
「ドラゴン酔太極拳」
「女デブゴン強烈無敵の体潰し!」
原題:笑太極/醉太極
英題:Drunken Tai Chi
製作:1984年
▼80年代中期、袁和平(ユエン・ウーピン)は苦闘を強いられていました。かつては『酔拳』でジャッキーをスターダムに押し上げ、サモハンやユンピョウともコラボを果たしてきた男も、近代化の進む香港映画界から徐々に取り残されつつあったのです。
ハーベストから飛び出した袁和平ら袁家班は台湾へ向かい、羅維(ロー・ウェイ)や第一影業などを転々としながらオカルト功夫片の製作に着手。当時全盛を極めていたキョンシーをあえて取り入れず、独自のキャラクターやクリーチャーで勝負したまでは良かったものの、パッとしない状況に変わりはありませんでした。
本作はその袁和平が監督した作品で、甄子丹(ドニー・イェン)のデビュー作としても名高い一編です。本作が作られた1984年は香港映画にとって転換期にあたり、そんな時期に本作のような古いコメディ功夫片を作るとは、いささか時代遅れの感があります。
袁和平らもそれは解っていた様で、作中に自転車や爆破アクションを取り入れているんですが、やはり古臭さは否めません。結果として本作はヒットに恵まれなかったようですが、決して悪い作品ではなかったのです。
■やんちゃ者の甄子丹は兄貴(袁日初)思いな男だが、あるトラブルで金持ちドラ息子の陳志文から恨みを買ってしまう。さっそく報復に現れる陳志文だが、甄子丹はこれをサラッと返り討ちに。ところがアクシデントで陳志文が知的障害者となり、陳志文の父である王道(ウォン・タオ)は息子の復讐を誓い、殺し屋の袁信義(ユエン・シンイー)を差し向けた。
袁信義によって父・李昆と袁日初を殺された甄子丹は、たまたま知り合った袁祥仁(ユエン・チョンヤン)の元に転がり込み、そこで太極拳を伝授される事に。のちに陳志文と王道の問題は決着がついたが、最後に袁信義との対決が待っていた…。
▲…と、物語的に内容はこれだけ。袁祥仁のキャラは一連のオカルト功夫片そのままで、ギャグやギミックの演出は『妖怪道士』の時から殆ど進歩していないし、それらが更に本作の古臭さを助長させています。また、これまで狂気の殺人鬼を演じる事の多かった袁信義を、本作では子持ちという設定にして奥行きを広げる事に成功しています…が、袁信義の息子が辿る末路を考えると、オチにも重苦しさを感じてしまいました。
本作はオカルト功夫片の流れを汲む作品であり、上記の通り全ての演出が『妖怪道士』といった作品群の延長線上にあります。もし今回も袁日初が主演であったなら、恐らく単なる珍作で終わっていたに違いないですが、袁和平とて同じドジを踏むはずがありません。本作が傑作として昇華し得たのは、何よりも甄子丹という新風の存在があったからなのです。
本作における甄子丹は気のいいあんちゃんを好演していて、オープニングで見せる太極拳の演舞も実に華麗。柔らかさの中にも力強さを感じさせる動きは本当に素晴らしい出来栄えです。武術指導は袁和平が渾身の殺陣を構築し、バラエティに富んだアクションシーンは圧巻の一言。ところどころリアル・ヒッティングな技を見せる部分があり、のちの甄子丹作品を連想させるカットも存在します。
甄子丹との出会いを経た袁和平は動作片へ方針を転換し、『タイガー刑事』系列や古装片で再び盛り返していきました。しかし甄子丹が自らの元から離脱した際、袁和平は呉京(ウー・ジン)を彼の後釜として担ぎ出しますが、本作同様にまたも失敗を喫してしまいます。
その失敗作というのが『太極神拳』(この作品も本作と同じ太極拳の映画)で、この作品は時代に合ったワイヤー古装片だったんですが、ストーリーがあまりにも二番煎じ過ぎたために凡作止まりの出来でした。この失敗が相当応えたのか、袁和平は『太極神拳』を最後に監督業から退き、武術指導家に専念していくことになります。
しかし、『太極神拳』から数えて13年目の今年(2009年)、袁和平は再びその手にメガホンを構えました。それが趙文卓主演作『蘇乞兒』です。『蘇乞兒』も本作と同じく袁家班が結集して製作に当たっているとの事ですが、果たして『蘇乞兒』は袁和平にとって三度目の正直となるのか…是非とも期待して待ちたいところです。