アイアン・バタフライ(9) Evolution: The Best of~(Atco,1971) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

アイアン・バタフライ - Evolution: The Best Of Iron Butterfly (Atco, 1971)
アイアン・バタフライ Iron Butterfly - Evolution: The Best Of Iron Butterfly (Atco, 1971) :  

Released by Atco Records SD33-369, November 22, 1971 / US#137
Produced by Brian Stone, Charles Greene, Jim Hilton & Richard Podolor.
(Side One)
A1. Iron Butterfly Theme (Doug Ingle) - 4:34
A2. Possession (Ingle) - 2:45
A3. Unconscious Power (Ingle, Danny Weis, Ron Bushy) - 2:32
A4. Flowers and Beads (Ingle) - 3:05
A5. Termination (Erik Brann, Lee Dorman) - 3:00
A6. In-A-Gadda-Da-Vida (45 RPM single edit) (Ingle) - 2:52
(Side Two)
B1. Soul Experience (Ingle, Bushy, Brann, Dorman) - 2:53
B2. Stone Believer (Ingle, Bushy, Dorman) - 4:25
B3. Belda-Beast (Brann) - 5:45
B4. Easy Rider (Let the Wind Pay the Way) (Ingle, Bushy, Dorman, Robert Woods Edmonson) - 3:06
B5. Slower Than Guns (Ingle, Bushy, Dorman, Edmonson) - 3:22
[ Iron Butterfly ]
Doug Ingle - lead vocals (except where indicated), organs
Ron Bushy - drums
Lee Dorman - bass and backing vocal expect side 1 tracks 1-3
Erik Brann - guitar expect side 1 tracks 1-3 and side 2 tracks 2, 4, 5, lead vocals "Termination" and "Belda-Beast"
Jerry Penrod - bass on side 1 tracks 1–3
Darryl DeLoach - tambourine and backing vocals on side 1 tracks 1-3
Danny Weis - guitars on side 1 tracks 1–3
Mike Pinera - guitar on side 2 tracks 2, 4 and 5, additional lead vocal on "Stone Believer"
Larry "Rhino" Reinhardt - guitar on side 2 tracks 2, 4 and 5 

(Original Atco "Evolution: The Best Of Iron Butterfly" LP Liner Cover & Side One)

 CD時代になっては22曲収録・総時間74分で本作のほぼ全曲が吸収されたベスト盤『Light & Heavy: The Best of Iron Butterfly』'93、またCD1枚分の価格で紙ジャケット仕様にAtcoからの全5作『Heavy』'68.1(US#78)、『In-A-Gadda-Da-Vida』'68.6(US#4)、『Ball』'69.1(US#3)、『Live』'70.4(US#20)、『Metamorphosis』'70.8(US#16)をそのまま収録した『Original Album Series: IRON BUTTERFLY』2016が発売されて存在意義はほとんどありませんが、本作はアイアン・バタフライ初のベスト・アルバムとして、味わい深いジャケットとともにぜひオリジナルLPフォーマットでCD化してほしいものです。バタフライにはアルバム未収録相当のシングルが5枚あり、『Heavy』と同時発売の68年のデビュー・シングル「Don't Look Down on Me (non-album track) c/w Possession (Early Version)」はA面がアルバム未収録曲、B面はアルバムとは別テイク、『In-A-Gadda-Da-Vida』からのシングル「In-A-Gadda-Da-Vida c/w Iron Butterfly Theme (both are edited versions)」のうちA面は本作収録ですがB面の編集ヴァージョンはアルバム未収録で、『Ball』からのイギリス版シングル「Belda-Beast (4:59 edit) c/w Lonely Boy」はA面が編集ヴァージョンで、アルバム発表後の69年のエリック・ブラン(g)在籍時最後のシングル「I Can't Help but Deceive You Little Girl c/w To Be Alone」は両面とも『Ball』の作風を継いだアルバム未収録の新曲でした。

 また『Metamorphosis』からのシングル「Stone Believer c/w Silly Sally (Non-LP cut)」はB面がアルバム未収録曲で、以上アルバム未収録曲4曲、アルバム未収録別テイク1曲、シングル用編集ヴァージョン3曲(うち1曲は「In-A-Gadda-Da-Vida」ですから未収録編集ヴァージョンは2曲ですが)、CD化の際にそれらをまとめてボーナス・トラックに増補すれば再リリースの意義もあるでしょう。せっかくのベスト盤CD『Light & Heavy: The Best of Iron Butterfly』にもオリジナル・アルバム未収録トラックは「I Can't Help but Deceive You Little Girl」と本作にも収録の「In-A-Gadda-Da-Vida (45 RPM single edit)」しか入っていないのです。バタフライはオリジナル・アルバム5作のうち4作をトップ20、うち2作をトップ5入りさせた、'60年代末のアメリカきっての人気バンドだったのですから。これは同じAtcoレーベルで半年デビューが早かったライヴァル・バンドのヴァニラ・ファッジ以上の実績で、ニューヨーク出身のオルガン・ロックバンドのファッジもまた'70年までに5作を残し、音楽センスと編曲・演奏力ではバタフライとは大人と学生ほどの差がありましたが、魅力的なオリジナル曲を書く才能には欠けていました。バタフライはAtcoと同じAtlantic Records傘下のElektraレーベルのポール・バタフィールド・ブルース・バンド、ティム・バックリー、ラヴ、ドアーズには敵いませんが、それなりに魅力的な曲が書けた強みがあったのがベスト・アルバムの曲目に洩れた曲にも採りたい佳曲がもっとあることからもわかります。

 本作はアルバム未収録曲の未収録の他に、選曲にムラがあるのも弱点となっています。『Heavy』からはA1, A2, A3の3曲、『In-A-Gadda-Da-Vida』からはA4, A5, A6の3曲(「In-A-Gadda-Da-Vida (45 RPM single edit)」含む)、『Ball』からはB1, B3の2曲、『Metamorphosis』からはB2, B4, B5の3曲で『Live』からの収録はありません。『Ball』はチャート3位の大ヒット・アルバムですし、『In-A-Gadda-Da-Vida』は年間チャート1位で2年間で200万枚を突破し(現在では3,000万枚突破、マイケル・ジャクソン『スリラー』1億1,000万枚、AC/DC『バック・イン・ブラック』4,900万枚、ピンク・フロイド『狂気』4,500万枚に次ぎ音楽史上上位ベストテンに入る売り上げ)、B面全面で17分あるタイトル曲の完全版はアルバムで聴け、ということでしょうがA面5曲のうちA4, A5が代表曲とはピンときません。『Ball』『Metamorphosis』はともに大変な力作ですが後者からの3曲はそれまでのバタフライの作風からは浮いていますし、この際『In-A-Gadda-Da-Vida』と『Metamorphosis』からは1、2曲にして、バタフライがもっともプログレッシヴ・ロックに振れた力作『Ball』からはB3はブラン最後の力作でよしとしてもB1を入れるより『Ball』冒頭のヘヴィな「In the Time of Our Lives」や同系統の「Filled with Fear」を『Live』からのヴァージョンで入れてほしかった、『Heavy』からも初期の代表曲「You Can't Win」や「Fields of the Sun」あたりを足してほしかった気がします。

 バタフライの場合正味4作のスタジオ・アルバムからのベスト・アルバムといっても大ヒット曲は「In-A-Gadda-Da-Vida」しかないので、結局スタジオ・アルバム4作を集めた方が早く、『Live』でそれまでのスタジオ・アルバム3作のベスト選曲は兼ねているので、『Live』と実質別バンドと化した新生バタフライの『Metamorphosis』で足りてしまうとも言えて、このベスト・アルバムがリリースされたのはバンドの解散宣言に伴う契約満了のためだったというのが実情でしょう。真正バタフライのスタジオ・アルバムは『Heavy』『In-A-Gadda-Da-Vida』『Ball』で尽きているとも言えて、1973年には『Heavy』から4曲、『Ball』から5曲を選んだシリーズもののベスト盤『Star Collection』、1988年には『Heavy』と『Ball』をそのままカップリングしたCD『Rare Flight』もリリースされていますから、『In-A-Gadda-Da-Vida』だけが不動のロングセラーを続けている最中『Heavy』と『Ball』は絶賛廃盤中だったのがわかります。あまり選曲のよくないベスト・アルバムとはいえ4作のスタジオ盤しかないバンドから2枚組のベスト盤を作るのもおかしいですし(アルバム未収録曲・別テイク・編集ヴァージョンを網羅しているのが売りになるようなバンドでもありません)、本作の価値は美麗なジャケット・アートと「あの」アイアン・バタフライのベスト盤という珍しさにあると言えるでしょう。CD化で追加曲に未収録シングルを網羅してくれれば追加曲だけで独自の価値があるアルバムになるのに惜しいことです。そうならないかな。ならないんだろうなあ。バタフライだもんなあ。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)