“えっ⁉︎ 嘘だろ⁉︎ 待てよ!!
心の中で叫んだ。言葉にならなかったのには理由がある。
それはたとえ叫んだとしても、その言葉は届かないと判断が出来たからである。
ゆっくりと高速バスは発車していた。出発時間は4:00。確かにその時間前。なのに私だけを乗せずにバスは動き出したのである…。目の前で。
諦めはしなかった。追いかけた。声にはならなかったが、叫び声を張り上げるような気持ちを抱きながら走った。
“お!前のトラックがノロノロ運転だ!間に合う。絶対に。” そう信じて300メートル以上は走った。
あと5メートルと近づいた。
ここは東名高速道路の上郷SA。後2時間もしないで彦根に到着するんだ。
“やばい!あのガソリンスタンドを曲がったらアウト。間に合わない。”
前のトラックがスピードをあげて曲がって行く。高速道路へ…。あの奈良交通の私のバスは…。
お馬鹿さん。ついていった。
“万事休す。こんなのあり?”
高速進入口の暗がりに消えていった。追いかけた。それでも追いかけた!諦めはしなかった。
その時、ガソリンスタンドの店員が呼び止めた。
「ちょっと、ちょっと、ダメだって!そこは入っちゃダメだって!」
「私の乗ってたバスが…。」
「何言ってんの?もう間に合わないって。ダメダメ。入っちゃいかんのだから。」
消えていったバス。私は諦めざるをえなかった。それでも携帯を取り出し、バス会社に電話しようとメールを見たりサイトに繋いだりして、奈良交通にかけてみた。
時間外。電話呼び出し音しかならない。だれも出ない。
6時には嫁が彦根駅に待っている事になっていた。何を言われるかわからない。やらかしてしまった。自分が悪いんだと思うしかなかった。
“荷物はどうなるんだろう。奈良まで取りに行くんか?帰りは電車か?いや、駅まではタクシーしかないんか。”寒い中どうのこうの考えても始まらない。
向きを変え休憩をとった施設に向かった。
その時、後ろから声がした。
「あの!宮園さんですか?」
「えっ⁇。」何がなんだかわからなかった。
「すみません。人数を数え間違いしてました。申し訳ありません。」
なんと高速バスは高速道路の入り口に停めてあると言うではないか。
危機一髪。助かった。
よぎる安堵感。不思議と怒る気にならなかった。停めてあるバスに乗り込んだ。
よく考えたら、出発時間前。それも、私の座席は一番前。前の清水SAでは10分遅れて発車してたではないか?突っ込みどころはたくさんある。しかしクレームはやめた。普通ならどやしつけるところ…。
満員のバスはほとんどが寝てるし、クレームを言ったところで何もならない。とにかく家に帰れたらいいんだから。
眠れないまま、高速バスは彦根駅に着いた。予定より早く。嫁にも話したし、子供たちにも話した。彦根駅に着いたから笑い話になりました。
よく考えてみたら、きっとあのバスに乗っていた乗客の誰かが叫んでくれたんだろう。隣の人は可能性は低い。歯ぎしりしながら寝てたから。
だれだろう?親切な誰からか守られたのである。人はやはり、独りでは生き難い動物なのだとつくづく思った。