続・功夫電影専科 -46ページ目

続・功夫電影専科

香港映画を始めとした古今東西のアクション映画の感想などを書き連ねています。


「マスター・オブ・リアル・カンフー/大地無限」
原題:太極張三豐
英題:The Tai-Chi Master/Twin Warriors/Tai-Chi
製作:1994年

▼私が功夫映画に目覚めたのは、李連杰(ジェット・リー)の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』系列を見たことがきっかけでした。
しかし当時の私は、李連杰よりも『ワンチャイ』というブランドに執着しており、彼が主演した他の古装片をスルーしていました。そこで最近は未見の李連杰作品をチェックしているのですが、この映画は視聴後に「なぜ当時見ようとしなかったんだ!」と悔やんでしまった1本です(苦笑
本作は『ワンチャイ』と同じく少林英雄を扱った映画で、太極拳の創始者といわれる張三豐に李連杰が扮しています。監督は袁家班の袁和平(ユエン・ウーピン)で、共演には一流の功夫職人たちが勢揃い。アクションのひとつひとつに拘った、実に袁和平らしい作品に仕上がっています。

■舞台は明朝時代の中国。少林寺の修行僧であった李連杰と錢小豪(チン・シウホウ)は、腕前を競いながら鍛錬に励んでいた。しかし、寺の競技大会で反則技を使った兄弟子に対し、錢小豪が必要以上に攻め立てたことでトラブルが起こってしまう。
2人は少林寺を出ることになるが、街では朝廷の人間が傍若無人に振舞っており、市井の人々を苦しめていた。ひょんなことから袁潔瑩(フェニー・ユン)と出会い、楊紫瓊(ミシェール・ヨー)を助けた2人は、役人に追われて反政府派のアジトへと逃げ込んだ。
 その後、功名心の強い錢小豪は役人になる道を選び、李連杰は袁潔瑩たちのもとに残留。やがて朝廷の追求が反政府派に及び、アジトが襲撃を受けてしまった。李連杰たちは雪辱を晴らすべく、宦官・孫建魁を討とうとするのだが、これは出世欲に支配された錢小豪の罠であった。
思わぬ反撃によって反政府派は大打撃を受け、この一件で武勲を立てた錢小豪は将軍へと出世する。そして忠誠心を示すために袁潔瑩を殺害し、捕まった楊紫瓊を救いに来た李連杰を徹底的に痛めつけた。その姿に、かつて少林寺で修行していた頃の面影は無かった…。
どうにか楊紫瓊を助け出した李連杰は、精神的なショックにより心神喪失状態となるが、仲間たちの献身的な介護により復活。少林寺から去る際に受け取った巻物をもとに、相手の力を利用する太極拳の極意に目覚めていく。柔の拳を操る李連杰と、剛の拳を振るう錢小豪…勝つのはどっちだ!?

▲袁和平が監督した太極拳映画といえば『ドラゴン酔太極拳』ですが、本作はそれに負けない完成度を誇っています。まず見事なのがワイヤーワークを交えたアクションの数々です。少林寺での乱戦から始まって、客棧での戦いや孫建魁との決着に至るまで、高度な技の応酬を見ることができます。
李連杰が繰り出す太極拳も非常に美しく、敵の攻撃を流れるような動作で受け流す様は、『ワンチャイ』系列とはまた違った魅力に満ちています。ただ、ラストバトルが李連杰のワンサイド・ゲームと化しており、錢小豪が一方的にボコられるだけだったのは惜しいと思いました。
ストーリーもオーソドックスすぎて意外性に欠けますが、それ以外は概ねクオリティの高い逸品。もし『ワンチャイ』系列で李連杰に興味を持った方は、本作からの視聴をお薦めしたいですね。ちなみに続編の『太極神拳』あまり面白くありません(爆


「未来警察TC2000」
原題:TC 2000
製作:1993年

●環境汚染によって荒廃し、多くの人々が地下都市に移住した近未来の地球。パトロール部隊に属するビリー・ブランクスとボビー・フィリップスは、地上の荒んだ世界からやってくる犯罪者と日夜戦っていた。
ある時、ジャラル・メーリ率いる一団が何者かの手引きによって都市内に侵入。その際にボビーが殉職し、相棒を失ったビリーは除隊を決意する。だが、これら一連の事件を仕組んだのはパトロール部隊の司令官であった。
 司令官はある野望の為にボビーをアンドロイドとして蘇生させ、真実に近付いたビリーを排除せんと企む。果たして彼の目的とは…?一方、地上世界に脱出したビリーは、そこで戦いに明け暮れる楊斯(ボロ・ヤン)と運命的な出会いを果たす。
彼に救われたビリーはジャラルを倒そうとするが、そこには司令官の命令で徒党を組みに来ていたボビーの姿があった。一時撤退したビリーは、敵の狙いが地上世界の全住人抹殺だと知り、楊斯や勇敢な者たちとともに毒ガス散布装置のある施設へ乗り込んだ。
果たして、彼はボビーを取り戻して邪悪な野望を粉砕することができるのだろうか!?

 格闘映画で活躍を続けていた楊斯は、徐々に演じる役柄の幅を拡げていきました。香港映画の頃と大きく違うのは、主演やそれに近い位置で善役を演じる機会が多くなったことです。『シュート・ファイター/暗黒ドラゴン伝説』では心優しき空手家に扮し、続編の『Shootfighter 2』でも熱演。そして本作では拳法の師匠を演じています。
作品自体は少ないロケ地・野暮ったい物語・ショボいSFXの三拍子が揃っており、とても褒められた出来ではありません。最後は毒ガス装置を元の大気浄化装置に戻し、地上世界が救われる…のかと思ったら、装置を止めて終りという芸の無いオチで脱力してしまいました(苦笑

 格闘シーンにも甘い部分があり、アクションを多く見せようとして逆に冗長さを誘発しています。ラストでビリーと戦う相手がジャラルや司令官ではなく、単なる名無しの戦闘員というのも×。なんとなくスピード感も足りない(演者の動きが若干遅い)気がしました。
ただし、殺陣そのものはキックに偏重しないオールラウンドな動作であり、ザコとの戦闘も相手の特色を分けることによって印象の重複を避けています。物越しに相手を吹き飛ばす浸透勁という技を、解りやすく表現している点も実に興味深いです。
そしてビリーVSマシアス・ヒューズの新旧シーゾナル悪役対決を筆頭に、ビリーVS楊斯・楊斯VSマシアスというドリームマッチが実現しているのもポイント。残念ながらジャラルだけはあまり絡んできませんが、アクション描写は総合的に考えると上々の出来だったと思います。

 激動の90年代を過ごした楊斯ですが、加齢などの理由により00年代以降は映画界から遠ざかっていきます。しかし、2人の息子が自分と同じボディビルダーとなり、香港でボディビル協会やジム運営の要職に就くなど、プライベートでの躍進は続きました。
露出こそ減ったものの、現在も彼は俳優活動を継続中です。2007年の『Blizhniy Boy: The Ultimate Fighter』では総合格闘家のカン・リーと共演。そして今年公開の『The Whole World at Our Feet』で、再びスクリーンに返り咲いています。
 御年66歳…かつて大部屋俳優の1人だった男は、今や世界中で愛されるカンフー映画の象徴的存在になりました。今回は現在にいたるまでの来歴を駆け足気味に辿ってみましたが、彼は今なお戦い続けています。その姿はとても気高く、尊敬の念を禁じ得ません。
赤い虎、香港カラテの殺し屋、チョン・リー、そしてボロ…。幾多の勇名を馳せた重鎮にささやかなエールを贈りつつ、このたびの特集を終えたいと思います。(特集、完)


「ダブル・インパクト」
原題:DOUBLE IMPACT
製作:1991年

●『ブラッド・スポーツ』で健在ぶりを示した楊斯(ヤン・スエ)は、この頃から本格的にハリウッドへの進出を開始します。英名をボロ・ヤンに改め、再出発を誓った彼は次々と本格的な格闘映画に出演していきました。
ジョナサン・キー&ジェリー・トリンブル主演の『炎のマーシャル・アーツ』、香港ロケ作品の『Fearless Tiger』、シンシア・ラスロックと対決した『タイガークロー』などなど…。そしてヴァンダムから2度目のお呼びが掛かったのが、この『ダブル・インパクト』です。
この映画はヴァンダムにとって初のメジャー作品であり、スタッフやロケ地にとことん拘って製作されました。その甲斐あって本作は大ヒットを記録し、彼をトップスターの座へと押し上げますが、全体的なクオリティは同じ監督作の『ライオンハート』より劣っています。

 ストーリーは、香港に住んでいた設計技師の遺児である双子が、両親を殺した悪党どもに復讐を遂げるまでを描いています。しかし、双子のキャラクターが上手く差別化できておらず、個性に乏しいせいでイマイチ魅力に欠けています。
せめて兄弟でファイトスタイルを変えたり、両者の人物像を膨らませる描写を徹底していれば、結果は変わったかもしれませんが…。このイマイチな雰囲気はラストまで続き、最終的に敵を皆殺しにして終わります(必死に悪事の証拠を調査してたヒロインの立場は!?)。
 このように洗練されていない感じの本作ですが、楊斯の存在感だけは存分に発揮されていました。今回の楊斯は敵の用心棒として登場し、いきなりヴァンダム兄弟の両親を殺害!その後もヴァンダム(弟)を叩きのめしたりと、憎々しげな悪役っぷりを見せています。
最大の見せ場は終盤のVSヴァンダム(弟)戦で、キックとパワーが激突する好勝負に仕上がっています。惜しむらくは、この対決以外のラストバトルがどれも地味だったこと。楊斯が死んだあとも延々と戦いが続くので、ちょっと蛇足な感じがしてしまいました。

 ヴァンダムとの再戦を終えた楊斯は、それからも格闘映画への出演を継続するのですが、次第に演じる役柄に変化が生じていきます。決して香港映画時代には顧みられることの無かった、「善」としての存在…導く者としてのポジションを求められるようになったのです。
「春のBOLO-YEUNG祭り」も次回で最終回。本当は『Blizhniy Boy: The Ultimate Fighter』を紹介したかったのですが、ソフトを入手することができなかったので、「黒い楊斯」と共演した某作でお茶を濁したいと思います(爆
(次回へ続く!)


文打
英題:Writing Kung Fu/Chinese Samson/Hot Dog Kung Fu
製作:1979年

▼(※画像は本作を収録したDVDセットの物です)
 時は70年代末期。バッタもん映画への出演が続いていた楊斯(ヤン・スエ)は、思い切ってコメディ映画へ挑戦しようとしていました。キャラクター的にコメディとは縁遠い気がしますが、彼がコメディ作品に少なからず興味を持っていたことは確かです。
当時の楊斯はバッタもん作品に出演しつつも、『迷拳三十六招』や『鶴拳』といったコメディ功夫片に出演。77年にはナンセンス・コメディの『白馬黒七』で監督デビューを果たしています。本作は楊斯が放った2本目の監督作で、ところどころに『酔拳』の影響が見られる作品です。

■舞台はとある寂れた村。教師の張午郎(チャン・ウーロン)はとても気が弱く、功夫道場の連中からはいつも苛められ、町人や生徒からもバカにされる日々を送っていた。道場主の娘・余安安や、生徒の1人である少女とその母親は彼の優しさを知っており、密かに慕っていたのだが…。
ある日、生徒たちの理不尽なストライキによって学校を追われた張午郎は、盲目の功夫使い・江正とその従者に出会った。彼らは恐ろしい殺人鬼に襲われ、ここまで逃げ延びてきたという。実はその殺人鬼こそ、功夫道場に来賓として潜り込んでいた楊斯であった。
 しばらくは息を潜めていた楊斯だが、とうとう張午郎の教え子だった少女を殺害。少女の母親も後を追うかのように自殺した。悲劇はそれだけで終わらず、本性を現した楊斯によって江正とその従者、さらには張午郎をかばった浮浪者の男(実は功夫の達人)までもが殺されてしまう。
死の間際、浮浪者の男は仇討ちを決意した張午郎に功夫の基礎を教えた。そして1人残された張午郎は、教師としての知恵と功夫の技術を組み合わせて「習字拳」を編み出し、功夫道場の関係者を皆殺しにした楊斯を追った。果たして勝つのは張午郎の「習字拳」か?楊斯の「笛拳」か!?

▲正統派のコメディ功夫片にせず、捻ったストーリーにして新鮮味を出そうとした楊斯の狙いはわかりますが、残念ながら大失敗した作品です。拳法や人物設定はコメディ調である一方、物語は陰鬱そのものであり、作品の雰囲気がチグハグになっています。
そもそも、登場する人物が大人から子供に至るまで最低な連中ばかりで、ひたすら苛められる張午郎が可哀想としか思えません。功夫アクションの出来は悪くないのですが、それ以外は壊滅的な本作。個人的には『白馬黒七』の方が良かったかなぁ…。
 さて、粗製濫造の70年代が終りを告げ、80年代に突入した香港映画界は大きな転換期を迎えます。バッタもん映画は激減し、老舗のショウ・ブラザーズが映画製作から撤退。代わって新興のシネマシティが勢力を拡大するなど、次々と変革が起きていました。
楊斯も功夫片から距離を置き、それまでの鬱憤を晴らすかのようにコメディ映画への出演を重ねました。かの洪金寶(サモ・ハン)も彼の心意気を理解したのか、『大福星』『十福星』『上海エクスプレス』『サモ&ケニー 人質に気をつけろ!』で彼を連続して起用しています。
 しかし、これらの作品における楊斯は単なる脇役であり、悪役俳優として活躍していたころを思うと寂しいのも事実。まさに過渡期の中にあった楊斯ですが、思いもよらぬ所から出演依頼の声がかかりました。
それがジャン=クロード・ヴァン・ダムの初主演作『ブラッド・スポーツ』です。香港では往時の勢いをなくした楊斯ですが、欧米での人気はいまだに健在でした。そしてこの作品への出演をきっかけに、彼は不死鳥のごとく復活を遂げるのです!
(次回へ続く!)


硬漢功夫本
英題:Kung Fu's Hero/Tough Guy/Angry Dragon
製作:1973年

▼世界的な大ヒットを記録し、後の香港映画界にも大きな影響を与えた『燃えよドラゴン』。その劇中で処刑人ボロを演じた楊斯(ヤン・スエ)は、ビルドアップされた肉体で存在感を誇示し、観客に強烈な印象を与えました。
一夜にして悪役スターとして認知された彼の元には、次々と出演依頼が殺到。李小龍(ブルース・リー)のフォロワー作品を始めとした、多くの映画に出演していくことになります。
本作は『燃えよ~』公開の年に作られたもので、李小龍の影響下にある作品ですが、作風やアクションは『餓虎狂龍』などで知られる呉思遠作品をベースにしています。本作のキャストやスタッフは同じような作品を幾つも手掛けていて、以前紹介した『小覇王』も彼らの作品だったりします。

■秘密捜査官の張力(チャン・リー)は、対立する2つの道場がある町を訪れていた。彼の目的は、この町の支配を企んでいる人身売買組織・山怪(サン・カイ)一派の掃討である。山怪一派は邪魔な2つの道場を排除するため、両者を争わせようと画策していたのだ。
張力は敵の計画をことごとく阻み、先手を打っていく。やられっぱなしで面白くない山怪一派は、仲間の唐天希(『Gメン82』のハゲ男)を呼び寄せて一方の道場を襲撃し、館長の一人娘である許珊を連れ去った。
 だが、山怪のもとで働いていた江可欣が彼女を連れて脱走。追われているところを張力に助けられ、許珊たちの証言によって敵の目的が道場の関係者全員に知れ渡った。計画は頓挫し、これで山怪一派もお終いか…と思われたが、新たな助っ人・楊斯の出現により再び勢いを盛り返してしまう。
その頃、張力は売り飛ばされようとしていた娘たちを救い出したが、その隙を狙われてもう一方の道場を破壊されてしまった。逃げる山怪!追う張力!果たして、この追跡劇はどちらに軍配が挙がるのか!?

▲ストーリーこそ雑な感じですが、エネルギッシュなパワーに満ちた作品です。さすがに『小覇王』には及びませんが、技の応酬よりも勢いを重視したアクションの数々は、とても見応えがありました。
特に凄まじいのが終盤のマラソンバトルで、30分近くにわたって延々と戦いが繰り広げられています。楊斯を下し、唐天希を倒し、車で逃げる山怪を追う張力ですが、この追跡シーンが異様に長いのです(なんと約8分もあります)。
 全力疾走する車に対して、張力はひたすら徒歩で走り続けます!マラソンバトルとは走りながら戦うスタイルのことですが、本当にマラソンをするバトルがあるとは驚くしかありません。ヤケクソ気味に走り続ける張力が本当に辛そうで、見ていて心配になってしまいました(爆
ただ、スケジュールの関係か楊斯の出番は少なく、張力との本格的なタイマン勝負は『小覇王』までお預けとなります。アクション以外は非常に地味な作品ですが、ノンスター映画としては上々の出来だったのではないでしょうか。
 この当時、楊斯はTVドラマの『闘え!ドラゴン』『Gメン75』にも出演しており、確実に知名度を高めていました。しかし時が経つにつれて、フォロワー作品よりも悪質なタイプの映画からオファーがかかるようになってしまいます。そう、バッタもん李小龍ブームの到来です。
基本的に仕事を選ばないスタイルの彼は、いいようにバッタもん映画で使いまわされ、70年代の終わりから80年代の前半にかけて15本以上もの作品に関わっていきます。その一方で楊斯は、自分にとって未開拓であったジャンルへ挑戦するのですが…。
(次回へ続く!)