「敵戦艦は何故攻めてくるのか・・・」
日向は隣で。独り言のように話す。海の上で鳴く音は反響もせず消えていく。まるで炎の中に溶け込んだ氷のように。
「敵戦艦は何故、攻めてくるのか」
今度は、私に向かって言い放ってきた。その顔はいつもの優しい顔付きではあった。だが、私にはそれが、私を怒るかのような怖い顔に見えた。
極上のワインで彩られた赤が、腕から滴る様は、まるでコウモリにでもなったかのように何所か魅かれてしまう。
たちまち、腕が広がり、孤を描くように薙ぎ払われた。腕は日向の左肩から斜めに向かって大きく振り下ろされる。振り下ろされるそれは、刀。左手を私に向けたままの大勢の日向は焦って後ろに身じろぐが、片足を波にさらわれバランスを崩した。しめた。このまま切って捨ててしまオう。日向、楽になれ。心があれば、底から思う。海ニ沈め。
「お前はどうして、・・・」
ドカン、という大音響が耳に響いた。耳の天辺が震え、麻痺したかのように痒くなる。そして、腹部に、腸がある所から、心臓の真下にかけて、穴が、大きな、綺麗な空洞が空いていた。その穴から見える海が、穴の上から垂れてくる赤と塊で、汚く、だけど、それでも綺麗でいてくれた。
*
「死んでしまえ」
大方、また嫌な事があったのだろう。日向はすぐに、何かに当たってしまう癖がある。部屋に入るなり大声で叫ぶ彼女を、私は見ていて心が傷つく。嫌なら辞めてしまえばいいのに、と。
「今度は誰が死んだんだ?」
その言葉を聞いた日向は、一瞬眉を引き寄せ、泣きだしそうな顔をした。けど、すぐに怒った表情をして
「死んだのは天龍だ。間違えなくあいつだった。そして私はあいつを殺したんだ」
大声で叫ぶから、声が裏返る。そして椅子に座る私に近づき、膝から崩れ落ちていく彼女を見る時、私は心が鈍器で殴られた気分になった。
「何度も言わせるな。あいつ等はお前の仲間でも、ましてや生まれ変わりでもない。違うんだぞ、日向、違うんだ」
私は泣き崩れる日向を見て、だんだん言葉に強さがなくなってくる。
「じゃあ、あれは何なんだ、どうしてあいつ等が天龍の武器を持っていたんだ」
こっちの顔を覗く日向の顔は、目から大粒のなみだを零し、助けを求めるように私を見てきた。
「・・・あいつらは、天龍が落とした武器を、取り込んだだけだ。そして、奴らが使いやすいように改良して、そして、複製している筈だ。だから、これからもあの武器を使って闘いにくる。・・・磯崎加奈子は、もう、何所にもいないんだ」
最後の言葉を聞いた日向は涙を枯らせ、そしてそのまま、私の膝に顔をうずませて、体を震わせるだけだった。
また明日から、次の任に就いて貰う、なんて言葉をかける事は、私にはできなかった。
次の日、だから日向には悪いが、一日休んでもらうことにした。大淀にも悪いが、秘書兼提督として動いて貰うことにする。
比嘉提督は現場に出向かないで、ここで指揮して貰わないと困りますよ。
と、嫌な顔をされたが、すまない、としか返す事が精一杯であった。
すると、しょうがないんだからという顔で承諾してくれた。
私も誰かに甘えて生きているんだな。だから、その分を恩返ししてあげたい。このデスクの上でできない事もあるから。