うなぎ
一生のうちで好きなもの嫌いなものは変わるものだ。
自分はうなぎも一時期嫌いになったことがあった。
大学生の時の夏休み、突然の思いつきで一人で夕方から釣りに行ったことがあった。
博多湾に注ぐ御笠川の河口付近。釣り始める頃にはあたりが薄暗くなり始めていた。
釣り糸を垂らすとすぐにうなぎがかかってきた。たまたまかと思ったら二匹目もまたうなぎ。その後もうなぎの入れ食い状態で、一時間弱であっという間にバケツの中はうなぎが二十匹くらいに。
その時、ふと、背後に人の気配を感じ、降り返ってみると怪しい妖気を放つ一人の老婆が。
汚れた服、ボサボサの髪は腰まで長く、目は片目しか無かった。そしてその目はジッと自分を見つめていた。
老婆は自分に近づき、そのうなぎをさばいてあげるから今からうちに来なさいと言ってきた。
普通なら絶対そんな人について行かないが、危険察知能力ゼロの自分は、誘われるまま老婆の家へ。
明日のジョーのドヤ街のようなところの一角にあった老婆の家は、中に入るとそこは裸電球ひとつの薄暗く汚い土間が広がり、何故か夏なのに超ひんやりとした空気に包まれていた。
目の前にはまな板代わりに使用していると思われる大きな板、そしてその板におもむろに出刃包丁がタテに刺してあった。
しまった。。マズイ所に来ちゃったな。。。。
やっと催眠から覚めたような自分がふと後ろをふり返ると、さっきの老婆が今度は大きなかなづちと五寸釘を握り締め、自分の背後に立っていた。
心臓が止まりそうになるくらいの緊迫した空気の中、老婆は自分の釣り上げたうなぎをその板の上に置き、五寸釘でうなぎの頭を、ガンガンガンと打ち始めた。そして、出刃包丁でうなぎの身体をさばいていく老婆。
日本昔話で見た、夜中に宿泊者の肝を出刃包丁で取り出して食べる老婆が急にかぶり、自分は、「これ全部あげます」と言って逃げるように老婆の家を後にした。あげますと言った瞬間の老婆のかすかな微笑がまた強く脳裏に焼きつき、それ以後、数年、うなぎ食べられない症候群になったとことがあった。
今はもううなぎは大好きだが、一時期一種のトラウマ状態だった。
全国の釣り人の皆さん、怪しげな妖気を放つ人が声をかけてきてもその人に家についていくことはしないように気をつけましょう(笑)。