サン・ラ - サムホェア・エルス (Rounder, 1993) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - サムホェア・エルス (Rounder, 1993)
サン・ラ Sun Ra - サムホェア・エルス Somewhere Else (Rounder, 1993)

Released by Rounder Records Rounder 3036 (CD, 1993), US,  Also Released by Zensor Disk ZS 136 (German CD, 1993), Germany
All written and arranged by Sun Ra expect noted.
(Tracklist)
1. Priest - 4:01
*Track 1 Recorded at Variety Recording Studios, New York. December 5th. 1988. 
[ Personnel ]
Julian Priester - trombone
Sun Ra - keyboards
John Ore, Jaribu Shahid (Ben Henderson) - bass
Billy Higgins, Earl "Buster" Smith - drums
2. Discipline/Tall Trees in the Sun - 8:26
3. S'Wonderful (Gershwin) - 5:32
4. Hole in the Sky - 7:31
5. Somewhere Else Part 1 - 8:38
6. Somewhere Else Part 2 - 2:41
7. Stardust from Tomorrow - 4:56
*Track 2 - 7 recorded at BMG Studios, New York, November 1989. 
[ Personnel ]
Sun Ra - piano, synthesizer
Don Cherry - pocket trumpet
Fred Adams, Michael Ray, Ahmed Abdullah, Jothan Callins - trumpet
Al Evans - trumpet, flugelhorn
Tyrone Hill, Julian Priester - trombone
Reynold Scott - baritone saxophone, flute
James Spaulding - alto saxophone, fl
Marshall Allen - alto saxophone, flute, percussion
John Gilmore - tenor saxophone, percussion
James Jacson - basoon, Ancient Egyptian Infinity Drum
Rollo Radford - electric bass
John Ore - bass
June Tyson - vocal, violin
Earl C. "Buster" Smith, Eric "Samurai" Walker, Thomas "Bugs" Hunter - drums
Elson Nascimento - surdo, percussion
Jorge Silva - repinique, percussion
8. Love in Outer Space - 12:01
*Track 8 - Track 10 recorded at Variety Recording Studios, New York. December 5th. 1988 
[ Personnel ]
Sun Ra - piano, synthesizer
Fred Adams, Tommy Turrentine, Ahmed Abdullah - trumpet
Al Evans - flugelhorn, frenchhorn
Tyrone Hill, Julian Priester - trombone
Marshall Allen - alto saxophone, flute, oboe, clarinet in A key
Knoel Scott - alto saxophone, perussion
John Gilmore - tenor saxophone, clarinet, percussion
Danny Ray Thompson - baritone saxophone, flute, bongo
Eloe Omoe - bass clarinet, alto saxophone, contra-alto clarinet, percussion
James Jacson - basoon, flute, percussion
Bruce Edwards - electric guitar
Carl LeBlanc - electric guitar (all solos)
John Ore - bass
Billy Higgins, Earl "Buster" Smith - drums
Elson Nascimento - percussion
9. Everything Is Space - 3:57
[ Personnel ]
The same that track 8 plus Jaribu Shahid (Ben Henderson) - vocal
Tani Tabbal - vocal
10. Tristar - 3:31
[ Personnel ]
Sun Ra - piano
John Ore, Jaribu Shahid (Ben Henderson) - bass
Billy Higgins, Earl "Buster" Smith - drums
(Original Zensor
 "Somewhere Else" CD Liner Cover & CD Label)

 今回で130回目(ほぼ180作目、枚数にして300枚以上)のアルバム紹介となるサン・ラの本作は、全回ご紹介したメジャーのA&Mレーベル作品『Blue Delight』(A&M, 1989)セッション(Recorded at Variety Recording Studios, New York,  December 5, 1988)と、数回後にご紹介する1989年録音のA&Mからの次回作『Purple Night』(A&M, 1990)の残りテイクを集めたスタジオ録音アルバムになります。そうしたアウトテイク集のため、発表はサン・ラ逝去の年、1993年と遅れましたが、内容はメジャーのA&Mへのレコーディング・セッションのため残りテイクといえどもあなどれない、A&Mからの『Blue Delight』や『Purple Night』と遜色ない出来になっています。本作『Somewhere Else』は『Blue Delight』や『Purple Night』同様アーケストラ名義ではないサン・ラ個人のリーダー作扱いのスタジオ・アルバムですが、それももっともで、いつものアーケストラのレギュラー・メンバーも勢揃いしていますが、ゲストがドン・チェリー、ビリー・ヒギンズのオーネット・コールマン組、ベースに『Hidden Fire』以来のジョン・オーレ、A&Mの肩入れとはいえどういう縁故かトミー・タレンタイン、さらに初期アーケストラに参加後メインストリームで名を上げたジュリアン・プリースターとジェームズ・スポールディングが30数年ぶりに復帰するなど、結果的にサン・ラ生誕(降誕と呼ぶべきか)75歳の記念アルバムというべき内容になりました。アルバムの最初と最後に2ベース&2ドラムスの変則ピアノ・トリオ(1にはプリースターのトロンボーンが入りますが)を置き、中間の2曲目~9曲目はビッグバンドで景気良く盛り上げる構成にも華があり、A&Mでのスタジオ盤2作のアウトテイク集とはいえ構成に意が凝らされており、通好みのルーツ・ミュージック・レーベルのラウンダーらしい丁寧なアルバム作りが光ります。ジャケットの堂々とした土星は土星人の転生者を自称したサン・ラを招いているようで、本作発売が1993年5月30日のサン・ラ逝去に間に合ったかどうかわかりませんが、サン・ラは前年12月に病気療養のため事実上引退しているので、そのはなむけの意味は当然あったでしょう。

 本作はメジャー・リリースを意識した録音の分、いつものアーケストラ作品のような破天荒さや良い意味での乱雑さには欠けるのですが、中堅インディー・レーベルでアメリカン・ルーツ・ミュージックの老舗ラウンダーでは聴きやすく親しみやすいアルバムでちょうど良かったでしょう。大世帯でありながら緩い部分は緩くし、スタジオ・ライヴに近い状態で録音が進められたのはアルバム・タイトル曲「Somewhere Else」がPart 1とPart 2に分かれていることでもわかり、これは1988年には時代遅れになっていた16ないし32トラック、ひょっとしたら'70年代並みの8トラックの磁気テープによるアナログ・レコーディングのようですが、一旦バンド側かスタッフ側の判断で演奏を中断し、再度演奏の続きを拾った形跡があります。普通こういう場合には演奏全体をリテイクするものですが、サン・ラが拒否したのか、これはアウトテイクだろうとA&Mのジョン・スナイダーも良しとしたのか、トランペットだけで5人、ドラマーだけでも3人いる22人編成のバンドで、楽譜通りに演奏を決める白人ビッグバンドならともかくサン・ラのレコーディングなのですから、演奏にミスという概念はなく、こうした録音事故のようなテイクもそのまま収録するのがサン・ラの流儀です。A&Mがアウトテイクにするのは当然とはいえ、こういうテイクまで生かすのは中堅インディーのラウンダーでさえ、いや通好みのラウンダーだからこその収録とも言って良く、また本作のポップさはファンクやディスコ、フュージョン系のアルバムでかつてサン・ラが試したものとも違う'80年代的な軽さという面でも異色で、マイルス・デイヴィスやクインシー・ジョーンズの当時の方向性と近いものです。ただしサン・ラはいつでも一皮めくれば底なし沼のようなフリー・ジャズを懐に秘めていたこと、それがポップな演奏にもドスを効かせているのは確かです。A&Mからの『Blue Delight』と『Purple Night』、そしてラウンダーからの本作は姉妹作と拾遺篇、または三部作といってもいい好作で、この頃から老齢による体調不良があったサン・ラが残した晩年のスタジオ盤としてしみじみ聴けるアルバムです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)