
「李小龍 マイブラザー」
原題:李小龍/少年李小龍/李小龍傳
英題:Bruce Lee My Brother
製作:2010年
●不世出のスターであり、アクション映画の象徴的存在でもあった李小龍(ブルース・リー)。その生涯に迫った伝記映画は、時代によって様々な顔を見せてきました。
最初に作られた何宗道(ホー・チョンドー)の伝記系列は、エクスプロイテーション・ムービーとしての側面が強く、必ずしも李小龍に対するリスペクトが込められいた訳ではありません。良くも悪くも、商売っ気の強い香港らしい作品群だったと言えます。
逆に遺族の意思を尊重し、多大なリスペクトを込めたのが『ドラゴン/ブルース・リー物語』であり、後発の伝記映画は様々な視点から李小龍に迫りました。李小龍の旅立ちを描いた『1959某日某』、連続ドラマとして脚色された『ブルース・リー伝説』などなど…。
そして本作はその最新版であり、李小龍の実弟・李振輝(ロバート・リー)が製作を担当した注目作です。兄弟の視点から語られる若き日の李小龍と、周囲の人々の悲喜交々。それらを丹念かつ繊細に描写したのが、この『李小龍 マイブラザー』なのです。
ストーリーは、サンフランシスコで生を受けた李小龍(演じるはアーリフ・リーこと李治廷)が香港に戻り、戦乱を経て友人たちと出会い、子役として映画の世界に足を踏み入れ、初めての恋を経験する姿を瑞々しく綴っています。
本作がこれまでの伝記映画と異なっているのは、李小龍を“香港で生きた一人の青年”として描いている点です。過去の作品は映画スターとしての李小龍が前提にあり、彼がスターダムを駆けあがっていく姿こそがメインでした。
しかし本作は、入念に再現された古き良き香港の街並みを背景に、家族や友人に囲まれた李小龍の青春をメインとしているのです。そう考えると、本作は『1959某日某』のグレードアップ版、と言えるのかもしれません。
また、当時の香港映画界を再演したパートはとても作り込んであり、その高い再現度にはビックリ。実在の監督や役者もキャラクターとして登場し、香港映画を知っている人ならニヤリとする名前が次々と出てきます。
今や李小龍は神格化され、孤高の存在として見られている節さえあります。ですが、彼が50年代の香港映画で活躍した俳優の1人であり、曹達華や馮峰といった往年の名優と共にあの時代で生きていたということを、本作は再認識させてくれるのです。
さて、映画の大半は李小龍が友人たちと夢を語らい、恋愛に悩んだりする他愛もない話で占められています。が、本作はそうした他愛もない瞬間を情緒たっぷりに描き、伝記映画である事を忘れさせるほどの魅力に満ちています。
本作の監督は葉偉民(レイモンド・イップ)と文雋(マンフレッド・ウォン)の両名ですが、李小龍にリスペクトを捧げつつも当時の空気を再現し、なおかつ肉親の語るエピソードを史実と擦り合わせ、一級品の青春映画を仕上げたのは流石と言わざるを得ません。
とはいえ、李小龍の伝記なら青春よりもアクションが欲しいところ。そこで物語は後半からアクション路線に舵を切り、李小龍VS白人のボクサーチャンプとの対決、そして葉問との出会いから詠春拳の修行に入ります。
ここから先はアクションの連続となり、ボクサーチャンプとの再戦では『ドラゴンへの道』のパロディ(ここはちょっとやりすぎ・笑)が飛び出すなど、激しいファイトが展開されていました。
私としては「待ってました!」と言いたい気分なんですが、ドラマ推しの展開から突然アクション路線に変わるので、人によっては違和感を覚えてしまうかもしれません。その後の怒涛の展開と悲劇、哀愁漂うラストは文句無しなんですが…。
と、ネガティブな部分にも触れてしまいましたが、父親役に扮した梁家輝(レオン・カーフェイ)の貫録十分な演技、勇壮な“猛龍過江のテーマ“で締めくくるエンディングに至るまで、本当にクオリティの高い作品だったと私は思います。
今年で生誕77年目を迎えた李小龍は、今も世界中で高い人気を誇っています。そのカリスマ性は死後40年以上を経過しても、一向に衰える気配を見せません。
この果てしない年月の中で、彼の伝記映画は幾度となく作られています。製作の経緯は様々ですが、どの作品も一貫して李小龍に対する深い敬愛の念が貫かれています(例外は何宗道のバッタもん映画ぐらい)。
そう、人々が李小龍を愛し、その熱意を忘れない限り、彼の伝記映画は作り続けられるでしょう。果たして次は、誰がどのような李小龍を描くのか? …そんな思いを遥かに馳せつつ、本稿はこれにて切り上げたいと思います。(特集、終わり)