているあの匂いも好きなのだ。

それこそが手作りのおにぎりだと思っている。

周作がおにぎりに対してどれほどの期待やこだわりを持っているかは聞いたことが無いので分からないが、少なくとも私のおにぎりを食べるといつも美味しいと言ってくれる。

「予選は一位だったから、トーナメント初戦はDブロックの二位と試合か。」

食べ終えた恋人は試合要綱を広げていた。

周作は中高しかやってないけど、再開してから伸びたタイプで経験値にしては相対的に強かった。
私は恋人の中陣のフォアドライブが好きだった。

「私も1位通過したよ。」

手元の紙から目を離すことなく、ああとだけ恋人は言った。

「敗者審判だけはごめんだ。日曜日に普段よりも早起きしてお金も払って、誰が審判などしたいものか。敗者という烙印に他ならない。最低でも準決くらいまでは行かないとな。」

結論から言うと恋人は一回戦であっさりと負けた。
敗者審判を終えた彼を横目に、私はトーナメントを勝ち進んで優勝することが出来た。
ただのオープン戦ではあるけど。

体育館から帰りの駅に向かう途中、周作は大きくため息をついた。

「しおりはさすがだな。やっぱり俺はまだまだだよ。素振りが足りないのかもしれない。」

悔しさの他に情けなさのようなものがその声から滲んでいた。

こうした時、距離を感じてしまうのだろうか。

「あなたはあなたで頑張ったじゃない。また練習すれば勝てるようになるよ。」

「だといいけど。」

周作は前を向いたまま言った。

私は練習に励む彼が好きだし、尊敬もしている。

練習のために仕事を早く切り上げたり、家ではプロ選手の動画を観たり、筋トレをしたり、出来ることの多くをやっていると思う。

私に対しても普段から優しいし愛情表現も割とする方だと思う。

嫌いなところといえば、実力差を気にするところと他の女にデレデレするところ。

あと、本当は別に彼女がいるところ。


-続く-