ムペンバ効果のみかた:タイムスケールと熱放出率(追記あり)
以前の二つのエントリ(これ
とこれ
)で取り上げた「ムペンバ効果」だが、一部で(って全体を見てるわけじゃないので、ごく一部、ほんとに3つ4つのウェブサイト、を見た範囲での印象で、しかも私はNHKの当該番組を見たわけではなくて、限られたごく一部のウェブサイトでの情報を見た範囲での話なのだけれど)混乱があるようなので、整理しておく。
水の内部エネルギーUは温度と分子数で決まっているので、分子数(つまり凍らせる水の量)を同じにしておけば、内部エネルギー自体は温度Tのみで決まる。だから、温度が高ければ、水から奪わなければならないエネルギー量は、どうやったって高温の水のほうが多い。これは変えようがない。
ところが、「ムペンバ効果」として問題になっているのは、凍結までの時間である。タイムスケールは内部エネルギーUのみでは決まらず、エネルギー放出率 dU/dt (tは時間)にも依る。
凍結まで考えるとややこしいので、液体のままでよいから0℃まで下がるまでのタイムスケールをτとおくと、温度一様であるならば、
τ = U / (dU/dt)
で近似的に求めることができる。
「ムペンバ効果」の問題は、dU/dt をどうするかにある、と言ってもいいだろう。
温度が非一様であれば、各流体素辺の局所的な内部エネルギー u (その総和が全内部エネルギーUになるように定義する)と、その流体素辺の熱放出率 du/dt (これは熱の移流、つまり別の流体素辺への熱の移動も込みにしたもの)をすべての領域について考えて、全体が0℃になるまでの時間を考えないといけない。
無論、凍結が始まれば潜熱も放出されるし、温度の非一様性を導入することは、非平衡非線型の難しい問題に一気に足を踏み入れることになる。
モリキンさんのブログ「学者のたまごでした 」で紹介されている前野さんのコメントやモリキンさん御本人のコメントにも書かれているように、単純な話では済まないのだ。
もちろん、前にも書いたように、水の粘性によって対流がすぐに散逸して止まってしまえば「ムペンバ効果」などは起こらないだろうし、水を入れる容器の断熱性や水の蒸発、あるいは冷凍庫の性能(温度がどうなっているかとか、風があったりなかったり、とか)にも関係して、「ムペンバ効果」がおきたりおきなかったりする可能性も十分にある。それどころか、実はちゃんとやったらどうやっても「ムペンバ効果」など起きない、という結論に至る可能性だって十分にありそうだ。
しかし、上で書いたように、問題が「U」だけでは閉じず、「dU/dt」をどうするか、ということと関わってくるため、私の印象では、必ずしも起こり得ない現象、とは言い切れないのだ。
(追記)大槻義彦さんのこのエントリ では、暗にdU/dtが温度のみの関数と仮定して、温度が高ければ凍結までの時間は長いから、ムペンバ効果などおかしい、という議論が展開されているが、それだけではタイムスケールは決まらない、というのが、このエントリの趣旨である。
水の内部エネルギーUは温度と分子数で決まっているので、分子数(つまり凍らせる水の量)を同じにしておけば、内部エネルギー自体は温度Tのみで決まる。だから、温度が高ければ、水から奪わなければならないエネルギー量は、どうやったって高温の水のほうが多い。これは変えようがない。
ところが、「ムペンバ効果」として問題になっているのは、凍結までの時間である。タイムスケールは内部エネルギーUのみでは決まらず、エネルギー放出率 dU/dt (tは時間)にも依る。
凍結まで考えるとややこしいので、液体のままでよいから0℃まで下がるまでのタイムスケールをτとおくと、温度一様であるならば、
τ = U / (dU/dt)
で近似的に求めることができる。
「ムペンバ効果」の問題は、dU/dt をどうするかにある、と言ってもいいだろう。
温度が非一様であれば、各流体素辺の局所的な内部エネルギー u (その総和が全内部エネルギーUになるように定義する)と、その流体素辺の熱放出率 du/dt (これは熱の移流、つまり別の流体素辺への熱の移動も込みにしたもの)をすべての領域について考えて、全体が0℃になるまでの時間を考えないといけない。
無論、凍結が始まれば潜熱も放出されるし、温度の非一様性を導入することは、非平衡非線型の難しい問題に一気に足を踏み入れることになる。
モリキンさんのブログ「学者のたまごでした 」で紹介されている前野さんのコメントやモリキンさん御本人のコメントにも書かれているように、単純な話では済まないのだ。
もちろん、前にも書いたように、水の粘性によって対流がすぐに散逸して止まってしまえば「ムペンバ効果」などは起こらないだろうし、水を入れる容器の断熱性や水の蒸発、あるいは冷凍庫の性能(温度がどうなっているかとか、風があったりなかったり、とか)にも関係して、「ムペンバ効果」がおきたりおきなかったりする可能性も十分にある。それどころか、実はちゃんとやったらどうやっても「ムペンバ効果」など起きない、という結論に至る可能性だって十分にありそうだ。
しかし、上で書いたように、問題が「U」だけでは閉じず、「dU/dt」をどうするか、ということと関わってくるため、私の印象では、必ずしも起こり得ない現象、とは言い切れないのだ。
(追記)大槻義彦さんのこのエントリ では、暗にdU/dtが温度のみの関数と仮定して、温度が高ければ凍結までの時間は長いから、ムペンバ効果などおかしい、という議論が展開されているが、それだけではタイムスケールは決まらない、というのが、このエントリの趣旨である。