『仁義なき抗争』 | 続・功夫電影専科

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「仁義なき抗争」
原題:義胆雄心
英題:GANGLAND ODYSSEY
製作:1990年

▼かつては70年代の功夫片から活躍を続けてきた陳惠敏(チャーリー・チャン)…だが彼の監督作は、実質的にこの作品しか作られていないのである。似たタイプのスターであるジミー先生が大量に監督作を送り出したのと比べると、本作だけというのはちょっと意外だ。
監督業に乗り出したスターという存在はさほど珍しいものではない。監督作が少ない方から数えると、馮克安が4本、京柱・千葉真一・劉家輝が3本、狄龍・何宗道・黄正利・徐忠信・楊斯が2本、戚冠軍・リンチェイ・ユンピョウ・傅聲・王清・鹿村泰祥が1本の監督経験を積んでいる。だがこうして見てみると、1本だけしかメガホンを取っていない人に著名なスターが多い事に気付かされる。
その中で例えばリンチェイ唯一の監督作である『鉄拳英雄』や、戚冠軍の『大惡客』なんかは明らかな失敗作。劉家輝の『少林寺武者房』もイマイチだった事を考えると、スターの監督作であろうと必ずしも成功するとは限らないという事がよく解るだろう。
陳惠敏の監督作もこれ1本ということは「失敗作なのか?」と思われるかもしれないが、これが中々の力作で面白いから堪らない。逆に、どうしてこれ以降陳惠敏は監督作を作っていないのかと思ってしまうほどの出来なのだ。

■英国人資産家の息子が、日本のヤクザによって誘拐された。
カリフォルニアから来た元刑事の萬梓良(アレックス・マン)と資産家の養子である劉華(アンディ・ラウ)は、資産家から息子を助けて欲しいと依頼され、2人でヤクザたちのもとへ乗り込むと息子を助け出すことに成功した。だが、奪還の際にヤクザ側に死人が出たため、ヤクザは仲間を殺した萬梓良に狙いを定めた。このヤクザの親分を演じているのが、なんと鹿村泰祥だ。本作では鹿村さんが日本語で喋る場面もあるのだが、ここで鹿村さんの肉声(なのかな?)を聞くことができる。
この騒動を調査しに、鹿村さんの属する組から香港へと陳惠敏がやって来た。実は陳惠敏、本当は香港人であり(当たり前だ・笑)かつて鉄砲玉として人を殺し、日本へと国外逃亡した男だった。陳惠敏は今回の騒動の原因を探るべく、調査を開始するのだが…。一方、萬梓良はクラブの未亡人と、劉華は未亡人の娘である簡慧珍(レジーナ・ケント)といい雰囲気になっていた。陳惠敏も、かつての弟分だった成奎安やボスの方野(!)と再会していたが、もちろん方野がいい人な訳が無い。
そうこうしている間に萬梓良はカリフォルニアへ帰らなければならなくなったのだが、ヤクザの追求が迫り、遂には劉華と簡慧珍が犠牲となってしまう。未亡人が陳惠敏の妻だった事が判明する中、相棒と娘をそれぞれ失った萬梓良と陳惠敏は、結託した鹿村さんと方野のもとへ決死の覚悟で切り込むのだった…。

▲本作は劉華が主役という事になっているが、どちらかというと主役は萬梓良と陳惠敏の2人で、様々な関係が入り組む群像劇といった感じの作品になっている。
群像劇となれば人間関係などを描くのが難しいところだが、本作では全ての登場人物を簡潔に書ききっている。唯一、成奎安の行く末が書けていないが(終盤で陳惠敏を庇って死んだりすれば絵になったはず)、初監督作でここまできちっとした作品を仕上げているだけでも、陳惠敏の手腕は評価に値する。初監督であるがゆえに生じる迷いは本作には一切無いが、これは培ってきた長い映画人生の賜物であろう。
また、本作は功夫映画ファンに嬉しい顔合わせが多いのもポイントだ。特別出演の光榮(アラン・タン)とのツーショットは、かつて共に70年代の功夫片で闘った者同士が遭遇するという、感慨深い場面でもある。この他にも方野との邂逅なども面白いが、やはり1番のメインイベントはラストの陳惠敏VS鹿村さんの死闘だろう。日本刀で斬りあう陳惠敏と鹿村さん!このレアな顔合わせだけでも、本作は見る価値があるといってもいいはずだ。
かつての自分の主演作のようにドロドロしすぎておらず、かと言って軽い作品にも陥っていない陳惠敏の監督作。もっと見てみたい気がするが、どうして未だにこれ一本しか作られていないのか?もしかして、今回扱った設定(陳惠敏が日本のヤクザと繋がっている云々…)が尾を引いているのでは(以下検閲