ある日、お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。
お婆さんが川で洗濯をしていると、川上からお爺さんがどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。
「ゴフッ……ぅおぉい!うぐっ、ば、婆さん!た、助けてくrごぼごぼ」
その時お婆さんは思い出していました。お爺さんと初めて出会った時のことを。
以下回想。
あれは私が高校二年生の夏。終業式の帰り道、橋の上から川面を眺めていたらどこからともなく助けを呼ぶ声が聞こえたの。
声のした方を見てみたら、溺れてる男の人がいたのね。
助けなきゃって思ったんだけど、私泳ぐの苦手だし、正直濡れるのとかダルかったから、その辺にあった長い棒を持ってきて、溺れてる人に「これに掴まって!」って言ったのね。
そしたらその人必死なもんだから、ものすごい力でその棒を引っ張ったの。それで私バランス崩して、橋から落ちそうになっちゃったのね。
あ、私死んじゃうのかなって思ったら、誰かが私の腕を掴んで橋の上に引き戻してくれたの。
それで助けてくれた人の方を見たら、その人イケメンで有名な1個上の先輩で、私も密かに憧れてた人だったのね。
だから私すごぉくドキドキしちゃって、その人ただの憧れの先輩だったのに、その時からほんとに好きになっちゃったんだ。
以上、回想終わり。
「その時流れて行ったのが、今の旦那……」
そう呟くと、お婆さんは深い溜息を一つつき、立ち上がって、独り家路に着きました。
さて、その時お婆さんが忘れて行った大切なものはなんでしょう。
答え:洗い終えた洗濯物