続・功夫電影専科 -17ページ目

続・功夫電影専科

香港映画を始めとした古今東西のアクション映画の感想などを書き連ねています。


「ロボ道士/エルム街のキョンシー」
原題:The Vampire is Alive/The Vampire Is Still Alive/Counter Destroyer
製作:1988年

●(※画像は本作を収録したDVDセットの物です)
 インチキなニンジャ映画を次々と製作し、何も知らない海外のバイヤーに売り捌いていたIFD Film & artsとフィルマーク社。しかし彼らはニンジャだけでは飽き足らず、流行のジャンルなら何でもニコイチ映画に組み込んでいきました。
その捻じ曲がった情熱がもっとも炸裂している作品が、この『ロボ道士/エルム街のキョンシー』です。タイトルを聞いただけでも頭痛がしそうですが、中身は想像をはるかに超える地獄絵図となっており、ニコイチ映画の深淵を垣間見ることが出来ます。
 物語は、ラストエンペラーを題材にした映画のシナリオを書こうとする脚本家の女性×2が、滞在先の別荘で恐ろしい悪夢を見るというもの。映画会社ではライバル会社の妨害工作と断定し、殺人誘拐上等の一大抗争にまで発展していきます(苦笑
どうやらソラポン・チャトリが刑事役で出演したタイ映画を切り刻み、そこにホラー映画っぽい新撮シーンを挟んだ代物のようですが、フィルマークはそこに様々な映画の要素をブチ込みました。
 邦題になっているキョンシーを始め、夢オチ演出とキャラクターを『エルム街の悪夢』から盗用し、当時『ラストエンペラー』で話題だった中国最後の皇帝の要素を加え、ついでにニンジャやゾンビを追加! この盛りっぷりは『雑家高手』を彷彿とさせます。
そんな努力が功を奏したのか、ご覧のようにストーリーは完全に破綻。粗雑な編集のせいで話は繋がっておらず、作品自体が悪夢と化していました。

 出てくる登場人物はすべて狂っており、仕事をする素振りを見せない脚本家の女性、ライバル会社の人間を次々と暗殺する調査員のジャッキー(役名)、突然ニンジャやロボ道士に変身する会社の同僚、役立たずの道士などなど…挙げるとキリがありません。
特にクレイジーなのが腐霊泥(フレディ)という怪物で、こいつの目的はなんと女性とヤりたいだけ。台詞によるとライバル会社から送り込まれた刺客だったようですが、そんな伏線やシーンは一切無いので訳が解りませんでした。
 ちなみにコイツによって脚本家の女性はいつの間にか孕まされ、腹を突き破るという無駄にグロい方法(たぶん『エイリアン2』を意識した演出)でベビーキョンシーが生まれます。
このベビーキョンシーは溥儀と名乗っていますが、だとすると腐霊泥の正体は清朝皇帝・愛新覚羅載[シ豊]ということになるんでしょうか? 腹を突き破られた脚本家もなぜか普通に生きてるし、もう本当になんなんだよコレ!(爆

 閑話休題…続いてアクションについてですが、元作品にこれといって激しい立ち回りは無し。新撮シーンでは映画会社の社員がニンジャに変身し、キョンシーや謎の大男と他愛もない戦いを展開します。
ラストでは腐霊泥がロボ道士を相手になかなかの蹴りを見せるんですが、実はコイツに扮しているのは元・五毒の1人である孫建(スン・チェン)その人! 彼は冒頭で最初に死ぬ運転手、ニンジャと戦うキョンシーも演じていました。
 前回も少しだけ触れましたが、ショウ・ブラザースに在籍していた孫建は五毒という功夫ユニットを組み、『五毒拳』『残酷復讐拳』といった傑作功夫片に出演。しかしショウブラが映画製作から手を引くと、彼は行き場を無くしてしまったのです。
同じ五毒のうち、郭振鋒(フィリップ・コク)は武術指導家の道を選び、江生(チェン・シェン)と鹿峰(ルー・フェン)は台湾に残留し、羅奔(ロー・マン)は別の会社に渡って生き残りました。
 しかし孫建だけは上手く方向転換が出来なかったらしく、本作のようなニコイチ映画に何度となく顔を出しています。90年代に入ると『[イ布]局』のような普通のアクション映画に出演しますが、程なくして映画界から去っていきました。
ひょっとすると、本作でもっとも悪夢を見ていたのはバイヤーや視聴者ではなく、暗中模索の只中にあった孫健自身だったのかもしれません……。
さて次回は、「鳥だ!飛行機だ!いやニコイチ映画だ!」というわけで(謎)、あのジャンルにIFD Film & artsが挑戦状を叩き付けます!


「ニンジャ・コマンドー/地獄の戦車軍団」
原題:Ninja in the Killing Field/The Ninja Connection
製作:1987年

●80年代初頭、世界の映画マーケットは混沌とした活気に満ち溢れていました。多くの才人が傑出した作品を生み出し、アクション大作やホラー映画が世界中に氾濫。さらには家庭用ビデオの普及に伴い、レンタルビデオ店がそこかしこに建ち並んだのです。
かくして映画はスクリーンの手を離れ、世に言う“ビデオバブル時代”が到来します。この狂気をはらんだムーブメントは、B級スプラッターやニンジャ映画の流行を作り上げるのですが、それを見逃さなかった恐るべきプロダクションが存在しました。

 それが、[登β]格恩(トーマス・タン)と黎幸麟(ジョセフ・ライ)率いる通用影業(AN ASSO ASIA FILM)でした。もともと彼らは韓国産功夫片などの海外配給を手掛けていましたが、ビデオバブルが到来すると便乗作品の製作に着手し始めます。
驚くべきはその製作スタイルで、既存の作品を勝手に使用して新撮シーンを追加。威勢のいい英語タイトルを付け、あたかも新作であるかのように売り叩くという、著作権無法地帯の香港でも類を見ない手法を取っていました。
 やがて彼らは禊を分かち、それぞれIFD Film & artsとフィルマークという別々の会社を設立します。しかし両者の製作スタイルは相変わらずのニコイチ体制で、その犠牲となった作品は数知れません。
そんなわけで今回の特集では、このクレイジー極まりない製作陣が何を模倣し、どんなブームに乗ろうとしたのかを検証してみたいと思います。……まぁ、取り上げる作品は全部ダメダメな映画なんですけどね(爆

 さてニコイチ映画の華といえば、やはり外せないのがニンジャ映画でしょう。アメリカでショー・コスギが忍者に扮して以降、ニンジャ映画は世界的なブームを巻き起こし、その影響は日本や香港にまで波及しました。
この流れに乗って、IFDとフィルマークは粗悪なニンジャ映画を量産し、莫大な利益を得たといわれています。アメリカはもちろん、ビデオバブルによって突発的なニンジャ映画ブームに襲われていた日本もその餌食となりました。
ちなみに江戸木純氏が某書籍で語った所によると、ニコイチ系ニンジャ映画の悪評は日本のビデオ業界に大きな影を落とし、しばらく邦題に「ニンジャ」という語句が使えなくなったそうです(一部のニンジャ映画が無関係な邦題で発売されたのはこのため)。

 この『ニンジャ・コマンドー/地獄の戦車軍団』も典型的なニコイチ系ニンジャ映画のひとつで、タイの俳優であるソラポン・チャトリが主演したアクション映画に、スチュアート・スミス演じるインチキ忍者を捻じ込んだ作品です。
元となった映画は結構な大作のようで、戦闘機や戦車が惜し気もなく登場(冒頭には何故か譚道良(レオン・タン)まで出演!)。さらにはニンジャまで出てくるため、意外と新撮シーンが浮いているようには感じませんでした。
 ストーリーはタイ進出を目論むニンジャ一派と、抜け忍であるソラポンの戦いを描いており、ここに警察や軍隊も介入しての死闘が展開されます。こう書くとなんだか楽しそうに思えますが、演出が無味乾燥なのでまったく盛り上がりません。
アクション的にはソラポンの彼女役による立ち回り、新撮シーンでの派手なカースタントに目を引かれます。注目は終盤の戦車部隊VSニンジャの決戦で、新撮と元作品の映像を巧みに編集した失笑必至のスペクタクルが繰り広げられていました。
ところでこの新撮シーン、なんと雑魚ニンジャ役を江島や五毒の孫建(スン・チェン)が演じています。当時はショウブラザースが映画製作から撤退し、所属した俳優たちは四苦八苦しながら活動していましたが、こんな所で彼らを見る事になるとは…(涙

 潤いのない内容に打ちのめされ、最後の蛙オチで頭を抱えてしまいそうになる本作。しかし裏を返せば、矛盾とアナーキーさがギュッと凝縮されたニコイチ映画の見本……と言える作品なのではないでしょうか(←言えない)。
なんだか本作の紹介だけで腹一杯になった気分ですが、ニコイチ映画の全容解明はまだまだこれから。次回は『ニンジャ・コマンド~』に続いて、再びフィルマークが仕掛けた恐怖の逸品に迫ります!


「ベスト・キッド」
原題:The Karate Kid
中文題:功夫梦/功夫夢
製作:2010年

●2000年代における成龍(ジャッキー・チェン)の躍進は、ハリウッドへの本格進出だけに留まりません。この当時、中国では好景気の到来に伴い、映画市場が規模を拡大していました。
その勢いはハリウッドでさえ無視できないものになり、米国での活動が頭打ちになっていたジャッキーは、新たなフロンティアである中国への参入を決意します。
中国における映画製作にも制約はありますが、ハリウッドよりは馴染みやすい土壌だったらしく、彼は徐々に大陸寄りの姿勢へと転換。中国との合作映画を連発し、多大な成功を収めていくのです。
 また、ほぼ同時期にジャッキーは役者としての在り方を改め、スタントより演技に集中していくようになります。その結果、『香港国際警察/NEW POLICE STORY』で評価を受け、『新宿インシデント』でシリアス路線を確立するに至りました。
中国での名声と演技者としての改革。この2つの要素によって新たな局面を迎えたジャッキーですが、それに合致するかのような、まさに最高のタイミングでハリウッドからオファーが舞い込んできました。それが『ベスト・キッド』だったのです。

 この作品は1984年に製作された同名作品のリメイクで、ストーリーラインはほぼそのまま。主人公は製作を担当したウィル・スミス夫妻の息子であるジェイデン・スミス、ジャッキーはパット・モリタにあたる役柄を演じました。
オリジナルとの違いは、使用する武術が空手から功夫に、舞台がカリフォルニアから北京に変わったこと。登場人物の設定にも手直しが行われ、オリジナルではあまり存在感の無かった母親とヒロインに関する描写も、かなり付け加えられています。
 他にも細々とした部分での変更はありますが、先述したように全体の物語はほとんど同じです。しかし本作は、中国の伝統的な文化や人々との交流、キャラクターの細やかな心情の変化を描いており、単に原典を模倣しただけで終わってはいません。
矛盾点の解消にも力が注がれていて、たとえばオリジナルでは防御しか練習するシーンが無かったのに対し、本作では最初から攻撃と防御についての描写が存在します。これにより、大会で攻撃の型を使用している点が唐突に見えなくなっていました。

 しかし本作でもっとも素晴らしいのは、師匠を演じたジャッキーの存在そのものにあります。本作における彼は非常に無愛想(ミヤギさん以上に取っつきにくそう)で、他人との交流にも消極的な世捨て人を演じています。
そこには過去のハリウッド作品で見せた愛想や、誇張されたヒーローの面影は存在しません。大人数を相手にすれば息切れもするし、年相応に老け込んだ姿からは虚構を超えた現実味すら感じました。
やがて彼はジェイデンとの特訓を通じて絆を育み、後半のクライマックスである車中のシーンに至ります。ここでのジャッキーは情感に満ちた演技を見せ、それを見ていたジェイデンが取った行動が更なる感動を呼ぶのです。
 この作品が製作された背景には、中国市場を見据えたハリウッドの戦略や、自分の息子を主演にしたいスミス夫婦の意思、世界に自国の文化をアピールしたい中国側の野望など、様々な思いが渦巻いていたことは確かでしょう。
ですが、このシーンでジャッキーは役者としての本領を存分に発揮し、その実力を世界中の観客に見せつけました。周りの思惑が何であれ、「決して自分はハリウッドという冠が付いただけのアクションスターではない」と明確に示したのです。

 思えば、かつて奇妙な師匠に特訓を受けていた青年が、時を経て特訓を課す側となっている点も実に感慨深いものがあります。『ドラゴン・キングダム』でも同じ立場でしたが、あちらはお祭り映画的な要素が強く、情緒的な物では本作に分があると言えます。
また、しっかり体を仕上げて見事なアクションを見せたジェイデン、コブラ会の5倍くらい怖かった于榮光(ユー・ロングァン)の存在感もなかなかのもの。欲を言えばNG集の挿入と、どこかでラルフ・マッチオをカメオ出演させてもらいたかったかなぁ…。

 …と、そんなわけで今月はジャッキーのハリウッド主演作をおおまかに追ってみました。ハリウッドという巨大な壁に立ち向かい、一旦は挫けるも役者として研鑽を積み、遂にはハリウッドをも制覇したジャッキーの生き様にはドラマチックさすら感じます。
彼の活躍は現在も続いており、去年はロシア映画でジェイソン・スティサムやシュワルツェネガーと仕事をしたばかり。さらにはブルース・ウィリスとの共演も噂されているらしく、今後の動向が注目されます。
果たして、ジャッキーは次にどんな作品をハリウッドで撮ってくれるのか? まだまだバイタリティ溢れる彼に大きな期待を抱きつつ、今回の特集はこの辺りで終わりたいと思います。


「ドラゴン・キングダム」
原題:The Forbidden Kingdom
中文題:功夫之王
製作:2008年

●名実ともに世界的なアクションスターとなった成龍(ジャッキー・チェン)ですが、ハリウッドでの出演作はどれも似たようなコメディ映画ばかり。彼自身も不満を抱いており、活動の舞台を香港や中国に移し始めていました。
しかし、ハリウッド進出でジャッキーが得た物は決して少なくありません。過去のレビューでも触れましたが、大物俳優との共演や夢の対決がそれに当たります。
 『ラッシュ・アワー3』の真田広之しかり、『80デイズ』のアーノルド・シュワルツェネガーしかり、『アラン・スミシー・フィルム』のシルベスター・スタローンしかり。作品の出来はともかく、香港映画では決して実現不可能な顔合わせばかりです。
そしてジャッキーのハリウッド時代における最大のドリームマッチが、この『ドラゴン・キングダム』における“功夫皇帝”こと李連杰(リー・リンチェイ)との邂逅でした。
 ジャッキーと彼は昔から交流があり、いつかは共演作を撮りたいと思っていたとのこと。ところがプロダクションの違いやタイミングの悪さでスケジュールが確保できず、流れ流れてようやくハリウッドで形となったのです。
とはいえ、私は公開前の情報を聞いて不安を感じていました。監督のロブ・ミンコフは本業がアニメーション監督、ジャッキーと李連杰が主役ではない、さらに意図の読めない一人二役、そして製作するのが香港ではなくハリウッド資本…。
懸念すべき材料はとても多く、ぶっちゃけ全く期待しないで視聴したのを覚えています。

 ストーリーはとてもシンプルで、功夫映画オタクでいじめられっ子だったマイケル・アンガラノが異世界に旅立ち、冒険を通して成長していくネバーエンディングなもの。ジャッキーは酔拳の、李連杰は少林拳の師匠として登場します。
まず率直な感想から申しますが、本作はハリウッド産ジャッキー映画の中でベストの出来でした! 確かに物語は真新しいものではなく、出てくるビジュアルはアニメっぽさが強め。ツッコミどころを挙げようとすれば幾つも挙げられます。
しかし本作は功夫片への、ひいてはジャッキーや李連杰に対するリスペクトに満ち溢れており、それでいて2人のスターを並び立たせることに成功しているのです。

 まずリスペクトに関してですが、これまで製作されたハリウッド製のジャッキー映画は、そのほとんどが凡庸なアクション映画の型枠にはめ込まれていました。ゆえにリスペクトに欠けた面があり、中には彼が主役である必要性を感じない作品もあります。
同様のアプローチは『ラッシュ・アワー2』でも行われていますが、こちらがリスペクトしたのは『燃えよドラゴン』のみ。それなりのオマージュこそ感じられるものの、ジャッキーVS章子怡(チャン・ツィイー)をスルーするなど、難点も多々ありました。
一方、本作では人物設定を功夫片や武侠片から引用し、作中の随所に香港映画を彷彿とさせるイメージを挿入。オープニングではショウ・ブラザース作品のコラージュまで飛び出すなど、これでもかと言わんばかりのリスペクトっぷりを見せています。

 ジャッキーや李連杰の扱いについても、各々がそれまで培ってきたキャラクター性をきちんと把握し、それに見合った役柄と設定が用意されています。これは脚本家であるジョン・フスコの、功夫片に対する深い造詣があればこそ実現したのでしょう。
当然、アクションシーンもこの2人の独壇場であり、多くのファンが待ち望んだジャッキーVS李連杰は出会って早々に実現! 2人の長所を知り尽くした袁和平(ユエン・ウーピン)の指導によるこの一戦は、両者の個性を上手く生かした名ファイトでした。
また、主人公であるマイケルを必要以上に目立たせず、それでいて身の丈に合った活躍をさせるという難題もクリアしています。こうした点も今までのハリウッド産ジャッキー映画では調整できなかった部分であり、本作は上手く料理できていたと思います。

 改めて考えると、本作でジャッキーと李連杰が見事に並び立てたのは、2人を助演に配置したハリウッド製の作品だったからではないでしょうか。もしこれが2人とも主役で、香港資本の作品だったとしたら同じ結果になったとは限りません。
たとえ両者が共演を望んでいたとしても、香港映画なら我の強いジャッキーが自己主張を示し、『酔拳2』の監督交代劇のような結果を招いていた可能性があります。
 しかし制約で守られたハリウッドという場所で、一歩下がった助演という立場に身を置いたからこそ、ジャッキーは自らの立場を貫き通せたのでしょう。もしかすると、これまでの凡庸な主演作はこのビッグイベントのために存在した…のかもしれませんね。
その後、そつなく作品を纏め上げたロブ監督の力量と、脚本を担当したジョン(彼は『グリーン・デスティニー』の続編である『ソード・オブ・デスティニー』のシナリオも担当)のカンフー愛もあって、本作はヒットを飛ばしました。
そして、ハリウッドでの立ち位置を見極め始めたジャッキーは、一連のハリウッドでの主演作の総決算ともいえる作品と出会います。その想いは次世代へ、そして時代は2010年代へ……次回、いよいよ特集最終回です。


「80デイズ」
原題:Around the World in 80 Days
中文題:環遊世界八十天/八十日環遊世界
製作:2004年

成龍(ジャッキー・チェン)のハリウッド進出は、彼に新たな名声をもたらしました。しかし、香港とまったく異なる製作環境はジャッキーを困惑させ、さらにコメディ作品への出演が相次いだことで、作風のマンネリ化も深刻になっていきます。
そんな状況への反発として撮られたのが『アクシデンタル・スパイ』です。この作品はハリウッドで要求される凡庸なコメディとは一線を画す内容で、過激なスタントシーンからはジャッキーの対抗意識が見て取れました。
 しかしハリウッドの「いつものやつをやってくれ」という姿勢は変わらず、そればかりか香港との合作である『メダリオン』は大失敗。この状況を重く見たジャッキーは、ハリウッドから距離を置きはじめます。
この『80デイズ』は、彼が一連のゴタゴタでハリウッドから離れる直前に撮った、まさに過渡期の真っ只中にあったころの作品なのです。

■時は華やかなりし開拓と発明の時代。ロンドンの銀行を襲撃したジャッキーは、故郷の村から盗まれた翡翠の仏像を奪還し、警察から逃れようと発明家のスティーヴ・クーガンが住む家に転がり込んだ。
そこで助手となったジャッキーだが、当のスティーヴは奇天烈な発明ばかりしている変わり者。王立科学アカデミーの会長であるジム・ブロードベントとは仲が悪く、口論の末に「80日間で世界一周してみせる」というムチャな賭けをしてしまう。
 実はこの賭けは、警察に追われるジャッキーが一刻も早く故郷に帰るため、ひそかに仕組んだものだった。奮起したスティーヴと彼はイギリスを出発するが、仏像を村から盗んだ黒幕であるジムはすべてを見抜いていた。
この男は仏像を利用した軍事取引を画策しており、取引相手である莫文蔚(カレン・モク)を刺客として差し向ける。一方、フランスに立ち寄ったクーガンたちは画家志望のセシル・ドゥ・フランスと出会い、紆余曲折の末に旅の仲間として迎え入れた。
さまざまな国を渡り歩く一行であったが、いくつもの困難が彼らの前に立ちふさがっていく。刻一刻と期限が迫る中、はたしてクーガンたちは無事に世界一周を成し遂げられるのだろうか?

▲今回もジャッキーがプロデュースに加わっているため、アクションについては上々のボリュームを維持。中国パートでは洪金寶(サモ・ハン・キンポー)や呉彦祖(ダニエル・ウー)も参加しています。
また、リメイク元に倣って大物俳優や芸能人がカメオ出演しており、そうした点も見どころのひとつと言えるのですが…残念ながらそこまで痛快な作品ではありませんでした。
 まず本作最大の問題点は、主人公の人物設定です。本作のジャッキーは故郷のために戦っていますが、人生を左右するような大博打をスティーヴに背負わせ、彼やセシルをプライベートな戦いに巻き込んでいきます。
これで秘密を抱えて苦悩するキャラならまだ理解できますが、ちゃっかりセシルにだけ教えて旅をエンジョイするのですから、感情移入のしようがありません。そのせいか、後半の仲直りするシークエンスはとても雑に見えました。
 そのほかのキャラクターについては、多少の誇張はあれどマトモな感じにまとまっています。しかし頂けないのはラストの締め方で、エンドクレジットにNG集もエピローグも表示されないのです。
NG集がないのは製作が大御所のディズニーなので仕方ない面もありますが、劇中では思わせぶりな台詞がいくつも存在します(画家として成功してやると息巻くセシル、協力してくれた船長に対して「新しい船を買ってやる」という約束などなど)。
 そのため、最後は登場人物たちのエピローグ的なカットが挿入されるのでは…と期待していたのですが、まさか何もないとはガッカリです。作品としては可もなく不可もない作りでしたが、この2点と凄まじい日本語吹替えだけは釈然としなかったですね。
それにしても、今にして思えばシュワちゃんの役どころ(女に目が無くて何人も妻を娶っている権力者)が、なんだかちょっと洒落になってないような気が…(笑

 さて、度重なるハリウッドがらみの失敗に落胆したジャッキーは、香港に腰を据えて新たな演技スタイルを模索し始めます。一連のハリウッド作品において、彼が求められたのは多種多様なアクション“だけ”でした。
ゆえに単なるアクションスターではなく、役者としての地盤を固めなければならないとジャッキーは悟ったのでしょう。本作が公開された同年に、彼はその第一歩となる『香港国際警察/NEW POLICE STORY』に出演。これまでにない熱演を見せます。
 武侠片にチャレンジした『神話』、人情物の『プロジェクトBB』と意欲作を連発したジャッキーは、2007年の『ラッシュ・アワー3』でハリウッドに復帰します。内容は「いつものやつをやってくれ」でしたが、真田広之と熱い演技合戦を見せていました。
そしてその翌年、彼はハリウッド出演作における最大のドリームマッチを実現するに至ります。幾星霜の時を超え、ついに肩を並べることのできた最強武打星の名とは……続きは次回にて!