サン・ラ - ライヴ・アット・ザ・ハックニー・エンパイア (Leo, 1994) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ライヴ・アット・ザ・ハックニー・エンパイア (Leo, 1994)
サン・ラ Sun Ra & the Year 2000 Myth Science Arkestra - ライヴ・アット・ザ・ハックニー・エンパイア Live at the Hackney Empire (Leo, 1994) :  

Released by Leo Records Leo LR 214/215 (2CD), 1994
All Compositions except as indicated and Arranged by Sun Ra
(Disc 1)
1-1. Astro Black - 18:18
1-2. Other Voices - 12:12
1-3. Planet Earth Day - 11:57
1-4. Prelude to a Kiss (Ellington) - 4:50
1-5. Hocus Pocus (Will Hudson) - 3:38
1-6. Love in Outer Space - 6:44
1-7. Blue Lou (Edgar Sampson) - 5:02
1-8. Face the Music - 10:04
(Disc 2)
2-1. String Singhs / Discipline 27-II / I'll Wait for You - 12:56
2-2. East of the Sun (Bowman) - 3:36
2-3. Somewhere over the Rainbow (Harold Arlen, Yip Harberg) - 9:37
2-4. 'Frisco Fog (Carr, Roberts) - 3:14
2-5. Sunset on the Nile - 12:05
2-6. Skimming and Loping - 9:29
2-7. Yeah, Man! (Henderson, Sissle) - 3:15
2-8. We Travel the Spaceways - 12:30
2-9. They'll Come Back - 7:12
[ Sun Ra & the Year 2000 Myth Science Arkestra ]
Sun Ra - piano, keyboards, vocals
Michael Ray - trumpet
Jothan Callins - trumpet
Tyrone Hill - trombone
Marshall Allen - alto saxophone, flute, piccolo, oboe
John Gilmore - tenor saxophone, percussion, timbales, vocals
Knoel Scott - alto saxophone, bass clarinet
Charles Davis - baritone saxophone
James Jacson - oboe, basoon, Ancient Egyptian Infinity Drum
India Cooke - violin
Stephen "Kash" Killion - cello
John Ore - bass
Clifford Barbaro - drums
Earl C. "Buster" Smith - drums
Elson Nascimento - surdo, percussion
Talvin Singh - tabla, vocals
June Tyson - vocals
(Original Leo "Live at the Hackney Empire" CD Liner Cover, Inner Sheet, Inner Tray Photos & CD 1 Label)

 前回のSun Ra & his Arkestra with Symphony Orchestra名義のフランスの交響楽団との共演ライヴ盤『Pleiades』(Leo, 1993)でサン・ラのアルバム紹介は136回目、『Vol.1~3』などの分売盤、姉妹作や三部作などのリリースは1回にまとめたものも多いので軽く200作を越え、2枚組・3枚組から5枚組、6枚組などはまだしも28枚組まで含まれるのでアルバム枚数にすると軽く300枚は越えるサン・ラのアルバムを、ほぼYouTubeでの試聴リンクをつけてご紹介してきました。1990年10月27日収録の交響楽団との共演ライヴ『Pleiades』のリリースはサン・ラ没年の1993年になりましたが、2日後のロンドン公演の本作とも生前に公式録音されていたものでしょうから、サン・ラにとってはライヴ盤ながら最後のコンセプト・アルバムとなったものと言える力作でした。この年1月~2月に1週間連続公演を含むアメリカ国内公演を行ったサン・ラは、2月中旬からヨーロッパ~ロシア・ツアーを行い、ツアー中の3月に76歳を迎えています。6月に1週間帰国後またすぐにロンドン公演へ出発、6月11日の公演はアナログLP3枚組の『Live in London 1990』(Blast First, 1990)としてリリースされましたが、同作は試聴リンクがないため紹介を見送りました。6月中旬に2週間帰国してアメリカ北部ツアーを行い、6月下旬には再度ヨーロッパ・ツアーに出発、イタリアでは7月24日・25日に老舗インディー・レーベルのブラック・セイントへスタジオ盤『Mayan Temples』(Black Saint, 1992)を録音します。7月末に帰国して8月上旬までニューヨーク公演をこなした後は8月下旬に再びイギリス・ツアーに出て、9月からはニューヨーク公演~アメリカ東部ツアーを10月20日まで続け、10月27日にはフランスのオルレアン公演で『Pleiades』(Leo, 1993)に収録される交響楽団との共演ライヴ、続いて29日にはロンドン公演の本作収録、という旺盛な活動が続きました。

 本作収録のロンドン公演から帰国したサン・ラは1972年以来アーケストラの事務所兼共同住宅を据えていたフィラデルフィアで1か月の予定で休養を取りますが、11月に不整脈と高血圧による脳卒中の発作に襲われ緊急搬送されます。1989年から1990年にかけて、ライヴ中に心身の消耗を覚え急遽メンバーがサポートする、といったこともありましたが、70代半ばまで壮健だったサン・ラは医療機関受診をずっと拒んでいました。この緊急搬送以降、サン・ラの体調は次第に悪化し、1992年には身体的負担の少ないシンセサイザーに専念してピアノに代理メンバーを加え、車椅子でステージに上がるようになります。またアーケストラ創設メンバーで看板テナーサックス奏者のジョン・ギルモア(1931-1995)も体調不良から国外ツアーに出られず、国内でのライヴでもソロを取れないようになり、1969年以来アーケストラの歌姫だったジューン・タイソン(1936-1992)も1992年のアメリカ独立記念日のライヴを最後に、同年11月に乳癌で逝去し、サン・ラも1992年10月下旬のライヴを最後にアーケストラのメンバーにライヴ・スケジュールを託して療養に専念、12月にはリハビリセンターでの治療も功を奏さず、アーケストラのメンバーに引退を告げて生まれ故郷のアラバマ州バーミングハムに帰郷したのは1993年1月でした。同年3月には心臓発作でペースメーカー手術を受け、病床に就いたまま5月22日に79歳の誕生日を迎えるも意識は回復しないまま、5月30日に逝去します。本作『Live at the Hackney Empire』は高齢による病に倒れる直前の最後のライヴであり、本作以降も体調を測りながらアメリカ国内ツアー、またヨーロッパ・ツアーを行い6作の録音がありますが、'80年代後半からのセットリストのベスト・オブ・ベストと言うべき本作は、これまでのサン・ラのアルバムをせめて50枚~100枚聴いてきたリスナーには万感胸に迫るライヴ盤です。ジューン・タイソンをフィーチャーしたヴォーカル・トラックも多く、特にタイソンのアカペラ曲で1973年録音の名盤『Astro Black』(Impulse!, 1973)のタイトル曲をひさびさにコンサートのオープニング曲に置き、パーカッション・アンサンブルとホーン・アンサンブルを交えて18分以上におよぶ本作の「Astro Black」は同曲の最長ヴァージョンで、同作に先立つ名盤『Space Is The Place』(Blue Thumb, 1973)や『Discipline 27-II』(El Saturn, 1973)からも、もう25年以上経っているのかと思うとこの「Astro Black」からいきなり涙があふれます。コンサート・ホールでのライヴらしく選曲・曲順ともよく錬ってあり、ソロイストのフィーチャーや新旧のオリジナル曲、ヴォーカル曲とインストルメンタル曲の比重や配置も工夫が凝らされ、ライヴ中盤に「String Singhs / Discipline 27-II / I'll Wait for You」のメドレー、ラストは「Yeah, Man!」で本編を終わり、ヴォーカル曲の代表曲 「We Travel the Spaceways」「They'll Come Back」2連発で締めるあたり、コンサートとしての完成度とともにライヴ収録を意識した、余裕と熱気のバランスも良い演奏です。インディア・クックのヴァイオリンをフィーチャーした「Planet Earth Day」などは晩年の準レギュラー・メンバーでヴァイオリンの看板プレイヤー、ビリー・バングとの共演から生まれたアレンジでしょう。ジョン・ギルモア、ジューン・タイソンの健康状態も翌年から思わしくなくなってくるので、サン・ラ逝去翌年のリリースになった本作はサン・ラ、ギルモア、タイソンが揃って健在だったほとんど最後の時期のライヴを捉えた追悼盤になりました。'70年代のライヴや'80年代前半までのライヴと較べて、サン・ラのプレイもアーケストラの勢いも明らかにパワーが落ちていますが、締めるところはきちっと締めています。Leo Recordsはサン・ラ晩年のライヴを多く収録しているので、リリース・ペースよりも早くタイソンもサン・ラも故人になってしまい、また本作はインディー・レーベルの限界か1994年の初回プレス以降追加プレスされていないので見つけるのが難しいアルバムになっています。本作収録から1か月後に入院したサン・ラは1991年1月にようやく退院し(サン・ラ入院中にアーケストラはサン・ラの治療費のためのベネフィット・コンサートにいそしみました)、脳卒中の後遺症で半身不随になりながら2月にはカナダ、北米、ヨーロッパと続くツアーに出、フランスのモントリューイルでの4月11日のライヴは次作『Friendly Galaxy』(Leo, 1993)として本作より先にリリースされます。次回ご紹介する同作はいっそう柔らかな、やはりアーケストラ45年あまりの新旧レパートリーをしみじみ聴かせるアルバムで、あとこのサン・ラの録音順アルバム紹介も4、5回で終わってしまいます。2010年代以降もサン・ラの未発表音源は編集盤としてなお発掘され続けているので、録音年度が広い時期に渡る編集盤類はサン・ラの遺作まで追ったあと追補するつもりです。次作『Friendly Galaxy』以降はいよいよ1作1作が遺作となる可能性の中で収録されたものですが、サン・ラの病状次第ではすでに本作が遺作になる可能性もあったのです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)