運ばれてきた瞬間、言葉を失った。
鉄板の上に、拳が鎮座している。
そう、これはハンバーグではない。
まさに、げんこつだ。
店員さんがナイフを入れた瞬間、
肉汁が静かに、しかし確実に溢れ出した。
…これは、ハンバーグの概念を超えている。
デミグラスソースが、鉄板を覆い尽くす。
褐色の洪水が、二つのげんこつを包み込んでいく。
この瞬間を、私はしばらく眺めた。
美しい。実に、美しい。
断面を見た瞬間、息をのんだ。
レアの鮮やかな赤が、そこにある。
肉汁がじわりと滲み出し、デミグラスと混ざり合う。
ナイフを入れるたびに、新たな旨みが解放されていく。
これは肉ではない。
宝箱である。
口に運んだ瞬間、すべてを理解した。
弾力のある食感が歯に伝わり、
肉肉しい風味とスパイスの香りが、同時に押し寄せてくる。
そして、濃厚な肉汁が口の中で静かに爆発した。
デミグラスに負けない、肉本来の力がそこにあった。
白米との相性は、言うまでもない。
期待を、軽々と超えてきた。
…静岡、恐るべし。
【最後に一言】
お会計を済ませると、ハッカの飴が差し出された。
小さな飴ひとつが、この食事に静かな幕を下ろす。
げんこつで始まり、ハッカで終わる。
これが、静岡が誇るハンバーグの流儀である。



