アメリカ独立記念日の歌~ザ・バンド「怒りの涙」(Capitol, 1968) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

Capitol Album "Music From Big Pink" Front Cover
ザ・バンド The Band - 怒りの涙 Tears of Rage (Bob Dylan, Richard Manuel) (from the album "Music From Big Pink", Capitol, 1968) - 5:23 : 

[ Lyrics ]

Tears of Rage
(Bob Dylan, Richard Manuel)

We carried you in our arms on Independence Day
And now you'd throw us all aside and put us all away
Oh, what dear daughter 'neath the sun could treat a father so?
To wait upon him hand and foot and always tell him "No"

Tears of rage, tears of grief
Why must I always be the thief?
Come to me now, you know we're so alone
And life is brief

It was all so very painless
When you ran out to receive
All that false instruction
Which we never could believe
And now the heart is filled with gold
As if it was a purse
But, oh, what kind of love is this
Which goes from bad to worse?

Tears of rage, tears of grief
Why must I always be the thief?
Come to me now, you know we're so alone
And life is brief

We pointed you the way to go
And scratched your name in sand
Though you just thought it was nothing more
Than a place for you to stand
I want you to know that while we watched
You discovered no one would be true
That I myself was among
The ones who thought
It was just a childish thing to do

怒 り の 涙

おれたちはお前を独立記念の日のお祭りに
抱っこして連れて行ったね
だけど今お前はおれたちをはねつけ
うち捨てようとしている
太陽のようなに愛しく育てた娘が
父親にそんな仕打ちをするのか
手取り足取り父を真似てきた娘が
いつも「いや」としか言わなくなるなんて

おれたちには信じられないような
どれもが馬鹿げた教育を
お前が受けに行ったときにも
何の痛みも感じなかった
今もこの心は金貨が詰まった
財布のようなのに
だけどその愛もどんどん悪く
なっていくばかりなのだろうか

おれたちは目指す先を示して
お前の名前を砂に書き印した
だけれどそれはお前が立てる場所を
示しただけのことだった
知ってほしい、おれたちはずっと見てきたのだ
誰もが真実を知らないとお前が気づくことを
誰もががそんなことは
子供じみていると考えているのに

怒りの涙、嘆きの涙
まるで泥棒のようにみじめなおれ
おいで、さあ判るだろう、誰もが孤独で、
人生は短いのだから

 ボブ・ディランのバックバンドを勤めていたザ・ホークスがザ・バンドと改名し、独立デビューしたアルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク (Music From Big Pink)』(Capitol, July 1, 1968)のために、ザ・バンドのリード・ヴォーカリストでピアノ奏者のリチャード・マニュエルと共作した曲。戦後ベビーブーマー世代のヒッピー文化、サイケデリック・ムーヴメントで賑わっていた当時、この曲は若者の視点でなく取り残された父親の心情を歌った渋いバラード曲で、しかもこの曲を巻頭に配したザ・バンドのデビュー・アルバムは大反響を呼び、即座にロックの古典的アルバムの地位を占めます。筆者は帰国子女でも何でもありませんが、基地の町で生まれ育ったので7月4日はアメリカ独立記念日の祭の賑わいを幼児の頃から体験してきたので、広大な敷地に出店が並び、マイナー・リーグの球団戦を始めダンサーやジャグラーやバンドがあちこちで馬鹿騒ぎし、最後は至近距離で見上げるように打ち上げられる花火の火の粉を浴びて締めくくられるアメリカ独立記念日の祭はまるで年に一度の異世界のようでした。ましてやアメリカ本国では、独立記念日の祭に子供が親に手を引かれて祝うのはどんな家庭にとっても年間最大の行事でしょう。筆者はアメリカ独立記念日の翌日が誕生日だったのでなおのこと楽しみでした。ちなみに7月5日は1964年にビートルズが『A Hard Days Night』をリリースした日、ジム・モリソンはアメリカ独立記念日の前日の7月3日に逝去と、まるでアメリカ独立記念日を挟んだ惑星直列のような日付でもあります。

 ザ・バンドのヴァージョンに先立ってボブ・ディラン自身がホークスをバックに歌った1967年録音のデモ・テープ集の2枚組LP『Great White Wonder』1969は海賊盤のベストセラーになり、のちの1975年に2枚組LP『The Basement Tapes』、2014年に6枚組CD『The Bootleg Series Vol. 11: The Basement Tapes Complete』でようやく公式に一般発売されましたが、同作はロック初の海賊盤としてローリング・ストーンズの1969年ツアーの海賊盤ライヴ『Live'r Than You'll Ever Be』'69と並んで知られるものです。先にザ・バンド1969年のウッドストック・フェスティバル出演時の映像ともに『The Basement Tapes』版の「Tears of Rage」(1967年録音)を上げましたが、この曲をライヴ・レパートリーにしているボブ・ディラン自身の、比較的近年(と言っても25年前)のライヴ・ヴァージョンもYouTubeにアップされているので上げておきましょう。特に2007年のエルヴィス・コステロとの共演は、元のメロディーなど歯牙にもかけないディランに対して、コステロの丁寧な歌唱が光り、さすがの感を抱かせます。
◎Bob Dylan - Tears of Rage (Live at Troy, NY, February 22, 1999) :  

◎Bob Dylan & Elvis Costello - Tears of Rage (Live at St.Louis, September 21, 2007) :  

 1976年にギタリストのロビー・ロバートソンの映画音楽家への転向から解散したザ・バンドは、元メンバーのソロ活動も軌道に乗らず、'80年代には再結成し、レコード契約もないまま細々と小さいクラブ規模のツアーで生計を立てていましたが、重度の鬱病に苦しんでいたリチャード・マニュエルは、ツアー中にモーテルのバスルームで縊死自殺(享年42歳)してしまいます。ザ・バンドはその後メンバーを補填しながらベーシストのリック・ダンコの逝去を受けて、ダンコ生前に決まっていたスケジュール消化のために'99年まで活動しますが、リード・ヴォーカリストのマニュエルを欠いたザ・バンドはダンコとレヴォン・ヘルム、ガース・ハドソンの三人でレコード契約を再び獲得するも全盛期の生彩は取り戻せませんでした。リチャード・マニュエルは自殺の半年前に、ソロでのクラブ出演(数曲ダンコがゲスト参加)で収録されたライヴ・テープから2002年に発売された唯一の没後発表ソロ・アルバムでもこの曲を歌っています。マニュエルの歌うバラード曲ではザ・バンドのセカンド・アルバム収録曲「Wispering Pines」(マニュエルとロバートソンの共作)と並んで双璧をなすものです。「Wispering Pines」はノルウェーの女性ヴォーカル・バンド、ドリスの素晴らしいカヴァー・ヴァージョンがあります。マニュエル晩年のライヴはと言えば、声は全盛期からすれば見る影もなくボロボロ、ピアノも生ピアノではなく電子キーボードなのが惜しまれますが、それでもこちらも感動的な名唱です。
The Band - Wispering Pines (Robbie Robertson, Richard Manuel) (from the album "The Band", Capitol, 1969) - 3:55 :  

Doris - Wispering Pines (from the album "Did you give the world some love today, Baby", EMI/Odeon, 1970) - 3:49 : 

Richard Manuel - Tears of Rage (recorded live'85, from the album "Whispering Pines", Dreamsville, 2002) - 4:18 :  

Richard Manuel - Wispering Pines (recorded live'85, from the album "Whispering Pines", Dreamsville, 2002) - 5:19 :  


(旧記事を手直しし、再掲載しました。)