サン・ラ - コスモ・サン・コネクション (El Saturn, 1985)
Originally Released by El Saturn Records SRRRD1, 1985
Also Released by Recommended Records SRRRD1, 1985
CD Reissued by Recommended Records ReR Megacorp ReR SR1, UK, 1997
All Compositions and arranged by Sun Ra
(Side 1)
A1. Fate In A Pleasant Mood - 12:09
A2. Cosmo Journey Blues - 6:14
(Side 2)
B1. Cosmo Sun Connection - 3:46
B2. Cosmonaut Astronaut Rendezvous - 3:30
B3. As Space Ships Approach - 2:36
B4. Pharaoh's Den - 2:59
[ Sun Ra And The Arkestra ]
Sun Ra - piano, organ, synthesizer
Tyrone Hill - trombone
Marshall Allen - alto saxophone, flute
John Gilmore - tenor saxophone, timbales
Eloe Omoe - bass clarinet, alto saxophone
Danny Ray Thompson - flute, bass
Rollo Radford - electric bass
Atakatune - congas (possibly)
unidentified saturation - drums
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(Reissued ReR "Cosmo Sun Connection" CD Front Cover & Original El Saturn LP Side 1/2 Label)
本作はアナログLPで両面トータル32分弱と非常にコンパクトなアルバムで、フル・コンサートを収めた海外ツアー終盤のエジプトのカイロ公演のCD3枚組ライヴ『Sun Rise in Egypt』、ギリシャのアテネ公演のLP3枚組ライヴ『Live At Praxis』と年代順に聴き返してみると、このコンパクトさがかえって作品性の高い、ライヴによる旧曲・新曲の最新アレンジのアルバムとしてスタジオ盤に近いトータル性を感じさせる好盤になっています。A1「Fate In A Pleasant Mood」は'60年代前半、ニューヨーク進出後間もないアルバムのタイトル曲で、サン・ラのエキゾチック路線の代表曲ですが、長くライヴでは演奏されなかったこの曲は'80年代になってライヴ定番曲になり、ヴォーカル曲に改められて演奏されるようになりました。おそらく1978年初演の「The Mayan Temples」(別題「Sound Mirror」「I, Pharaoh」)がしばらくライヴ定番曲になったあと、同傾向の曲としてさらにヴォーカル曲に発展させる発想からこの旧曲を最新アレンジでやってみようという流れだったと思われます。1981年~1984年初頭までのライヴではヴォーカル部を前面に出して8~9分台の曲として演奏されていますが、12分にもおよぶ演奏の本作ではおやっ、マイルス・デイヴィスの「Milestones」か?と一瞬錯覚させるようなサン・ラのピアノ(これは意図的なイントロ遊びでしょう)から始まって、ヴォーカルが出てくるまでの前半2/3は実にいいムードのバンド・アンサンブルでオリジナル・ヴァージョンからさらに浮遊感に富んだインストルメンタル曲として演奏され、このままインストルメンタルで続くかなと思った頃にメンバー大合唱のヴォーカル曲に展開します。観客の反応も暖かく、サン・ラ聴いてて良かったなあと思えるほのぼのとしたムードが漂います。A2「Cosmo Journey Blues」もこの頃演っていたサン・ラのピアノ主導の即興ブルースで、アーケストラがぴったりつけているため即興リフのブルースではなく作曲・アレンジとも練られた楽曲に聴こえます。A1、A2の2曲で18分半と、アナログLP時代のアーティストらしい巧妙な選曲・配曲が光ります。
B面は打って変わってフリー・ジャズ・サイドで、どの曲もサン・ラのオルガンまたはシンセサイザーによるキュー・フレーズからソロイストのピックアップ・ソロが展開されるパターンで、2分~3分台と短い曲が4曲続くこともあり、おそらく実際はもっと長く演奏された即興曲から楽曲らしい展開でまとまった部分を切り取って編集され、各曲が独立した新曲として収められたものでしょう。発掘音源や未編集でフル・ステージが収められたライヴ盤では「Untitled Improvisation」と仮題されて10分以上に渡って収録されていたような演奏から楽曲としてまとまった部分を巧みに編集したもので、その点でも本作が実際のライヴを録りっ放しのまま収録したのではない、アルバムらしい構成に仕上げてある、ライヴ収録ではあるもののスタジオ録音アルバムに近い性質の作品性の高さを狙ったものであることがわかります。サン・ラ・アーケストラのような非常にリーダーシップの高いリーダーと一体感の強いレギュラー・バンドの場合、演奏から編集していくことで成立する作編曲というのもあるわけです。また本作はサターン盤のオリジナル発売前にイギリスの反体制派ロックのレーベル、Recommended Recordsから先行リリースされたアルバムで、アーケストラ側にもこれから聴き始めるリスナーのために、サン・ラの音楽のエッセンスをすっきりとまとめたアルバムをという意図があったでしょう。本作がライヴ盤ながらコンパクトな好作となったのは良い意味でコマーシャルな、しかし妥協なく、最新のサン・ラ・アーケストラのサンプルとなるようなアルバムをRecommended Recordsのリスナーに提供しようという工夫が凝らされたからと思われ、その意図は見事に成功しています。本作自体はこの1作だけでは何となく物足りないアルバムですが、サン・ラ・アーケストラはどういう音楽をやっているバンドか、他のアルバムにも手を伸ばしてみようと食指をそそられるだけの内容があり、また本作を聴いて興味が湧いて代表的な旧作・新作を聴いても納得のいくだけの多彩さが凝縮されています。本作は1997年にRecommended Recordsの主宰者のひとり、クリス・カトラー(ドラムス、ヘンリー・カウ~アート・ベアーズ)の書き下ろしライナーノーツを添付して初CD化されており、カトラーのライナーノーツも本作のリリースの背景を明かして興味深い、サン・ラへの敬意と理解に富んだものです。つたない直訳で恐縮ですが、ほぼ全文を訳して掲載しておきましょう。
「'70年代後半~'80年代初頭にかけて、レコメンデッド・レコーズは多くのサターン・レコーズのアルバムをヨーロッパ諸国に輸入販売していました。アーケストラは注文のたびにアルバムを追加プレスし、私はニューヨークに出向く機会がある都度それを受け取っていました。私たちは常にアーケストラの経済的貧窮を補うために前払いしていました。そして、とうとうアルバムの在庫が底を尽く時が来ました。アーケストラは緊急に現金を必要としていて、私たちもそこにいたので、バンドはそれを使いました。私はほとんど怒ることはできませんでした--アーケストラ(箱舟楽団)を沈まないようにするのはいつでも綱渡りの奇跡でした。--しかしレコメンデッドも裕福ではなく、そのような経済的損失は私たちにとっていつまでも持続するのは不可能でした。寛大な妥協の精神から、サン・ラはまだプレスが準備中だったLPの代わりに『Cosmo Sun Connection』のマスターテープを提供してくれたので、レコメンデッドは本作を1985年に小部数リリースしました。この伝説的な録音が陽の目を見たのはそれが初めてのことでした。」
(クリス・カトラー)
(旧記事を手直しし、再掲載しました。)