獣の涙、俺の涙
マニャガハ島から本島に戻り、ケルビンに連絡をした。
どうせまだ寝てるだろうぐらいに思っていたら、ケルビンは病院にいた。
ケルビンを育ててくれた養母さんが、ICU(集中治療室)に入って大変な状態だという。。。
すぐ行くから場所おしえてくれ!
自分がそう聞くと、病院は自分たちが滞在したホテルから結構離れた場所だった。なので、ホテルでレンタカーを借りて出動。
1時間くらいかけ、病院に到着。
自分の心がそうであったからなのか、院内は非常に重苦しい空気に包まれているように感じた。
2年ぶりに再会した獣は、かなり巨大化していた。体重は、現在なんとなんと135キロだという。
しかし、不安で緊迫した状況のためか、その巨体が院内ではやや小さくも感じた。
心配で毎日胃がとても痛むんだ、とも語っていた。
聞くと、養母さんは咽頭ガン。
重篤な状態で、ICU(集中治療室)にいるという。
ケルビンは病室の前で毎日つきっきりの状態のようだった。
今後は、精密検査をして手術するためにヘリコプターでグアム島の大きな病院に搬送しなければならないという。
「ええーっ!」驚く自分たちに向かって、神妙な面持ちでケルビンが言った。
「マミーの状況は最悪だが、俺は9月、日本に行ってワクチンファイトで試合をする。俺の仕事はプロのファイターだ。そしてPXCのチャンピオンだ。必要とされる場所、待っていてくれるファンがいればどんな状況でもそこに行き、キッチリと自分の仕事をする。俺は9月13日に必ず日本に行くことを約束する、そして、日本の皆さんに勇姿を見せるから。」と。
自分は、ケルビンのこの言葉に全身がしびれた。
ありがとう。その熱い魂、受け取ったぞ!
ただ、今はお母さんの具合いが心配だ。お母さんの状況を見せてくれ。
自分はそう言ってICUの中に入った。
ナースが慌てて、医療関係者以外は入っちゃダメ!と、すごい剣幕で近づいてきたので、
「自分は日本から来た歯科医師です。」と言った。すると、手の平を返すようにスンナリと通してもらえた。
ケルビンいわく、日本の医療はすごくリスペクトされているらしい。
(黒光りする肌に、タンクトップと海パンとビーチサンダルという井手達で、はたから見たらかなりその説得力はなかったが。。。汗)
ICU内はかなり緊迫した感じだった。
養母さんは少し意識がありそうな状況で、苦しそうにしていた。
ベットに固定されており、身体の中に管が何本も入っていた。
自分が遠目から見ていると、ケルビンが、「近くに来いよ」と。
自分は養母さんのそばに歩み寄った。
顔は横向きに固定されており、表情を拝見することはできない。
ケルビンが耳元でとてもやさしい口調で、「マミー、彼がTAKUYAだよ」と紹介をした。
すると、肘までひもで固定されている細い腕がユックリと自分の方に伸び、握手を求めてきた。
自分はその手を両手でやさしくつつみながら、「お母さん、私は日本からきたTAKUYAです。ケルビンの戦友です。お母さん、一日も早く元気になってください。」と、言うつもりだったが、手を握った瞬間、大粒の涙がたくさん流れてきてしまい、途中までしかそれを言う事が出来なかった。
自分は思った。
自分たちがおこなっているチャリティー活動の本質は、世界中の病気の人たちを救うことじゃないか。
今、目の前にいる病気で苦しんでいる人を救えなくてどうするのか。
自分は歯科医師としても、“世界を治す大医”を目指してこの活動を続けてきてるんじゃないのか。
と。
「松永さん、今回のワクチンファイト、収益の何%かはケルビンの養母さんの手術代にあてる大会にしてもいいでしょうか。」
自分は、涙をこぼしながら、とっさにそう提案した。
「モチロン。」
松永さんも目を赤くして即答してくれた。
「お母さんの状況、よく理解した。今回はそういう主旨も含めた大会にシフトチェンジしたいので、この話、日本に持ち帰って、宮田先生やユーのマネージャのTETSU氏と協議させてくれ。」
自分がそう伝えると、野獣は黙って目じりに大粒の光るものを浮かべながらゆっくりとうなずいた。
人種は違えど、ケルビンにも25%日本人の血が流れている。
自分は、こういう状況下にもかかわらず日本に来て試合をするという男気、そしてあの大粒の光る涙に、自分と同じ大和魂を垣間見た。
心から、マミーに贈りたい。
大会当日、会場に来てくださった皆さんの気持ちが込められた生きたお金を。
そして、来場してくださった皆さん、参加してくださった選手の皆さん、縁の下でがんばってくださったスタッフの皆さん、そのみんなの熱い気持ちを。
ケルビンが胸のポケットに大切に入れていた、元気な時のマミーの写真。
マミー、手術が成功し、早く良くなって欲しい。
そして、俺たちは、マミーのためにも激闘し、絶対に大会を大成功させる事を誓うから!


