アイアン・バタフライ Iron Butterfly - ライヴ Live (Atco, 1970) : Recorded Live in May 25-30, 1969
Released by ATCO Records SD33-318, April 22, 1970 / US#20(Billboard)
Produced by Richard Podolor
(Side 1)
A1. In the Time of Our Lives (Doug Ingle, Ron Bushy) - 4:23
A2. Filled with Fear (Ingle) - 3:27
A3. Soul Experience (Ingle, Bushy, Erik Brann, Lee Dorman) - 3:55
A4. You Can't Win (Danny Weis, Darryl DeLoach) - 2:48
A5. Are You Happy (Ingle) - 3:20
(Side 2)
B1. In-A-Gadda-Da-Vida (Ingle) - 19:00
[ Iron Butterfly ]
Doug Ingle - organ, lead vocals
Erik Brann - guitar
Lee Dorman - bass, backing vocals
Ron Bushy - drums
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ファッジの場合はそれでいいのですが、バタフライのようにテクニックに限界のあるバンドが総合力で勝負しようとしたのは割り切った選択で、いわゆるテクニカルなプレイヤーではないブランがどの曲でもほとんどコードを弾かず、ユニゾン・リフ以外は効果音的にリード・ギターを弾き続けるのもイングルがオルガンで鳴らし続けるコードと衝突しないアンサンブルとしては合理的であり、イングルのオルガンが鳴らすコードがトライアドの連続を出ない単調さをギターの奇抜なプレイとベースの躍動感が補っています。アイディアの豊富さ、サウンドの切れに乏しいので全然似ているようには聴こえませんが、イギリスのイエスやストラングラーズに発展していくオルガン・ロックのアンサンブルの原型があります。このライヴ・アルバムの収録後ブランは脱退してしまい、テクニックではより優れたギタリストのマイク・ピネラとライノ・ラインハルトを迎えて2ギターの5人編成になったバタフライはAtcoからの最終アルバム『変身 (Metamorphosis)』'70.8をリリースし、1971年までヨーロッパ・ツアーを続けて解散しますが、スタジオ盤『変身』は力作になっていて新生バタフライとして聴きごたえのあるアルバムになっているものの、2014年に発掘された1970年のデンマークのライヴ、1971年のスウェーデンとデンマークのライヴを聴くとピネラとライノのギターが強力すぎてイングルがほとんどオルガンを弾く余地がなくなってしまい、ピネラのヴォーカルもイングルのヴォーカルを圧倒しており、楽曲も『変身』からの曲に唯一「ガダ・ダ・ビダ」をギター中心のハード・ロック・アレンジで再演する程度で、かつてのバタフライの面影はほとんどなくなってしまいます。『ヘヴィー』からA4、『ガダ・ダ・ビダ』からA5とB1、『ボール』からA1、A2、A3をスタジオ盤よりさらに躍動感のあるライヴ・ヴァージョンで聴ける本作は、全曲でイングルのリード・ヴォーカルが聴けるバタフライ唯一のアルバムでもあり、当時のライヴ形態(2~3バンドによるパッケージ・ツアー)では1コンサート分ではLP1枚分程度だったかもしれませんが、数か所でのライヴ収録ですから演奏曲目を網羅して2枚組LPでリリースしてほしかったと悔やまれます。多少アルバム化に際して編集で手が加えられている(「ガダ・ダ・ビダ」のエンディング・テーマへの回帰部分など)と気づかされる箇所もあり、それがせっかくのライヴ感を損ねている点もありますが、発掘ライヴ『Fillmore East 68』を聴くと4人編成時代のバタフライのライヴ演奏は実に充実したもので、デビュー直後のレッド・ツェッペリンを前座にしたコンサートでツェッペリンに食われたという話は有名ですが、そんなことは音楽の優劣をつけたがる次元の低い見方にすぎず、バタフライにはあってツェッペリンにはない味があることを心あるリスナーはちゃんと聴きとっていたはずです。あえて本作を絶頂期バタフライの記念すべき「名作ライヴ」と表彰する次第です。しかも次作『変身』での変貌を思うと、本作はバンド本来のオリジナル・コンセプトで勝負していたバタフライ最後のアルバムでもあるのです。
(旧記事を手直しし、再掲載しました。)