バーゼルⅢ対応証券について(3) | 金融・経済の仕組を解きほぐすブログ

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三井住友信託もAT1を発行したようだ。これで国内の大手銀行は全てAT1を発行したことになる。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGC02H0A_S5A900C1EE8000/


銀行が発行するハイブリッド債の規制資本算入で重要となるのは、損失吸収能力にある。金融危機の際に、金融機関が破綻に瀕しているにも関わらず、劣後債などの投資家が損失の負担をするよりも前に、納税者の資金によって救われた。金融機関の経営が悪化すれば、本来はこれらの投資家が先に損失の負担をすべきにも関わらず、納税者に負担を強いることとなった。そのため、ハイブリッド債は、金融機関の損失をきちんと投資家が負える仕組になっているかどうかが重要視される。


バーゼルⅢではその損失吸収力について、2つの考え方を用いている。1つはGoing Concernベース、もう1つはGone Concernベースという考え方だ。この用語自体は一般的に使われている言葉なので、余り説明の必要はないだろう。Going Concernは企業が存続する前提での損失吸収力、Gone Concernは企業が破綻した場合の損失吸収力である。


Tier2ではGone Concernでの損失吸収力を求めている。すなわち、企業が実質的に破綻した際に、自動的に元本が削減される等の条項が付与されている必要がある。実質的な破綻の定義は、日本では預金保険法の特定2号措置を講じる必要が出た場合、ということになっている。この実質的に破綻した際の損失吸収の条項はPONV (Point of Non-Viability) トリガーという言い方をすることもある。


AT1ではGone Concernベースに加えて、Going Concernベースでの損失吸収力を求めている。つまり、企業が破綻状態に陥っていなくとも、元本が削減される等の条項の付与が求められる。破綻に至る前の段階での損失吸収を可能にする方法として、前回記載したCET1比率を用いている。

規制上必要なCET1比率は4.5%であるが、AT1はGoing Concernという観点から、それよりも高いCET1比率5.125%を基準としている。CET1比率が5.125%を割った段階で、元本削減や普通株式への転換が起きるという仕組で、投資家に損失の負担を求めている。このGoing Concernベースでの損失吸収力を5.125トリガーと言ったりする(なお、海外でもこの条項については5.125%であることが多いが、スイスなど一部の国では7%など、より高い水準を設定しているケースも存在する)。


上のAT1が最近の新聞報道等で言われている新型劣後債である。


損失吸収力を踏まえた資本の質、という点では普通株式(CET1)>その他Tier1(AT1)>Tier2という順序になる。


また、AT1はTier1に含まれるという点で、上の損失吸収の仕組以外にもこれまでのハイブリッド債と似たような条件も求められている。以前説明したように、債券を株式の性質に近づけていくことでハイブリッド債の条件は決められていくが、それは規制資本の場合も同様である。具体的には(1)劣後性(=損失吸収力)(2)永久性(3)利息・配当の任意性、という観点だ。(1)の劣後性は上のような内容であるが、(2)(3)に関しても規制の中でほとんど必要な要件は決まっている。ここから先は細かな話がとても多いので、次回は(2)(3)についての簡単な概要を示す。