アイアン・バタフライ(4) ライブ (Atco, 1970) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

アイアン・バタフライ - ライブ (Atco, 1970)
アイアン・バタフライ Iron Butterfly - ライヴ Live (Atco, 1970)  : 

Released by ATCO Records SD33-318, April 22, 1970 / US#20(Billboard)
Produced by Richard Podolor
(Side 1)
A1. In the Time of Our Lives (Doug Ingle, Ron Bushy) - 4:23
A2. Filled with Fear (Ingle) - 3:27
A3. Soul Experience (Ingle, Bushy, Erik Brann, Lee Dorman) - 3:55
A4. You Can't Win (Danny Weis, Darryl DeLoach) - 2:48
A5. Are You Happy (Ingle) - 3:20
(Side 2)
B1. In-A-Gadda-Da-Vida (Ingle) - 19:00
[ Iron Butterfly ]
Doug Ingle - organ, lead vocals
Erik Brann - guitar
Lee Dorman - bass, backing vocals
Ron Bushy - drums 

(Original ATCO "Live" LP Liner Cover & Side 1 Label)

 本作を賞賛した評価は見たことがありませんが、この『ライブ』こそ絶頂期のアイアン・バタフライをとらえた名作ライヴ・アルバムであり、筆者の愛聴して止まない作品です。イングル、ブラン、ドーマン、ビュッシーの黄金ラインナップは1968年春~1969年初夏までの1年強しか続かず、結局スタジオ盤『ガダ・ダ・ビダ(In-A-Gadda-Da-Vida)』'68.6と『ボール(Ball)』'69.1、そして'69年5月収録で'70年4月発売の本作しか残しませんでした。のち2012年に1968年4月収録の2枚組CD『Fillmore East 68』が発掘発売されて、セカンド・アルバム『ガダ・ダ・ビダ』制作中の充実したライヴが抜群な音質の良好なライン録音で聴くことができるようになりました。2014年にはさらにデビュー作『ヘヴィー (Heavy)』'68.1のメンバー(専任ヴォーカルにダリル・デローチ、ギターがダニー・ワイス、ベースがジェリー・ペンロッド)にギターのブランが参加した2ギター編成による1967年7月収録の『Live at the Galaxy, LA』が発掘されましたが、これは過渡期のバタフライでまだアンサンブルは固まっておらず、『ヘヴィー』の制作終了後に前記の3人が脱退してブランが正式ギタリストに昇格、ベースにドーマンが入ってようやくバタフライは理想的な編成になったのが『Fillmore East 68』を含む4作を聴くとわかります。当時のアメリカでは複数名のヴォーカリストを擁したロック・バンドも多かったのですが、デビュー作のデローチは専任ヴォーカルといってもヴォーカル曲9曲中3曲しかリード・ヴォーカルを取っておらず作詞家としての参加以上の存在感しかなかったので、イングルが作曲だけでなく作詞も手がけるようになると余剰人員でしかなくなり、ベースは明らかにドーマンに交替してサウンドが強化されましたし、ワイスは優れたギタリストでしたが17歳のブランにはワイス以上の新しい感覚がありました。ドーマンのモータウン的なベースと、コードとリズムはイングルのオルガンとドーマンのベース、ビュッシーのドラムスに任せてリズム・ギターはまったく弾かず単音のリード・ラインで縦横に唸りを上げるノイジーなブランのファズ・ギターが躍動感と適度な間、引きずるようなヘヴィさを特徴としたバタフライのアンサンブルを完成させたので、このベースとギターの役割は同じAtcoレーベルで先にデビューしていたヴァニラ・ファッジと共通した発想ですが、ファッジほどテクニックの傑出したバンドではなかったので、個々のプレイヤーをフィーチャーするよりもトータルなサウンドに集中したバタフライにはある意味ファッジよりもこぢんまりとしたまとまりがあります。そのことも、スタジオ盤よりさらにバンドの結束力を感じさせるこの『Live』からうかがうことができて、ヴァニラ・ファッジの『Near the Beginning』'69.2(全米16位)のB面のライヴが散漫なほどボガート&アピスら凄腕メンバーの壮絶なソロ合戦になっているのとは対照的です。

 ファッジの場合はそれでいいのですが、バタフライのようにテクニックに限界のあるバンドが総合力で勝負しようとしたのは割り切った選択で、いわゆるテクニカルなプレイヤーではないブランがどの曲でもほとんどコードを弾かず、ユニゾン・リフ以外は効果音的にリード・ギターを弾き続けるのもイングルがオルガンで鳴らし続けるコードと衝突しないアンサンブルとしては合理的であり、イングルのオルガンが鳴らすコードがトライアドの連続を出ない単調さをギターの奇抜なプレイとベースの躍動感が補っています。アイディアの豊富さ、サウンドの切れに乏しいので全然似ているようには聴こえませんが、イギリスのイエスやストラングラーズに発展していくオルガン・ロックのアンサンブルの原型があります。このライヴ・アルバムの収録後ブランは脱退してしまい、テクニックではより優れたギタリストのマイク・ピネラとライノ・ラインハルトを迎えて2ギターの5人編成になったバタフライはAtcoからの最終アルバム『変身 (Metamorphosis)』'70.8をリリースし、1971年までヨーロッパ・ツアーを続けて解散しますが、スタジオ盤『変身』は力作になっていて新生バタフライとして聴きごたえのあるアルバムになっているものの、2014年に発掘された1970年のデンマークのライヴ、1971年のスウェーデンとデンマークのライヴを聴くとピネラとライノのギターが強力すぎてイングルがほとんどオルガンを弾く余地がなくなってしまい、ピネラのヴォーカルもイングルのヴォーカルを圧倒しており、楽曲も『変身』からの曲に唯一「ガダ・ダ・ビダ」をギター中心のハード・ロック・アレンジで再演する程度で、かつてのバタフライの面影はほとんどなくなってしまいます。『ヘヴィー』からA4、『ガダ・ダ・ビダ』からA5とB1、『ボール』からA1、A2、A3をスタジオ盤よりさらに躍動感のあるライヴ・ヴァージョンで聴ける本作は、全曲でイングルのリード・ヴォーカルが聴けるバタフライ唯一のアルバムでもあり、当時のライヴ形態(2~3バンドによるパッケージ・ツアー)では1コンサート分ではLP1枚分程度だったかもしれませんが、数か所でのライヴ収録ですから演奏曲目を網羅して2枚組LPでリリースしてほしかったと悔やまれます。多少アルバム化に際して編集で手が加えられている(「ガダ・ダ・ビダ」のエンディング・テーマへの回帰部分など)と気づかされる箇所もあり、それがせっかくのライヴ感を損ねている点もありますが、発掘ライヴ『Fillmore East 68』を聴くと4人編成時代のバタフライのライヴ演奏は実に充実したもので、デビュー直後のレッド・ツェッペリンを前座にしたコンサートでツェッペリンに食われたという話は有名ですが、そんなことは音楽の優劣をつけたがる次元の低い見方にすぎず、バタフライにはあってツェッペリンにはない味があることを心あるリスナーはちゃんと聴きとっていたはずです。あえて本作を絶頂期バタフライの記念すべき「名作ライヴ」と表彰する次第です。しかも次作『変身』での変貌を思うと、本作はバンド本来のオリジナル・コンセプトで勝負していたバタフライ最後のアルバムでもあるのです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)